無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2014年12月

<前回に続く> グループホームだけ第三者機関の評価を義務に今回の改正も小手先だけか ■もうひとつ、厚労省は「質」の規制にも力を入れ出す。職員への研修を強化するとともに、外部からの評価制度を採りいれた。当事者評価に加えて第三者評価方式である。 ■全てのグループホームに第三者機関による評価を義務付けた。それも毎年である。「玄関に日中鍵をかけているか」「入浴支援はどのようにされているか」など多数の項目にわたって評価員が現場を訪問してチェックする。結果はネット通じて公表されるので、事業者は真剣に受け止める。 ■特養や老人保健施設(老健)、特定施設(介護付き有料老人ホーム)など他の入居施設では義務付けされていない。評価を受けるかは事業者の判断次第であるのと大違いだ。 ■第三者評価制度の徹底がグループホームの質の向上をもたらした。全国的な底上げにつながったことは間違いない。他の入居施設と比べて、グループホームのケアに信頼が寄せられた。その効果は大きい。第三者評価の導入は厚労省のヒット施策と評価していいだろう。 ■このほか、グループホームについての今回の制度改定を見ると、これまで認めていなかった特養と老健への併設を認め、夜間の宿直職員への報酬に加算付けし、看取りの加算増額を決めた。いずれも小手先の改正である。 ■なかで、大規模の特養や老健との併設は問題を孕んでいる。「グループホームは家庭的な環境と地域住民との交流が大切」と厚労省も認めているにもかかわらず、集団管理や閉鎖性が問題視されている大規模施設に隣接されるのは疑問だ。大規模施設は個別ケアや地域交流とほど遠く、グループホームとは対極を成す「抵抗勢力」と言っても過言ではない。後ろ向きな改定と言えよう。 ■では、グループホームの他の認知症ケアはどうか。 ■認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)では、小規模多機能型居宅介護などと同様に新たに運営推進会議の設置を義務付け、いわゆる「お泊りデイ」を届け出制にすることにした。前例があるため、ほとんど新味がない。 今回の改定では全く感じられない認知症施策への切迫感 ■今回の改定に批判的な公益社団法人「認知症の人と家族の会」は同分科会に意見書を提出した。当事者に最も近い団体の考え方を知るうえで重要である。   ■主な項目を見ると、(1)認知症がある場合は要介護1以上とするシステムの導入 (2)介護サービスの利用前の相談援助に応えたケアマネジャーに報酬を出す (3)小規模多機能型居宅介護の報酬を引き上げる――である。 ■さらに、認知症施策推進5ヵ年計画(通称・オレンジプラン)にも言及し、「認知症初期集中支援チーム及び認知症地域支援推進員の全市町村への配置を国の責任において早期に実現する」とある。 ■オレンジプランが別建て政策となっていることがよく分かる。本来、介護保険法の中に取り込み、全国的施策として実行すべきなのに、まだモデル事業止まり。同分科会ではその議論はなく、全体として認知症施策への切迫感が感じられなかった。残念なことである。
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<前回に続く> 5ユニットを止め「量」の規制へ入居者数を18万人に留める「元凶」とは ■その多くは、新規事業への関心、意欲に欠ける社会福祉法人関係者からだが、厚労省としても「量から質への転換」に乗り出さざるを得なくなる。そうしたなかでまず、「量」の規制から着手した。 ■1ヵ所で最大5ユニットまで認めていたが、3ユニットに縮小、その後2ユニットまでとさらに規制を強めた。ユニットとはグループホームの単位のこと。1ユニットの入居者は9人まで。実際は、基準が3人ごとに設けられているため6人か9人で運営されるが、6人では採算がとり難いので事業者の大半は9人形式を選ぶ。 ■当初は、5ユニットまで、即ち最多45人の利用者を集めてよかった。5階建ての建物内に、各フロアそれぞれ1ユニットずつ設けていた事業者もあった。入居者が多いと、ウマが合う、合わないで生じるトラブルが起きた時に、違うユニットに引っ越してもらうのが容易で、運営しやすい。