無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

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区分支給限度基準額の中で、利用者の公平性も勘案

 23日の介護給付費分科会では、「区分支給限度基準額」についても議論が行われました。

在宅の要介護者では、介護サービスの濫用を防ぐことなどを目的に、要介護度別に「暦月1か月当たりに利用可能な介護保険サービス量の上限」が設定されています。一方で上限を超えた介護サービスを求める利用者には、超過分を全額自己負担で利用できる「混合介護」が認められています。

区分支給限度基準額の概要
区分支給限度基準額の概要
 
ところで、訪問介護などでは、事業所と同一敷地内・隣接敷地内にある建物(有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など)に居住する利用者では、過度なサービス提供を防止するために「報酬を減算する」仕組みがあります。しかし、現在は区分支給限度基準額の中では「減算された報酬」で費用を算定しているため、同一敷地などの建物に居住する人では、結果として多数回の訪問系サービス受給が可能になっているのです。
集合住宅における介護報酬減算の概要
集合住宅における介護報酬減算の概要
 
例えば、同一敷地内などの建物の訪問介護を行う場合には10%報酬が減額されます。区分支給限度基準額の中でも10%減額された報酬をもとに「上限に達していないか」を計算するので、同一敷地内などの建物居住者では、そうでない人に比べて、制度上「10%多く、訪問介護などを受けられる」のです。


鈴木老人保健課長はこうした不公平を是正する必要があるのではないかと提案。多くの委員も不公平は好ましくないため「区分支給限度基準額に係る費用の算定においては、減額前の報酬で計算すべき」との見解を示しています。

ただし、小原秀和委員(日本介護支援専門員協会副会長)は「重度の在宅要介護者では、多数回のサービスが必要となる。要介護度など、利用者の状況を見たきめ細かな対応が必要ではないか」と注文を付けています。

なお、通所系サービスでも同一敷地内などの建物居住者では報酬の減額が行われますが、これは「送迎などを行わない」というコスト減に鑑みたもので、厚労省老健局老人保健課の担当者は「これを区分支給限度基準額の中で勘案するのは、かえって不公平を生むのではないか」との考えを述べています。上記の見直しは「訪問系サービス」を念頭に検討されることになりそうです。

 
 介護給付費分科会では、2018年度介護報酬改定に向けた第1ラウンド議論を今回で終えています。次回・次々回に関係団体からヒアリングを行い、その後、第2ラウンドの具体的な議論に入る見込みです。

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<前回に続く>

介護ロボット活用した負担軽減、介護報酬や人員配置基準にどう組み込むか

 介護職員の処遇改善は「介護人材の確保・定着」を目指すものですが、介護人材確保策の一方策として、政府は「介護ロボットなどの活用」を掲げ、社会保障審議会・介護保険部会では「ロボット・ICT・センサーを活用している事業所に対し、介護報酬や人員・設備基準の見直しを検討してはどうか」と提案しています。

介護ロボットの概要

介護ロボットの概要


 例えば、介護ロボットを活用する事業所では、スタッフの負担軽減が期待できるために加算などで「報酬上の評価」を行うことや、負担軽減に鑑みた人員基準の緩和を行うことなどが検討テーマとなり、鈴木老人保健課長は、2018年度改定に向けて「介護ロボットの活用」に関する議論を行うよう要請しています。


この点、「介護ロボットの活用でスタッフの負担軽減が図れるといったエビデンスがあれば、2018年度改定での対応が考えられる」との意見が出ていますが、齋藤訓子委員は「安全性の確保を十分に検証すべき」と述べ、拙速な議論を牽制しています。

なお厚労省では、現在40の介護施設などで、介護ロボットの活用に関する検証事業を行っており、近く、介護給付費分科会に結果が報告される見込みです。

<次回に続く>

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<前回に続く>

このうち加算IVと加算Vについては、要件が緩く設定されており、とくに加算Vでは要件をキャリアパス要件I・II、職場環境要件のいずれも満たさなくとも取得できることから、従前より「単なるバラマキではないか」と存続を疑問視する声が出ていました。両区分とも、取得率は1%前後にとどまっています
介護職員処遇改善加算の取得状況
介護職員処遇改善加算の取得状況
 
 23日の介護給付費分科会でも「2018年度の次期介護報酬改定で廃止すべき」との意見が多数でています

鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、「これまでは(キャリアパス要件などを整えるための)猶予期間と言えるのではないか。経過措置を設けた上で廃止すべき」と明言。齊藤秀樹委員(全国老人クラブ連合会常務理事)や齋藤訓子委員(日本看護協会副会長)も同旨の見解を述べています。

 これに対し、伊藤彰久委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)は、「介護職員の処遇改善は安倍内閣の提唱する『一億総活躍社会』の重要な柱で、加算IVとVもその中に含まれる。加算IVとVを取得する事業所は小規模な介護療養、介護老健、通所介護、認知症高齢者グループホームなどで、これらの切り捨ては認められない」と述べ、廃止論に強く反対しました。

介護職員の処遇改善、加算で対応するか、基本報酬に組み込むべきか

介護職員の処遇改善については、「介護職員の給与水準を維持・改善するために、使途を限定した加算を維持すべき」という意見と、「介護職員の給与水準などは各事業所で考慮すべきであり、使途の限定は好ましくない。基本報酬で対応すべき」という意見とのがあり双方があります。

介護報酬改定の都度に、この点について議論されていますが、結論は出ていません。厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は▼対象費用▼対象職員の範囲―も含めた『あり方』を論点の1つに掲げ、2018年度改定に向けた議論を要請しています。

井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)や及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会副会長)は、加算IとIIで取得率8割となっている状況などに鑑み、処遇改善加算の現場への浸透が進んでいると判断。「基本報酬に組み込む時期に来ているのではないか」との見解を示しています。

一方、伊藤委員は「加算であるから処遇改善が可能になったとの声も聞く。確実に処遇改善に結びつく『加算』として継続すべき」と強く求めており、秋以降も熱のこもった議論が続きそうです。

特定職種の給与増に介護保険財源は使うべきでないとの意見も

なお、この点に関連して本多伸行委員(健康保険組合連合会理事)は、「介護職員を含めて従業者の給与水準は、本来、労使が交渉して決定すべき事項である。特定の職種を指定して、介護保険財源で処遇改善に向けた手当はすべきでない」と述べ、処遇改善加算の廃止を求めています。

介護職員よりも給与の低い国民も介護保険料を負担しています。その方にとっては、「自分の負担する保険料で、自分より給与の高い介護職員の給与増を行う」ことになり、本多委員は「到底、理解が得られない」と従前から主張しており、23日の介護給付費分科会でも強い調子でコメントしました。

一方、武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「本多委員の主張する労使での決定は理想的であるが、これまでの処遇改善加算によっても介護職員は不足している。処遇改善加算を廃止して介護職員がさらに不足してしまっては本末転倒である」と述べ、理解を求めました。

前述の「処遇改善の在り方」と関連して、2018年度介護報酬改定における最重要論点の1つとなりそうです。

<次回に続く>

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