無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2014年08月

引き続き、独立行政法人国立長寿医療センター名誉総長の著書、「医療のかたち、国のかたち」について、ポイントを整理してみたいと思います。

<病院医療から在宅医療への転換>

■これまでの医療にはもう一つ大きな特徴がある。それは「病気に関わることはすべて病院で」というような医療を推進してきたということ。生まれてから死ぬまですべて病院というやり方である。

■しかし、病院は高度で高額の医療機器を集中的に整備し、人も非常に厚く配置して、先端の高度な医療を提供できるような環境を整えている。したがって、そのような環境でしか扱えない病気だけを扱うべきではないか。そういう考えがあっても不思議ではない。

■治療の場としての病院とは、言ってみれば緊急避難のときの隔離社会のようなもので、そのような社会から隔離されたところで何日間か生活するというのは、そこでしかできない病気の治療、高度専門医療を受けるために。やむを得ずそうするのである。

■高度専門医療ではなく、病院でなくても可能な医療なら、生活の場である家や地域のなかで行うのが当たり前ではないか。

■こう考えてくると、治療の場の問題というのは、単に社会資源の有効活用という合理的な話だけではなく、人にとってどんな終末期の在り方がよいのかという根本的な問題だということがわかる。

■生活を中心に考えれば、その核となるのは在宅医療である。在宅医療は、生活の場のなかにある医療そのもので、動くことは困難だが、病状が一定している高齢者にとっては望ましい医療提供の在り方だといえる。

■国民だけでなく医療関係者でさえも、在宅医療に関して十分な理解ができていない。病気なら何でも病院にいくという文化を、戦後40年、50年かけてつくってきてしまったのである。
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8月20日の高齢者住宅新聞で見出しの記事が掲載されました。結果として報酬不十分となっています。

■(財)介護労働安定センターは8月11日、2013年度に実施した「事業所における介護労働実態調査」の結果を発表。

■2012年度10月から1年間の離職率は、全体で16.6%(昨年17.0%9と昨年より若干改善。採用率は全体で21.7%(同23.3%)であった。

■全体では「不足感がある」と回答した事務所は全体の56.5%と、「適当」(43.0%)と答えた事業所よりも多く、まだまだ人手不足が解消しているとは言えない結果となった。

■介護サービスを運営する上での問題点をみると、全体では約半数が「良質な人材の確保」が難しい」(54.0%)と問題を抱え。「今の介護報酬では人事の確保・定着のために十分な賃金を払えない」(46.9%)、「書類作成が煩雑で、時間に追われている」(30.7%)など、十分な報酬がないたま採用を増やせず、その結果、仕事に追われているという構図が浮き彫りになった。

■また採用が困難である事業所は約7割。その原因を訪ねたところ「賃金が低い」(55.4%)、「(身体的・精神的に)仕事がきつい」(48.6%)ことがあげられた。

■しかし、「事業拡大をしたいが人材が確保できない」は昨年に比べ8.6ポイント減の19.3%と改善している。
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今後10年で増えて欲しいサービス、訪問介護がトップ(介護・地域包括ケアの情報サイトJoint8月29日より)

訪問介護・看護のニーズが高まっていることが厚生労働省の調査で明らかになりました。これからの戦略を構築する上で重要な内容です。
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厚生労働省が29日に公表した調査の結果では、介護サービスの人気は施設より在宅の方が高いと報告されている。充実を望むサービスのトップは、訪問介護・看護だった。

■調査は2012年の7月に行われたもの。「高齢期の社会保障について」というテーマで、2006年以来6年ぶりの実施だという。

■対象は、全国から無作為に選ばれた20歳以上の男女1万1614人。97.2%にあたる1万1294人から有効な回答を得ている。65歳以上の回答者は3622人で、全体の32.1%を占めていた。

■「今後10年間で家の周りに増えて欲しい介護関係のサービス」を尋ねたところ(複数回答)、最も支持を集めたのは「訪問介護・看護を提供する事業所」で、49.1%が答えていた。