同じようなライフスタイルの利用者が同じユニットで暮らせば、気心が知れて生活しやすい。認知症でも、感情は十分生きている。 ■この連載の17回目(2014年11月19日付け)でオランダの実例を挙げて示しているように、ライフスタイル重視は洋の東西を問わない。 ■さらに、2006年度からグループホームの管轄が都道府県から市町村に移り、新設への抑制が一段と強まった。「地域密着サービス」の新概念を介護保険に導入して、小規模な介護サービスは住民に密着した身近な市町村におろしていくことにした。この考え方そのものは、地方分権、地域主権の流れに沿うもので是認できる。 ■だが、介護保険制度では、都道府県と市町村ではその役割に別の要素が絡み、権限や責任が全く異なる。都道府県は広域的な視野で介護サービスを見守る立場だ。一方、市町村には、介護サービスを整える責任があり、そのために65歳以上の住民から保険料を徴収する権限もある。保険料は、サービスが増えれば増額せざるを得ない。金額の決定権は都道府県でなく市町村だ。 ■保険料は年金からの強制徴収なので、住民は税と同じように受けとめがち。少なければ少ないほど良し、に傾きやすい。つまり、市町村としては。介護サービスの充実よりも目先の保険料の抑制に力が入る。そこで、介護サービスをできるだけ増やさない施策に走る自治体が大半を占める。 ■グループホームがその「犠牲者」となってしまった。多くの市町村は、3ヵ年の介護保険事業計画の作成時に、グループホームの事業所数を決め、それ以上の増設にストップをかけだした。公募制を採用して、市町村が事業者を選別することが当然となっている。 ■それまでは、事業者が新設の書類を都道府県に持ち込み、運営基準に合致していれば都道府県は拒否できなかった。介護保険法では、介護サービスを許認可業務としていないからだ。手続き上、都道府県は一応該当の市町村に照会するが、例えその市町村が応諾しなくても「県全域を見れば必要」と判断して、開設に応じてきた。それが一転、市町村の裁量に委ねられてしまった。 ■こうして、国と市町村の抑制策が強化されれば、事業者の開設意欲が萎えてしまうのは自然の成り行きだろう。当初の国や自治体を挙げての前向きな姿勢は完全に消えてしまった。 ■介護保険法施行後15年経った今、グループホームの入居者はわずか18万人台にとどまっている。認知症高齢者は400万人を超え、少なくともその2~3割は自宅介護が難しい状態だ。グループホームは圧倒的に足りない。 ■その抑制策の「元凶」が厚労省の「2ユニット規制」であった。その規制を3ユニットに緩和することが、今回の改定で決まった。わずかに1ユニット増やしただけだ。当初の5ユニットに戻すのであれば、拍手をしてもいいが、1ユニット増ではあまりに物足りない。 ■加えて、市町村の規制は残したままである。3ユニットに増やしても、各自治体が総ユニット数を抑制している限り、その効果はたいして望めないだろう。 <次回に続く>
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<前回に続く> 認知症ケアの切り札「グループホーム」開始3年で目標3200ヵ所をクリアしたが… ■さて、今回のテーマの認知症ケア。審議会議論を経て2015年4月以降にどのように変わるのかを見て行こう。 ■認知症ケアの本命は何と言ってもグループホームである。グループホームとは、認知症高齢者が、食事や入浴などのサービスを受けながら毎日暮らす場である。個室が確保され、日中は個室の目の前の食堂兼居間で寛ぐ。入居者は9人以下に限定され、スタッフと共に家庭的な生活を営む。極めて小規模なグループ生活で、時には家事を職員と共に行う。普通の暮らしと同様の日々を送ることによって認知症特有の不安定な心情を緩和できる。 ■1990年代に北欧で生まれ、「認知症ケアの切り札」と喧伝される。介護保険直前に厚労省がモデル事業として推進、各地で開設が進んだ。それまでの高齢者施策のゴールドプラン(高齢者保健福祉戦略10か年戦略、1990年から1994年)や新ゴールドプラン(高齢者保健福祉5ヵ年計画、1995年から1999年)にはない介護保険の目玉として採りいれられた。今回の制度改定で、「2ユニットまでしか開設を認めていなかったが、3ユニットに拡大する」となった。 ■ 「グループホームを広げていこうとする前向きな姿勢」と一般的には評価されているが、認知症の当事者やその介護家族からみると、「今更、この程度では」と冷淡な反応だ。「暖簾に腕押し」とも言われる。なぜか。 ■厚労省は、介護保険のスタート時にグループホームを「施行5年後には全国で3200ヵ所に広げたい」と目標数字を掲げ、相当な意気込みようだった。いざ、始まってみるとその計画を上回るスピードで開設が相次いだ。「やっと受け入れ先が見つかった」「介護に行き詰った家族にとっての救世主」「家庭的な暖かい生活支援態勢がといてもいい」と高い評価を得たからだ。 ■認知症のケアは難しく、家族だけでなく施設でも受け入れに難色を示していたこともある。 ■グループホームの職員配置は日中3対1。つまり利用者3人に対して1人の職員が付く。ローテーションを組むには入居者9人に対してほぼ同数の職員が必要となる。一方、同じように高齢者が暮らす特別養護老人ホーム(特養)では、やはり3対1の職員配置。だが、日中でなく利用者全員に対する比率だから、夜勤者や泊り明け職員を含める。従って、日中の職員配置は7対1や8対1とかなり少ない。 ■グループホームが相当に手厚い職員配置となっているかは明らかだ。それだけ充実した生活支援、とりわけ個別ケアが実現できる。認知症ケアは100人に100通りのケアで臨まねばならない。個別ケアにどれだけ近づけるかがより良いケアに欠かせない。特養より評判がいいのは、こうした仕組みがあるからだ。 ■福祉の主役だった社会福祉法人以外にも参入が認められたことで、建築や不動産業者など土地を確保しやすい事業者や教育、飲食業界など全くの域外事業者も積極的に進出してきた。介護報酬が高額に設定されたこともあり、新規参入事業者が2棟目、3棟目を開設、チェーン展開を目指す事業者も各地で登場してくる。 ■地域活動に熱心な地元のNPO法人が、「最も支援を待ち望んでいる認知症の方を手助けしたい」との強い思いからグループホームに着目して参入するケースも少なくなかった。草の根の住民運動が開花し、その共鳴者がまた新規開設に向かう。 ■日本のグループの中には、本家の北欧を追い越すほどの優れたところが多い。入居者と一緒に商店街やスーパーに出かけて食材を購入し、職員と並んでキッチンに立って調理を行い、食後には食器の後片付けもしてしまう。自宅での暮らしと変わらない生活を続ける。これこそが認知症ケアである。欧州諸国のグループホームでは見られない営みだ。日本の傑出した手法だろう。「食」への関心、こだわりが欧州よりはるかに勝る日本人ならではのケア手法である。 ■ 「寄り添うケア」を掲げて運営するNPO法人のグループホームには、こうした日々の暮らしを尊重する志向が強い。いわゆる「生活モデル」の構築である。 ■暫くは「グループホーム・ラッシュ」と言われるほど全国各地に広がった。厚労省の開設計画を上回る勢いである。スタートして3年余りで3300ヵ所に達し、「5年後に3200ヵ所」の目標を早々と超えてしまった。 ■4、5年目に入ると、あまりの急増に対して「ケアの質」を問われ出す。「これまで福祉の「ふ」の字も知らない事業者がどっと入ってきた」「地主を説き伏せ、儲かる商売と勧誘して開設した」など、従来の福祉事業者からの反発も出てきた。 <次回に続く>
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<前回に続く> 2025年までにあと100万人必要急激な高齢化で待ったなし介護職員不足 ■新しいサービスを送り出したり、サービスの質の向上について議論してきたのが同審議会。これらを進めるには介護職員が充足していることが議論の前提である。ところが人材不足で、足元が揺らいでいる。 ■団塊世代が75歳以上となり、首都圏など大都市部で大量の要介護者が出現する2025年。その時までに、今よりあと100万人多い介護職員が必要とされる。 ■給与を一般産業並みに上昇させないことには人材不足の状況は変わらないだろう。欧米諸国をみると、税金で成り立たたせている北欧でも介護職員の給与は高くない。周辺の途上国からの出稼ぎや移民に頼らざるを得ないのが現実という話を聞く。 ■高齢化率のスピードが世界で最も速いのが日本。高いハードルを真っ先に越えねばならない。 ■経済成長を追い求める公共事業拡大に投入する税を社会保障に振り向けるべき、と言う議論がもっと起きてもいい。消費税の意義も再考を迫られるだろう。欧米諸国は20~25%の消費税を導入済みだ。15%以上でないとEUに加盟できない。10%へのアップにすら及び腰の日本とは大違いである。安定した財源は消費税というのが海外の常識だ。主要3党は消費税の値上げに合意したはず。忘れてはなるまいと思う。 <次回に続く>
