親が「認知症」になる前に知っておくべき財産管理の問題
吉永麻桔
:フリーライター
最近物忘れがひどくなった、同じことを何度も聞いてくる…。このような症状が親に見られるようになったら、認知症を疑うべきだろう。とかく自分の親となると気のせいだろうと目をそむけてしまいがちだが、親に認知症になったときにまず一番困るのが財産の管理だ。何が問題で、いったいどう対応すればいいのか。(取材・文/フリーライター 吉永麻桔)
認知症が疑われたら、
成年後見制度を利用しよう
親が認知症になったときに気を付けたいのが財産管理の問題だ。一番身近な例をあげれば、銀行の預金。息子や娘が「親に一任されているから引き出したい」と言ったところで、銀行は応じてくれない。たとえ通帳と銀行印を持っていたとしても。
本人の意向が確認できないかぎりは、預金の引き出しはできないことになっているのだ。つまり親本人が同行できなければ委任状を書いてもらわなければならない。「認知症が進んでしまって、委任状を書くどころではない」そうやって頭を抱えてしまう人もいるのだという。
日本の民法では、お金の管理や契約などの重要なことを自分で判断できない人のために、「成年後見制度」を設けている。親に認知症が疑われたら、まずはこの制度を利用することを考えたほうがいいだろう。
この制度を利用するには、まず家庭裁判所へ申し立てをしなければならない。通常申し立てをしてから、成年後見人が決まるまで2ヵ月ほどかかるので、認知症という診断がすでに出ているのであれば、早めに対応をしたほうがいい。
自分で申し立てをするのなら、費用はだいたい5000円から1万円ほどだ。しかし親の戸籍謄本、戸籍の附票、今まで後見制度を利用していないかを確認するための登記事項証明書の取得、認知症であることの診断書など、そろえる書類が結構多い。
しかも「後見制度を利用していないかを確認する登記事項証明書」などという、なじみのないものもあるので面倒だ。
また申し立てをする家庭裁判所は、申立人の住所地ではなく、親の住所地を管轄する裁判所になる。親と離れて暮らしている人にとっては、距離的な負担も出てくるだろう。仕事が忙しく時間がない人は、法律の専門家を代理人にするのもひとつの方法だ。
息子や娘だからといって、
後見人になれるわけではない
成年後見制度を利用しようと申し立てをする場合、申立人本人が後見人になろうと希望する人が多いと思う。もちろん家庭裁判所に希望をいうことはできるのだが、必ずしも裁判所は、希望通りにことを進めてくれるわけではないようだ。
裁判所が後見人を選ぶ基準は、あくまでも「本人のためになるのかどうか」ということ。例えば申し立てをするきっかけになった出来事が、不動産の売却など重大な法律行為であったり、それまで疎遠だった息子が急に申し立てをしてきた場合は、法律の専門家などの第三者を選任することがあるという。また、親をめぐって子どもたちの意見が対立していたりするときも、第三者が選ばれることが多いという。
その昔、親が認知症になって後見人を立てるといえば、長男や長女などの身内がなることが多かった。しかし後見人が財産を使い込んでしまうというトラブルが多く発生し、制度そのものに信用性がなくなると懸念されていた。
そこで2013年頃から、国と銀行が協力して「後見制度支援信託」という制度が登場するようになった。
この制度を簡単に説明すると、後見人が決定した時点で、手元においておかなければいけないお金と当面必要のないお金をはっきりさせ、必要のないお金を信託銀行に預けるシステムだ。一度預けると、家庭裁判所の許可がないかぎり、後見人でさえも引き出すことができない。当然後見人による財産の使い込みがなくなるというわけだ。
第三者を後見人にしたくないと考える最大の理由は「大金をこの人に預けて大丈夫なのか」ということ。その不安を払拭するには十分なシステムである。ただし預けられる財産は、金銭のみで不動産はダメだということと、最低1000万円から預け入れが可能だというところは注意が必要だ。
認知症の高齢者が、高額の買い物をしたり、騙されて不動産を売ってしまったりというトラブルは相変わらず多い。また親の認知症を利用して、子どもが自分のいいように親が所有する土地の名義を変えてしまったりすることもある。こうしたことが起こらないように、日ごろからメールではなく、きちんと話をして親とコミュニケーションをとっておくことが大切だ。