今日の内容で一応、今回のテーマを終了したいと思います。最後のケースは、
ケース5:医療と介護の連携がうまくいかなかったケースです。
医療法人が取り組む高専賃も運用面においてどうしても陥りやすい問題点があります。
それは、医療と介護の連携をいかに現場で取るかということに尽きます。医療法人が取り組む
と、どうしても病院にしてしまう傾向が強いです。
高齢者住宅のK.F.S(成功要因)は高齢者の賃貸住宅という器の中で、24時間のコンシェルジュ
サービス(生活支援サービス)を中心として、いかに、介護サービスや、医療サービスを付け加え
るかがポイントとよく講演でお話をさせて頂きますが、どうしてもこれが医療を中心に全てを考え
てしまう傾向があります。
特に医療法人が運営する高齢者住宅は、医療依存度の方々が中心となりますので、現場は
どうしても看護師を中心として回る傾向があります。そうなりますと、介護が肩身の狭い思いを
してしまい、疎外感を感じてしまうといった問題が生じて参ります。
今回のケースもそうでした。現場に置いて、生活ー介護ー医療といった総合的サービスについて
全くの新規事業であるだけに、特にトップに立つ管理者において、綜合プロデュースする範疇が
広くて、きちんとしたマネジメントができないということが起きてしまいました。
トップに立つ人間がそのような状況ですので、当然、現場においてはそれぞれがそれぞれの
立場で動くのですが、一体感がなく、おまけに、介護と看護の現場での主導権争いが起きて
しまいました。このようなケースは医療法人の場合には多々見受けられます。
その結果、介護スタッフが次々と辞めていくということが起きてしまいました。ましてや、居宅支援
事業所のケアマネがついていけません、とケアの中核的な人材が辞めると言うことになりますと
これは緊急を要することになります。どうしても全体を把握できる司令塔が必要になるのです。
最初に作った組織がうまく機能する保証はありません。具体的な作業を通して出てくる問題点
や組織固有の問題点が出てまいりますので、実践現場にて動かしながら、軌道修正をおこなって
行かざるを得ません。
今回の場合は弊社の取締役が一時的にその司令塔として入ることで、一連の流れを再度構築して
ゆきました。即ち、取った手立ては次の通りです。
①高齢者住宅における入居者の日々の生活、過ごし方を前提としてたケアプラン(第3のケア
プランの作成指導を再度行う。
②第3のケアプランに基づく人員体制を構築し、シフト表を作成して各部門関係者の行動の
整合性をつける。
③複数の部門における連係プレーが要求されるものであり、関係者のコミュニケーションルール
の再構築を行う。具体的には会議体系を整理し、会議を通して調整を図っていく。
④組織が機能的動けるように、係を決め、役割分担を明確にする。
⑤コンプライアンス上の問題がないように、書類整備のルールと統一する。
これらの取り組みを現場で行いながら独り立ちできるだけの体制を構築して参りました。約半年
近くの支援を行い、軌道にのせました。
<次回最終まとめ>
2010年09月
医療法人が取り組む高齢者住宅の問題点4
前回に続き、医療法人が取り組む高齢者住宅の問題点を事例を通して解説します。
ケース4:営業の取り組みがわからず入居者募集が停滞していたケース
これまでの事例と異なり、ハードや事業コンセプトは間違っていなくても、営業の仕方が
わからずに入居が遅れていたケースです。
医療法人の弱点の一つに、営業という概念が乏しいという視点です。それは当然でしょう。
医療行為に営業活動はほとんど伴いません。むしろ営業活動をしてはならないという
不文律があり、そのノウハウの蓄積がありません。
この医療法人も同じです。廃校になった学校を自治体から買い受け、改築をして住宅型
有料老人ホームを立ち上げたのですが、当初期待をしていた行政の入居者支援もなかなか
得られず、孤立するという状況が続いておりました。
高齢者住宅事業においては営業活動は極めて重要になります。医療法人がやっているから
入居者が保証されるものではありません。金額やサービス内容、そして、営業の仕方によっ
て入居スピードは大きく異なります。
価格面や医療体制の構築など、差別化要素は色々とあります。特にロープライスであれば
入居は直ぐに決まるでしょう。又、24時間の医療体制がついた、医療依存度の高い方も
