東京都は昨年度から訪問看護未経験者を採用する事業所への支援を始めた。育成の助言や、採用職員1カ月分の給与と研修費を補助する。担当者は「小規模な事業所が多く、育成者への指導は好評。訪問看護師をより増やしたい」とする。
国は、患者の療養の場が「病院」から「地域」へ移行するよう促しており、25年に向け訪問看護サービスをさらに拡大したい考えだ。だが、看護職員のうち病院・診療所で働く人が8割を占め、訪問看護は2%にとどまっている。
一方、訪問看護を希望する看護学生も実際に新卒で就く人は少ない。聖路加国際大大学院の山田雅子教授は「学生が希望しても『まずは病院で』と反対する教員もいまだに多い」と説明する。
それでも、新卒の訪問看護師を受け入れる事業所は少しずつ増えている。山田教授は「病院と在宅では求められるケアが異なる。新卒から訪問に取り組むことで、生活支援のプロとしての力を持つ人材の育成ができる」と話した。
育成者養成へ講座 聖路加国際大など
14年度の全国訪問看護事業協会の調査では、過去5年に新卒で訪問看護師を採用した事業所は、回答1420事業所の2%(35事業所)。新卒採用に関心がある事業所も23%あったが、育成の労力などに不安があり、踏み切れていないという。
新卒から育てるには適切な指導者が不可欠だ。14年には、聖路加国際大や訪問看護事業者などでつくる「きらきら訪問ナース研究会」が結成され、育成人材の研究や普及の活動に取り組んでいる。
同研究会は7月、事業所などを対象とした育成者養成講座を初めて開催。4回の講座には、新卒採用を検討中の事業所も含め22人の担当者が参加する。
一方、新卒訪問看護師自身も15年に「全国新卒訪問看護師の会」を結成した。新卒同士が交流し、学び合うことでキャリアを広げるのが狙いだ。会員は新卒訪問看護師や志望学生など約90人で、月1回、勉強会や交流会を開く。
代表の小瀬文彰さん(26)は都内で働く訪問看護師で、13年に新卒採用された。当時は自分と同じような「新卒」と出会うことがなく、情報交換をしたいと思ったのが会のきっかけだ。小瀬さんは「新卒者就業やキャリア普及の課題も多い。情報発信や研究を重ね、新卒訪問看護師を当たり前のキャリアにしたい」としている。