無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2014年10月

<前回に続く>

■それでは0~74歳が必要とするのは、どのような医療であろうか。それは従来の急性期医療、云い方を変えれば、治癒を目的とする医療である。技術を尽くして患者を徹底治療する医療であり、病気やケガが治れば元の生活に戻れることがほとんどである。

■一方、75歳以上が必要とするのは、どのような医療であろうか。後期高齢者も従来型の急性期医療を必要とする場面は少なくないが、主に必要とするのは病気は完全に治らなくとも、地域で生活を続けられるよう身体も環境も整えてくれるような「生活支援型医療」である。年齢が進めば進むほど、この傾向は強まる。

■複数の病気を抱えた高齢者が、完全には治らずとも地域で暮らし続けることを支える医療であり、今後このタイプの医療への需要が増える。

■このような医療の主な担い手は、かかりつけ医や、今春に新設された地域包括ケア支援病棟であろう。同病棟では患者(主に後期高齢者)が家や施設で調子が悪くなったときに、地域での生活復帰を意識したリハビリをしながら、病気と年齢や体力などを考慮した治療をする。

■さらに、高度医療機関からの在宅復帰を目指した患者を受け入れ、リハビリや継続的治療を提供しながら在宅復帰を目指すことや、地域での看取り医療も、重要な役割である。

■このように我が国全体でみれば、従来の急性期病床の需要は2030年度以降、急速な減少見込まれる一方、生活支援型医療の需要は都市部を中心に急速に増大するので、従来型の急性期病床から、生活支援型病床や介護施設への転換が必要となる。

<次回に続く>
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特養ホームの介護報酬引き下げへ 厚労省(共同通信2014年10月29日)

特養の介護報酬引き下げについて方針が固まりつつあります。
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厚生労働省は29日、介護サービスを提供する事業者に支払われる介護報酬に関し、来年度の改定で特別養護老人ホーム(特養)向けを引き下げる方針を固めた。利益率が高く、多額の内部留保を抱える事業者があるため。厚労省は、できるだけ施設に入らず自宅などで生活できる環境整備を進めたい考えで、報酬を在宅支援サービスに重点的に配分する。

■特養の相部屋については、部屋代相当分が介護保険で賄われているのを見直し、入所者に負担を求める。この日の社会保障審議会分科会に正式提案した。月額1万5千円程度で調整する。低所得者に配慮し、住民税非課税の世帯は免除する。
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<前回に続く>
■介護保険制度の発足で特別養護老人ホームやグループホーム、有料老人ホームの整備が進んだことも、病院死の減少に拍車をかけた。2005年からこうした施設やケア付き住宅での死亡率は3.5ポイント上昇しており、病院死の減少分3.8ポイントにほぼ相当する。自宅死はこの間わずかに0.6ポイントしか増えていない。

■厚労省の「脱病院死」への支援策も功を奏している。特別養護老人ホームやグループホームなど居住系サービスで「看取り」を実施すれば、介護報酬に加算を付けるようにした。

■2012年には、有料老人ホームにもこの措置を拡大。厚労省が「最期の時を迎えても、今まで通りの施設暮らしを続けてほしい。病院に搬送しないで」というメッセージを積極的に送り出したと見ていいだろう。

■病院死が少なくなれば、医療保険の負担が軽くなる。介護保険のサービスを十分使い切って、できるだけ病院に寄りつかなくする。高齢化が今後さらに高まるなか、財源不足は深刻な問題。まずは、医療保険の支出を抑えようと財務省は主張し続けている。その方向へ舵が切られつつあるのは確かなようだ。在宅への流れ

■といっても欧米並みの病院死50%前後に到達するにはまだまだ先の話だ。地域包括ケアの目標年である2025年にはそのレベルに達しないだろう。厚労省が謳う地域包括ケアの実現には、地域での看取り、即ち「脱病院死」が欠かせないはず。地域包括ケアとは「病院等に依存しない住み慣れた地域で在宅ケアの限界を高める」ことと厚労省は説明している。そのためには、将来の病院死比率の目標数値を明確に打ち出すべきだろう。

■政策としては、訪問診療と訪問看護の浸透に拍車を駆け、24時間の継続される在宅ケアを一層推進していかねばならない。「死に方」は人間の尊厳に関わることである。そのためにも、自己決定による意志表明が重要である。
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<前回に続く>

2006年から病院死亡率は減少施設・ケア付き住宅での死亡率は増加
■風向きが変わりつつあるのは、数字からも読み取れる。

■厚労省の人口統計調査の最新のデータによると、2012年時点で病院・診療所での死亡比率は全体の78.6%となった。2005年の82.4%をピークに下がり続けているのだ。この8年間で3.8ポイントとわずかではあるが減少した。

■戦後一貫して病院死亡者は増え続けていたのに、2006年に初めてブレーキがかかり、減少に転じた。統計をとりはじめた1951年から半世紀以上のトレンドを覆す画期的な「事件」といえよう。

病院死亡率

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関係医学会も打ち出した終末期の「脱延命治療路線」■次いで、老人医療に関わる医師たちの関係学会が、こうした動きを捉えて新しい指針を打ち出してきた。

■日本老年医学会は2012年1月に「立場表明」を改訂し、「(胃瘻造設を含む)経管栄養や、気管切開、人工呼吸器装着などの適応は、慎重に検討されるべきである。すなわち、何らかの治療が、患者本人の尊厳を損なったり苦痛を増大させたりする可能性があるときには、治療の差し控えや治療からの撤退も選択肢として考慮すべきである」と新たな立場を発表した。

「(胃瘻など)高度医療の投入は必ずしも最善の選択肢ではない」という思い切った路線転換である。

■日本透析医学会も2013年1月に、終末期の患者家族が希望すれば透析の中止や開始の見合わせを可能とする提言をまとめた。

■また、昨年8月に首相に提出された「社会保障制度改革国民会議」の報告書でも、死について言及している。国の審議会が死に触れたのは初めてのこと。

■ 「医療のあり方については、医療提供者の側だけでなく、医療を受ける国民の側がどう考え、何を求めているかが大きな要素となっている。超高齢社会に見合った『地域全体で治し・支える医療』の射程には、その時が来たらより納得し満足できる最期を迎えることのできるように支援すること――すなわち死すべき運命にある人間の尊厳ある死を視野に入れた『QOD(クォリティ・オブ・デス=死の質)を高める医療』――も入ってこよう」と、QOL(生活の質)と並ぶQODという新しい視点を指摘した。

■さらに「病院完結型」の医療から「地域完結型」の医療への転換には「高齢者が病院外で診療や介護を受けることができる体制整備が必要」と説く。

■ 「納得し満足のできる最期」を死のあるべき姿であると記し、そのためには「脱病院」が必要と記した。画期的な提言である。

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