引き受けるというような圧倒的差別化要素をもっていれば、これも入居は早いでしょう。
それほどの圧倒的な競争力を持たないのであれば、どうしても一定の営業活動は必要に
なります。その時にどのような営業活動を行うのかのノウハウをもっていないケースが
医療法人には多いのです。この医療法人も同様でした。商品力の弱さは営業力でカバー
しなければなりません。一般企業の戦略では商品力と営業力は車の両輪なのです。
営業活動には次の4つの管理が必要です。
①営業企画管理
販促企画をどのように打つのか、その進捗管理を含めて営業企画管理 のやり方を習得
せねばなりません。絶えず、企画先行でいかねば、案件は上がってきません。
②商品管理
狙いとする顧客に対して、どのようなサービスを提供するのか、受入基準表を作成し、どの
ような方を受け入れることができると宣言せねばなりません。
③顧客管理
営業活動は顧客の創造活動です。顧客を創造するには、探客(たんきゃく)と追客(ついきゃく)
の2つがあります。企画を先行させ、探客を行い案件数を確保する。その案件に対して
追客をしていく、そのプロセスを管理するのです。
④営業マン管理
探客、追客の件数を確保するのは企画先行にて案件数を発掘するのと、もう一つは、
営業担当者(生活相談員)の営業工数(時間数)の確保と訪問件数を確保せねばなりませ
ん。営業マンの活動量に案件数は比例します。活動管理を行う必要があります。
以上の管理活動を行う、営業マネージャーの役割が必要なのです。営業のやり方をきちん
と教え、そのプロセスを管理する。そのようなやり方を習得せねばなりません。
上記の医療法人では、弊社がその営業マネージャーを一時代行することで、成果を上げる
ことができました。そのツールとしては日報が重要な役割を果たしました。一定の書式にて
案件管理と営業活動管理を行い、メールで理事長始め関係者に配信することで、情報を
共有していきました。営業と受けれ体制のコミュニケーションこそ最も重要なのです。
このような活動を地道に行うことで2ヶ月~3ヵ月で確実な成果が出て参りました。
<次回に続く>
医療法人が取り組む高齢者住宅の問題点3
前回に続き、医療法人が取り組む高齢者住宅事業の問題点を事例を通してみてみ
たいと思います。今回は、
ケース3:運営ノウハウの欠如とマネジメントの欠如のケースです。
医療法人が運営する住宅型有料老人ホームにおいて、運営面で完全に行き詰った
けケースです。小規模の高齢者住宅とデイケアを運営をしておられましたが、その
運営において重大な問題点がありました。
管理者は病院側で設置をしておりましたが、介護は専門家を雇ってやってもらうとい
う方針で、そのマネジメントを完全にゆだねてしまいました。居宅支援事業所を併設
しておりましたので、その運営についてはケアマネにお任せになってしまい、管理者
不在という状況になりました。
現場では住宅型有料老人ホームの運営について熟知したものがいなかった為に、
そのケアマネの言うとおりになっていったのです。どういう問題が起きたかと言うと
住宅型という特殊形態でのケアプランの作り方をそのケアマネがしらなかったところ
から悲劇が始まりました。
経営者としてはできるだけ、介護保険を取ってほしいという要望をあげるのですが、
一般の在宅でのケアプランの作り方しか知らないケアマネにとっては、それは無理
に介護保険を使わせようという悪徳経営者にしか映らなかったのです。
住宅型や高専賃でのケアプランの作り方は弊社の取締役の宮地がいつも言うように
施設系のケアプランや訪問系のケアプランとは異なる第3のケアプランの作り方が
必要なのです。しかし、そのケアマネージャーにはその作り方がわからなかった為に、
無理に介護保険と取らせようとしているとしか映らなかったのです。結果、次々と
ケアマネが辞めていきました。
そして、その最後のケアマネが行政に介護保険の取り方に問題ありと告発をしたの
です。そして、病院側はその管理責任を問われたのです。
地域のケアマネと連携を取り、高齢者住宅におけるプランの在り方について、その
意味するところを十分に理解を得て取り組みをしていたら、又、そのケアマネに
初期段階できちんとした教育ができていれば、事はここまで大きくはなかったかも
しれません。
高齢者住宅のおける医療と介護をどのように提供していくのかのノウハウを事前に
構築して、それをマネジメントする仕組みが必要なのです。
