無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

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厚労省が検討する自立と判断するための評価基準作り

 安倍政権の中でも、自立支援介護を採り入れる声は強く、昨年11月に開かれた国の「未来投資会議」で前向きな議論が展開された。安倍首相自身が介護制度の「パラダイム転換を起こす。介護が要らない状態まで回復を目指す」と発破をかけ、自立支援の効果を反映した体系への見直しを迫った。

 今春成立した改正介護保険法「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」でも、「自立支援等の施策」として、市町村の取り組むべき施策に含まれた。

 厚労省が目下検討しているのは、自立と判断するための評価基準作りだ。要介護度の改善だけでなく、利用者ニーズの満足度など他の指標をどのように盛り込むかだ。今のところ対象者は要介護3以下の中軽度者となりそうだ。

 そして問題なのは、自立支援に消極的な事業者への報酬引き下げ、ディスインセンティブ・プランである。その評価基準も模索中だ。

 そもそも介護サービスを利用するのは老衰による心身の機能低下を抱えた高齢者である。老衰は日増しに進み、死に至るのは大自然の摂理であり、生物はそのような生理で地上に存在している。

 どのように上等のケアを提供しても、老衰は誰にでも平等に訪れる。介護保険法第1条では「自立した日常生活を営むことができる」ことを法の目的としているが、その直前に「その有する能力に応じ」と記されている。ここが重要だ。

 自立支援介護を徹底すれば、だれでも介護保険を「卒業」できるものではない。「有する能力」は加齢とともに低くなる。低くなった能力を補うのが介護保険サービスである。つまり「介護保険サービスを使いながら、自立した日常生活を営みましょう」というのが正しい理解だろう。

 高齢者の要介護度が軽くならないのは、死に向かっているから当然ということが多い。それを「自立支援に消極的」と判断されてはたまらない。栄養分や水分、運動を無理矢理に提供するのは、決して自立支援介護とは言えない。虐待につながりかねない。

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次に、服薬援助の実態だ。

「利用者の多くは複数の病気を抱え、血圧の薬や心臓疾患の薬、糖尿病などの薬を服用しています」。その通りだろう。そこで「飲んだか飲まないか忘れてしまう初期の認知症には」「食後食間の1日3回の訪問が理想です」と、ヘルパーが必要とされていることを強調する。

「インシュリンの自己注射をする利用者の場合、ホームヘルパーは見守りで、目盛りの確認と注射を促すことが求められ、こちらも訪問回数が多くなります」

 こうした難易度の高い支援活動には、現行制度の維持が必要とし、両団体は制度改変に反対する。


 次の論点(2)は、デイサービスでのリハビリ重視策である

身体機能などの回復を目指す訓練計画を利用者と一緒に作成すると、報酬を手厚くする。

 現行制度でも、作業療法士(OT)や理学療法士(PT)などリハビリ職を配置した事業所には報酬が加算されているが、小規模の事業所ではなかなか直接に雇用するのは難しい。そこで、病院などに努める外部のリハビリ専門職が事業所の職員と一緒に訓練計画を作成すれば同様に加算を付けることにする。


 多くの事業所がリハビリによる自立支援を目指し、利用者の要介護度が軽くなれば介護保険費用の軽減につながるということだ。

 同じような狙いで始まるのが(3)の自立支援介護の良し悪しによる評価である

介護保険法の1条、2条にあるように、介護保険は「自立した日常生活を営むことができるよう」にするのが目的であるとして、できるだけ自立に近付けた介護事業所を高く評価し、そうでない消極的な事業者の報酬を下げていこうという案である。

 既に自治体レベルでは先行している。東京都品川区では、2013年度から要介護度が1段階軽くなれば、その事業所に対して1人当たり1ヵ月2万円を支給している。要介護度が4から2になれば、2段階アップなので4万円となる。品川区が独自に設けた制度で区の一般財源から賄っている。