■2番目は、「小規模多機能型居宅介護事業所」の36.5%。3番目は「デイサービス」の33.3%、4番目は「サービス付き高齢者向け住宅」の30.9%となっており、施設サービスは上位に入らなかった。
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<前回に続く>
高齢者の増加により変わる医療需要
・これまでの医療は「治す治療」であり、もう一つは「病院中心の医療」であった。しかし、高齢者には最大の特徴として、老化がある。老化とは年をとるにつれて起こる身体の変化で、誰にも例外なく起こる。その変化は進行性で次第に衰弱していき、元に戻ることはない。高齢者では、このような老化という過程のなかに、病気が入ってくるのである。

・病気も単一原因による単一の臓器の障害というかたちをとらず、生活習慣病のような慢性的な経過で、特定の臓器だけに障害が現れるというより、全身に影響を及ぼすことが多く、1人でいくつもの病気を抱える、いわゆる多病というかたちであらわれる。

治らない病気に寄り添うのも医療
・この頃よく聞く話に、90歳を過ぎた人に大きな手術をしたら、そのまま寝たきりになってしまい、日常生活に復帰できないまま亡くなってしまったとか、高齢者が病院にいくと寝たきりにして返されるといった批判がでてきている。

・年をとればとるほど、老化に慢性病が加わるという病態が増え、全身に影響が出てくる。そのため、身体の状態だけではなくて、精神的な状況や生活能力、家族関係に至るまで、生活をしていく上で障害となる原因の全てに目を向け、評価をしていかないと、その人にとって何が一番問題なのかを把握することができない。

・そう考えれば、治すことはもちろん、治らない病気に寄り添うことも医療なのである。そのときどきの日常の生活が、少しでも充実したものになるように支援していくのが医療のもともとの目的だということがわかる。このような考え方を「生活モデル」の医療という。言葉を換えれば、「生活者としての人の全体像を診ていく医療」ということである。

・これに対して、科学をベースにしたこれまでの徹底的に治す医療を。「科学モデル」とか「医学モデル」という。これから高齢者に求められる医療は、元の生活がきちんとできるような状態に戻すことを目標にする「生活モデル」の医療である。

<次回に続く>
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<前回に続く>

「治す医療」から「納得できる生き方へ」を支援する医療へ
・日本の高齢化が急速に進み、今のような高齢社会になり、大きな問題に直面するであろうことは、40年、50年も前から予測はされていた。

・しかし、その当時は経済成長とともに生活がどんどん豊かになっていったので高齢化が進んでもその結果どのような問題が出てくるのか、実感として迫ってくることはなかった。こんな深刻な問題になるとは誰も思っていなかったのである。

・これまでの制度やシステムが機能しなくなるほどの時代の大きな転換期であるので、何よりもまず、どんな社会をめざすのか、どんな国にしていくのかという国家戦略をはっきりさせねばならない。これが決まらないと医療についても、どんな医療を目指すのかがはっきりしてこない。

・医療もこれまでの「治す医療」を目指すだけはだめである。100歳を超えてまで徹底して治すということよりも、その日1日1日をどうやって納得できる生き方をするか、そのための医療がどう支援できるかを考えることのほうが、はるかに大事ではないかと思う。

・超高齢社会における最大の医療需要が高齢者にあることは間違いないことであるから、何よりもまず高齢者にふさわしい医療とは何かが、もっと真剣に考えられねばならない。高齢者には高齢者特有の病気があり、病態があるので、それに合わせた医療が必要である。

・そして、高齢者が医療に何を求めているか、高齢になればなるほど、徹底的に治すという医療よりも、ときには病気と共存してでも、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を落とさないような医療を求めていることははっきりしている。ということは、そのような医療を行うことができる医者を育成して配置し、そのような医療が提供できるような仕組みや体制を構築していくのは当然のことである。

<次回に続く>
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