無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2010年11月

(前回に続く 最終回)
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わが国の社会医療法人の多くが政策医療を担いながら黒字なのは、垂直統合により医療政策変更と医療技術進歩に合理的に適応し、患者囲い込みができているからだと考えられる。これに対して公立病院は、同じ地域医療機関の中にある病院同士で設備投資競争を行い、医療ニーズの変化に適応できていないでいる。

わが国の場合、国所管の病院群もバラバラ経営である。国立病院(病院数144)、社会保障病院(同51)、労災病院(同34)は水平統合にすぎないため、患者情報の共有による医療の質と費用対効果の向上といったシナジー効果が働かないと指摘する。

この問題を打開するには、国公立病院を地域医療圏単位で経営統合して医療公営企業を設置し、新規投資については機能重視でダウンサイジングを進める発想が求められる。

その際に懸念される地元開業医との競合は、医療公営法人の施設を彼らに開放するオープン方式の採用で緩和できるという。


地域医療崩壊を根本的に解決するためには、地域医療経営のガバナンスを確立し、その地域内のセーフティネット医療事業体の意思決定を一元化することが必要である。
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特に、高齢者の増加に伴い、地域を巻き込んだ医療と介護の制度改革が必要であり、松山 幸弘氏の提案は、今後の改革ビジョンに大変参考になりました。

※社会医療法人とは、06年の医療法改正により創設された新しい医療法人の類型で  ある。社会医療法人との認定要件には、「救急医療等確保事業を公立病院と同等  に担うこと」「同族社員・評議員の制限」「解散時の残余財産を国、地方公共団体又は他の社会医療法人に帰属させる旨を定款または寄付行為に規定」などがある。
その見返りとして、医療保険業の利益が公立病院と同様に非課税となる。現在107の社会医療法人全体の経常利益率は3.8%といわれ、社会医療法人が補助金なしで政策医療に貢献していることは評価に値する。中には10%超が16法人もある。

ちなみに、一定規模以上で利益率が4%あれば世界標準の医療設備投資を継続できる財源を確保できるという。
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(前回に続く)
医療技術の進歩が病院経営に与えた最大のインパクトは、患者の「入院から外来施設、在宅へのシフトである」と松山氏は指摘しています。以下、要点を抜粋します。
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1980年ごろは医療費全体に占める病院入院費用の割合が40%を超えていた。それが現在では、日本、米国、カナダなど医療制度が異なるいずれの国でも約30%まで低下している。

その背景には、抗がん剤に代表される新薬開発、日帰り手術の普及といった医療技術の進歩がある。これは、医療事業体が病院単独施設経営に固執していては成長力が低下することを意味する。

そこで日本以外の先進諸国では、病院での急性期ケアのみでなく、予防、リハビリ、介護、在宅など地域住民が必要とする医療事業体を構築している。
その共通のキーワードは、異なる機能の医療施設が多数参加する「垂直統合」であり、、同種の医療施設がグループを形成する「水平統合」と明確に区分されている。

垂直統合の長所は、国の医療政策により医療財源配分のあり方が変化しても医療事業体の中でその影響を中和できること、地域医療の為の資源配分の意思決定を一元化することにより医療ニーズとのミスマッチ解消を迅速に達成できることの2点にある。

又、垂直統合した医療事業体では、ミスマッチ解消に伴うロスを最小限に抑えるために、個別の医療施設はダウンサイジングが進んでいる。つまり、医療施設建設では機能を明確にしてコンパクトなものを造り、短期間で投資コストを回収し、医療技術進歩に合致した体制を維持するという発想である。

ちなみに、カナダやオーストラリアでは、人口100万人前後の地域医療圏ごとに垂直統合した「医療公営企業」を設置しており、その事業規模は500億~1000億円と大きい。これらの医療公営企業経営者の責務は、不採算部門を抱えながら全体で黒字を達成することである。
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地域の医療のあり方が大きく変化し、それに合わせて介護の世界も変化して行かざるを得ない環境にあります。示唆に富む内容です。
(次回に続く)
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高齢者住宅の整備にあたっては色々な組織・団体が提言をお粉ておりますが、高齢者住宅経営者連絡協議会が下記の提言を行っておりますので、ご紹介しておきたいと思います。更に突っ込んだ具体的な提言が求められます。
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特養も有料老人ホームも高専賃も「高齢者住宅」―類型簡素化を
医療介護CBニュース 11月26日(金)19時40分配信

高齢者住宅経営者連絡協議会は「高齢者住宅のあり方に関する提言」を発表した。(11月26日、東京都内)

民間の高齢者住宅運営事業者など44法人でつくる「高齢者住宅経営者連絡協議会」(会長=森川悦明・「オリックス・リビング」社長)は11月26日、記者会見を開き、「高齢者住宅のあり方に関する提言」を発表した。提言では、高齢者住宅の類型を簡素化することや、具体的な供給目標を策定することなどを盛り込んでいる。

同協議会は今年4月に設立された任意団体で、株式会社のほか社会福祉法人や医療法人社団も加盟している。9月には利用者の利益向上や健全な市場の実現などを目指して「政策提言委員会」(委員長=吉村直子・長谷工総合研究所主任研究員)を設置し、議論を重ねてきた。今回取りまとめた提言は、26日に厚生労働、経済産業、国土交通の3省の担当部局に提出された。