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介護報酬改定に伴い、認知症ケアについて大きな進展は見られないようです。浅川澄一氏がグループホームの今後について整理されておりますので、御紹介します。 もっと多くのグループホームを作るべきだと思います。絶対的な数が足りません。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 介護報酬の9年ぶり引き下げでどうなる?最大の課題・認知症ケアに本腰入らず 浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)] 【第20回】 2014年12月29日 ■厚労省の介護保険改訂の審議が大詰めを迎えた。消費税の10%アップが見送られたこともあり、介護サービスの総報酬が9年ぶりに引き下げられる。審議会委員や介護業界からは撤回を求める声が一斉に上がったが、総報酬はあくまで政治判断。予算編成の中で決まるため審議会としては立ち入れない。 ■そこで、2014年の春先からからの審議過程を振り返り、改訂されるサービス内容を点検していく。高齢者ケアの最大課題である認知症に焦点を当てた。 消費増税の延期で社会保障財源は5000億円弱も減少へ ■介護サービスの見直しを審議していたのは社会保障審議会介護給付費分科会。夏から毎月2、3回の集中審議を重ね、年内最後の12月19日には論点の取りまとめに入ると同時に厚労省から新しい改定案が示された。目を引くのは、特別養護老人ホーム(特養)と通所介護(デイサービス)の報酬引き下げである。 ■サービス内容の改定案に入る前に、報酬の値下げについて関係官庁や業界の主張などを整理しておこう。 ■同審議会の4日後に開かれた経済財政諮問会議では、改めて消費増税分を財源に想定していた介護サービスの絞り込みが確認された。安倍首相は「社会保障の自然増も含め、聖域なく見直しを行う」と歳出削減を念頭に置いた考えを強調。だが、かつての小泉首相時代の「社会保障費の伸びを年2200億円抑制する」といった目標数値を明示するほどの意気込みはなさそうだ。 ■とはいえ、何しろ予算全体の3割超を超えるのが社会保障費。2013年度予算の30兆5000億円を上回るのは必至である。あてにしていた消費増税が延期されたため社会保障財源は5000億円弱も減ってしまい、介護報酬を引き下げが現実味を帯びてきた。 ■かねてから予算編成にあたる財務省は引き下げ幅を6~4%台と主張。これに対して厚労省は1%程度に抑え込みたい意向だ。1%値下げすると、投入する税は260億円削減できる。 ■介護報酬は、3年ごとに見直される介護サービスと併せて改訂されてきた。2015年から始まる3年間はその第6期目にあたる。2014年度の介護保険総費用は約10兆円に達しており、介護保険が始まった2000年度の3兆6000億円から大きく膨らんでいる。もし1%引き下げると、税や保険料、1割の利用者負担分など合わせて1000億円が浮く。 ■だが、介護事業者への収入がそれだけ減額されることになり、人手不足の深刻化に拍車をかけ、現場のサービスの質にも影響しかねない。介護職員の平均賃金は月約22万円で、同32万円の全産業平均との開きがなお進みそうだ。 ■大幅な減額を唱える財務省がその根拠としているのは、特養やデイサービス事業者の「儲け過ぎ」の実態である。収入と支出の差である「収支差率」が特養で9%近く、デイサービスで10%強。一般の中小企業の利益率2.2%(13年度)を大きく上回っている。 ■さらに、財務省は介護職向けに新たに「処遇改善加算」を設ければ、月1万円の給与アップが可能として、賃金の値下げにはつながらないと説明している。 ■厚労省、介護業界側と財務省、官邸の攻防戦が年明け以降も続きそうだ。2015年1月には決着がつく。 <次回に続く>
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