<次回に続く>
医療法人の取り組む高齢者住宅の問題点2
前回に続いて問題の事例をみてみたいと思います。
ケース2:建築コストを度外視したコンセプトの曖昧な高齢者住宅の事例
ある医療法人が作りました高齢者住宅は、何と坪単価が80万というものでした。
診療所+デイサービス+訪問介護事業所+居宅支援事業所+64室の高専賃を
作られましたが、思うように入居が進みませんでした。
その理由の一番は、立地は確かに良いのですが、月額が17万5000円と割高感
があり、その割に、提供するサービスが明確ではなかったことです。
お部屋は基本的には18㎡ですが、大きなお部屋は25㎡といった具合で、介護から
自立の方々が一緒に住めるものとなっていました。近くには同じ金額で直ぐに入居
が入った医療法人が取り組む高齢者住宅もあるのですが、なかなか入りませんでした。
17万円台でも重度の医療依存度の方々まで引き受けて、24時間の医療と介護がつい
ている高齢者住宅と異なり、同じ程度の月額利用料であっても、そこまでの医療体制と
介護体制ができておりませんでした。只単に、診療所がついておれば高齢者が入って
くるものというものではありません。
おまけに、建物は高齢者住宅でありましても、医療依存度、介護依存度の方々を明確に
意識したものでありませんでしたので、高専賃といえどもスプリンクラーがついていないと
いうものでした。必要になれば付ければ良いというコンサルの言葉で除外しておりました。
(消防署で確認をしましたが、要介護の高齢者が過半数以上の場合は、スプリンクラー
の設置は必須との判断)
医療も訪問診療体制ができているわけでもなく、緊急時の入院ベッドもありませんでした。
建築コストが高いものですから、当然、家賃はそれだけ高いものになってしまいます。
坪80万で建築をするならば、当然、重度対応までできるだけのハード仕様が必要に
なりますし、徹底的に医療依存度、介護依存度が高い富裕層をねらったものにしなけ
ればなりません。
即ち、金額の割に、商品力が乏しいのです。中途半端なコンセプト、ハード仕様が一番
まずいのです。何度も言いますが、診療所がついているから入るものではありません。
そのサービス内容が問題なのです。ハード、ソフト、価格の一体的なコンセプトメイクが
不可欠です。
<次回に続く>
医療法人の取り組む高齢者住宅の問題点
医療法人が取り組む高齢者住宅が増加傾向にありますが、これまでいくつかの
失敗事例をみてきていますので、陥りやすい過ちについて何回かに分けて報告
をしておきたいと思います。
一番の失敗ケースは、誰をターゲットにした高齢者住宅かということです。
医療法人が取り組む高齢者住宅は、事業的にみても、又、そのニーズからみても
決して自立系を中心としたものではないと思うのです。これまでの、失敗事例の
多くは、自立型の高齢者住宅を作ってしまったというものです。
ケース1:クリニックが近くに自立型女性専用の高齢者住宅を作って入らないケース
自立型といえども部屋の広さは18㎡と狭く(自立型は最低でも25㎡以上が求めら
られます)、訪問介護事業所は併設されておりません。病院がやっているので、
安心だからといって、自立の高齢者が入るものではありません。又、女性専用の
高齢者住宅もあまりないのでニーズがあるであろうという根拠のないものです。
おまけに、料金も少し高めに設定されています。
問題は、どのようなサービスが付いているのか、特に、病院が運営する高齢者住宅
には多くの高齢者が期待するのは、やはり医療サービスなのです。
医療がやっているから安心だから自立型でも入るという過信がありました。
このケースでは、クリニックの外来診療に大変忙しいので、夜間までは勘弁してほしい
という院長の強い意向で、自立型になってしまったということです。医療法人の最大の
強みである医療の充実を封じては流石に勝負になりません。案の定、開設後3カ月たって
も入居はゼロ。
このケースでは、再度、コンセプトの再設計から改革に取り組みました。ポイントは
次の4点です。
①18㎡に自立型はニーズが弱いので、介護・医療型に転換したこと。
②重度対応まで受け入れ可能としたこと。
③その為に訪問介護事業所を併設、1階にデイケアとの一体的活用により充実した
ケアの体制を構築したこと。
③料金を下げ、訪問診療による医療報酬と介護報酬のW報酬で、トータルとしての
収益確保を狙ったこと。
<次に続く>