無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

親が「認知症」になる前に知っておくべき財産管理の問題

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<前回に続く>

生活保護の「適正化」を約束するなら
「漏給」も同時になくす必要がある

 今回、お笑い芸人の母親の生活保護受給問題を追及した片山さつき議員が所属する自民党は、次期選挙に向けた政策の中で、生活保護費の給付水準1割カットや医療扶助の適正化を打ち出している。

これに対して、小宮山洋子厚労大臣は「自民党の提起も踏まえて、どう引き下げていくのか議論したい」と発言し、同調する姿勢を見せている。

 生活保護費が年々上昇しているのは事実だ。しかし、国民全体の利用率は1.6%に過ぎず、ドイツの9.7%、イギリスの9.7%、フランスの5.7%に比べても非常に低い水準だ。

 さらに、本当は生活保護を利用しなければならいほど生活が困窮しているのに、我慢をして申請していない「漏給」者は現状の2~3倍はいると言われている。

 生活保護は憲法25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」という条文を具現化するもので、国家が国民に果たすべき約束だ。「適正化」を謳うのであれば、これまで捕捉されていなかった困窮者も掘り起し、困っている人すべてに生活保護を届ける必要があるのではないだろうか。

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<前回に続く>

精神科医療の見直しが
生活保護費削減のポイント

 そもそも、日本の精神科医療は、諸外国に比べて入院期間が飛び抜けて長い。

 精神障害のある患者は、入院が長引くほど自分で生きようとする力を失い、地域社会で生活するのが難しくなる。諸外国では精神疾患の治療はできるだけ入院させずに、通院しながら地域の中で改善を図るのが主流となっている。

ところが、日本では長い間、精神疾患は病院に収容するという政策がとられてきた。その影響で、地域に精神障害のある患者を受け入れる社会的資源が少なく、いまだに入院中心の医療が行われている。

 それは、精神科の平均的な入院日数が、OECD諸国が18.1日なのに対して、日本は298.4日という驚くほどの差があることからも明らかだ(OECD Health Data 2008「2005年診断分類別精神及び行動の障害」、厚生労働省平成17年「患者調査」より)。

 精神科への入院は、認知症を患っている単身高齢者も多い。医療は必要ないけれど、地域や家に帰っても面倒を見てくれる人がいないために、病院がその受け皿となっている社会的入院だ。

 医療扶助を押し上げる大きな原因は、こうした精神疾患や単身高齢者の長期入院だが、生活保護受給者に限った傾向ではなく、日本の医療制度の歪みが生活保護を通じて浮き彫りとなっていると考えるべきだろう。

 本来なら地域や社会が受け入れるべき患者が入院を余儀なくされているのは、国の財源もさることながら、なにより本人の尊厳にもかかわる問題だ。

 国は、医療扶助を適正化するために、医療費の請求の点検の強化、生活保護の指定医療機関への適正な指導、ジェネリック医薬品の利用促進、向精神薬の投与の適正化などを打ち出している。

 だが、本気で医療扶助を削減したいのなら、日本の医療制度にまで踏み込んだ改革をしなければ、根本的な解決は図れないだろう。

 とはいえ、現状では精神障害がある患者を地域で受け入れる社会的資源が足りない状態だ。受け入れ態勢を整えないままに、ただ生活保護費を削減したり、医療扶助に自己負担金を導入したりすれば、行き場を失った受給者たちが、より悲惨な目に遭わないとも限らない。

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