 対象者は、特別養護老人ホームと介護付き有料老人ホーム(特定施設)、老人保健施設の入居施設の入居者である。2015年度は98人が該当し、1438万円交付した。

 岡山市の呼びかけで、こうした自治体が集まり「評価サービス質の評価先行自治体検討協議会」を立ち上げ、厚労省に制度への導入を陳情している。

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厚労省は11月1日に開いた厚労相の諮問機関、社会保障審議会介護給付費分科会で大幅な人員基準の緩和案を示した。

 現行制度では、ヘルパーとして働くためには、介護福祉士か130時間の「介護職員初任者研修」の受講終了が資格要件。これを、サービス提供時に観察すべき視点や認知症ケアの習得などに重点を置いた短期の基礎研修に切り替える。

 研修レベルを下げて、元気な地域の中高年層や子育て後の主婦、あるいは短時間勤務を望む育児中の親らを新たな担い手に迎えようという狙いだ。現場の人手不足を和らげる効果も期待されている。従事者の専門性は低下するが、新規参入のすそ野を広げる。



「生活援助」専門ヘルパーの導入について、厚労省が示した考え方。「富士山型」でヘルパーの増員を狙う(出所:厚生労働省資料) 拡大画像表示

一方、身体介護は従来通りに現行のヘルパーが担うことになる。リハビリテーションとの組み合わせなど自立支援に寄与すれば報酬を手厚くする。

 また、生活援助サービスの中で、利用者と一緒に掃除などを行えば、身体介護として算定してより高い報酬とする。日常生活に必要な機能の維持・改善に寄与するためだ。

 規制緩和されたヘルパーの介護報酬は当然のように下がり、その1割負担を支払う利用者の負担も軽減する。介護報酬の切り詰めと人手不足の解消という一挙両得のプランのように見えるが問題点も抱える。

 まず、基準を緩和すれば担い手が集まるという目論見だが、報酬が下がってしまうと当然時給は下がるので魅力が薄れ、かえって人が集まり難くなるのでは、と懸念される。

 それは既にスタートしている「新しい総合事業」で証明されている。要支援1と2の軽度者向けの訪問介護と通所介護を介護保険制から、地域自治体の事業に移すのが総合事業。その中核となるのが、地域のボランティアや近隣住民などが担い手となる「訪問型サービスB」と「通所型サービスB」である。

 ところが、3年前から移行が始まっているものの、この「B型」を実現させている自治体は極めて少ない。地域住民の関心が薄く、なかなか事業として成り立ち難いのである。「困っているときはお互い様」というボランティア意識は、言うは易く行うは難いのが実情だ。

 もうひとつ、この緩和型訪問介護の問題点はケアの専門性がかなり落ちてしまうことによる弊害だろう。生活援助のヘルパーには、実は重要な職務があり、現実にきちんと担われている面を見逃してはならない。

 市民団体の「介護保険ホットライン企画委員会」(共同代表・小竹雅子、小島美里、林洋子の各氏)と「介護労働ホットライン実行委員会」(共同代表・弁護士の大江京子、井堀哲、藤澤整の各氏)は11月1日、ヘルパーたちの具体的な活動を列記し、この新制度に反対する要望書を加藤勝信・厚生労働大臣に提出した。

 要望書では、利用者の心情に配慮した熟練ヘルパーの以下のような仕事ぶりを取り上げている。

 独居の認知症の方の冷蔵庫には、賞味期限切れや腐敗した食品が多い。といってヘルパーは「本人に無断で捨ててはいけない」と指摘し、「利用者本人にひとつずつ食材の確認を取りながら、『捨ててもよい』」と言われたものだけを捨てます」と丁寧な対応が必要と記す。

「食べたら危険と判断したものは、なるべく冷蔵庫の奥に『隠す』ことがポイントで、利用者が手に取りやすい場所に安全な食材を置きます」と細かい手法を示し「訪問するたびに、これらの行為を繰り返し、いつしか食べられないものが少なくなる、という過程が重要になります」と説く。

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