提言では、「高齢者住宅」を「終身にわたり、自立のための支援や介護が行われる集合住宅」と定義。高齢者専用賃貸住宅(高専賃)や住宅型有料老人ホームのほか、介護付有料老人ホーム、認知症高齢者グループホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設なども含めている。その上で、高齢者住宅は種類が多く、利用者にとって分かりづらい面があるとして、類型の簡素化を進めるべきとしている。

また、高齢者住宅の整備を進める上で、具体的なビジョンや供給量の数値目標、工程表の策定が必要と指摘している。特に、介護保険施設や認知症高齢者グループホーム、介護付有料老人ホームなど要介護者向け高齢者住宅の不足が顕著として、積極的な供給促進策を取るべきとした。

2005年の約8万戸をピークに落ち込んでいる新規の供給量については、「毎年10万戸程度が必要」(吉村委員長)とした。また、自治体の総量規制が民間事業者の自由な参入を抑制しているとして撤廃を求めている。

さらに、高齢者住宅での介護職員の医行為について規制緩和を進めるとともに、「医行為加算」を創設すべきとした。高齢者住宅で働く介護従事者の社会的地位向上に向けた仕組みとして、認知症ケアなどに携わる専門性の高い「認定介護師」(仮称)資格の創設も提唱している。

このほか、▽20分未満の短時間訪問介護や24時間地域巡回型訪問サービスを高専賃や住宅型有料老人ホームなどで利用できるようにする▽高齢者住宅のサービスの質を客観的に測る評価スケールを構築する▽事業者向けファイナンスを拡充し、利用者に対する家賃補助を行う―などを提言している。
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厚生労働省は医療機関が健康保険に請求する医療費が適切かどうかを審査する審査支払業務について、健康保険が委託先の法人を選択できるようにするという記事が載っていました。業務独占を見直し、審査を担う法人の競争を促すことで、効率化を後押しするのが狙いといいますが、この程度で効率化が推進されるのでしょうか?

医療費の審査支払業務は厚労省が所管する「社会保険審査報酬支払基金」と、市町村が運営する「国民健康保険団体連合会(国保連)」の2法人が独占的に担っています。

健康保険組合や協会けんぽ等の被用者保険は支払基金、市町村国保は国保連に審査を委託する仕組みです。

厚労省は年内にも通知を出し、健保組合から国保連への委託など、2団体の双方に委託できるようにします。相乗りを認めて審査法人の競争を促し、手数料の引き下げや過剰な審査費請求を見つけ出す審査能力の向上につなげるのが狙いです。

しかし、果たしてこれで本当に審査能力の向上につながるのでしょうか?過剰な請求がないかどうかに加えて、医療の品質、サービス力等を審査する仕組みがあっても良いのではないかと思うのです。

2時間待たされて、診察時間1分、多くの患者が長期間待たされている現状や、血液検査をしただけで、高額の管理料を請求される等、実際の現場に直面するともっと請求金額が適切であるかどうか、そして競争を促す仕組みがあっても良いのではないかと思ってしまうのです。
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本日は都内のあるビルダーさんを訪問。具体的な高齢者住宅の開発を行っているということでしたので御話をお聞きしました。多くのビルダーさんが一般賃貸が厳しくなっているだけに、皆さん、高齢者住宅に対して大変関心が高いようです。

今回も、既に計画から着工に入ろうとしているプランがありました。只気になる点がありますので、今回の事例での問題点について触れておきたいと思います。

約200坪程度の土地に延べ床でやはり180坪~190坪程度の高齢者住宅を計画されております。これはほぼ我々の小規模ローコスト高齢者住宅のeL3とほぼ同様の規模なのですが、中身は、概ね25㎡の御部屋が中心で、2階に8室自立型。1階はデイサービスとドクターの診療室、訪問介護事業所の事務室で構成されています。1階部分はテナントで入ってもらい、2階の高齢者住宅はビルダーが直接管理をするというスタイルです。

以前、大阪で同様のコンセプトの高齢者住宅をみておりましたので、あ~同じかというイメージでした。多くのビルダーさんが考えるパターンであり、ここに落とし穴があるのです。

いくつかの錯覚があります。
①1階にデイサービスや訪問介護事業所があれば、2階の高齢者住宅は
   直ぐに埋まるであろうという錯覚
②2階に高齢者住宅があれば、1階のデイサービスや訪問介護事業所の
   リーシングは難しくないであろうとの錯覚

結果からいえば、大阪の例でもありましたように、なかなか入居が埋まりませんでした。デイサービスは上が自立の方々の25㎡のお部屋で、部屋数も少ないので、利用者としての相乗効果はあまり期待できません。従って、外部を対象としたデイにならざるを得なく、高齢者住宅とのシナジーはほとんどありません。実は双方にメリット性があまりない施設になってしまうのです。ただ単に高齢者施設であるデイサービスと訪問介護事業者が
賃貸住宅の1階にあるというだけのものにすぎません。そのことで、住宅の家賃もプラスαが取れるわけではありません。

又、入居者も介護が必要になったときには24時間で支援ができるわけではありませんので、他の施設に移らざるを得ない、そうなるとほとんど一般賃貸とかわりません。要は、コンセプトが弱い高齢者住宅にならざるを得なく、双方の入居が厳しいという結果になってしまう恐れがあります。是非、お気をつけ頂きたいと思います。
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