無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2015年01月

<前回に続く>

なぜ認知症の「訪問介護」はないのか
 では、現行の介護保険の中で認知症高齢者向けのサービスはどのようになっているのか。(2)のなかで、「認知症グループ―ホームは認知症ケアの拠点」と位置付け、「認知症対応通所介護(デイサービス)」の展開が期待されているとある。共に、介護保険スタート時から設けられたサービスだ。今更強調すべきことではないだろう。

この2つのサービスは「入所」と「通い」である。ではなぜ「訪問」がないのだろうか。「認知症対応訪問介護」というサービスが、単なる訪問介護とは別に設定されてもいいのではないだろうか

認知症ケアに精通したヘルパーが自宅に来て、お茶を一緒にしたり昔のアルバムを見ながら思い出話の相手になってもらう。長い時間をかけて話を聞くだけでもいい。介護家族はその合間に買い物や趣味の時間を採ることができる。

 掃除や洗濯など決められた作業を極めて短時間にこなす現行の訪問介護は、身体介護を必要とする要介護者向けのものである。認知症者向けが別にあるべきだろう。天気の話から始まって、トランプや百人一首、歌、手芸、リンゴの皮むき、キャベツの千切りなど、本人が得意なこと好きなことを付き合う。5~6時間も一緒に過ごすことができれば、家族にとってレスパイト(*)効果は大きい。

 実は、認知症高齢者が好みの時間、気持ちが休まる時間を過ごせるように支援することこそ認知症ケアそのものであるはず。遠方まで外出するデイサービスや入所のグループホームでは実践されている。同じことを自宅で楽しむ、それが認知症訪問介護である。

 新オレンジプランで盛り込んでいれば、評価が高まったはずだ。

(*)一時的中断、延期、小休止などを意味し、介護する側を一時的に休ませ、リフレッシュさせることを指す。
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<前回に続く>

正直がっかりした
「新オレンジプラン」の中身

 そこで、厚労省は認知症への基本的な介護対策を介護保険とは別に打ち出さざるを得なくなった。2012年9月に決めた「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)である。その経緯については、連載の第9回と第10回に記した。まだ5か年計画の3年目なのにもかかわらず、今回新たに「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)を作り練り直した。

 昨年11月、東京で開かれた「認知症サミット日本後継イベント」での会場。各国の専門家を前にして安倍首相が「新たな戦略の策定を厚労大臣に指示します」と宣言したことによる。急遽、オレンジプランを修正してできたのが新オレンジプランというわけだ。厚労省は1月7日に自民党に披露、その後に公明党の了承を得て正式に発表される。

 新プランの中身であるが、残念ながらオレンジプランの域からほとんど出ていない。がっかりである。安倍首相が国際会議で大見得を切るほどの内容ではなかった。

 プランは7つの柱で構成している。

(1)認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
(2)認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
(3)若年性認知症施策の強化
(4)認知症の人の介護者への支援
(5)認知症の人を含む高齢者にやさしい地域作りの推進
(6)認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発の推進
(7)認知症の人やその家族の視点の重視

これらの多くは、オレンジプランの踏襲であり、また認知症介護の現場では既に実践されていることの追認に過ぎない。

オレンジプランとの違いがはっきりしているのは(2)で挙げている獲得目標の人数だろう。いずれも次の介護保険改訂時である2017年を目標時点としている。

 まず、一般国民が認知症の関連講演を聞くだけで得られる「認知症サポーター」。2017年度末までに600万人を目標としていたが、800万人に引き上げる。早期診断できる医師を増やすための「かかりつけ医認知症対応力向上研修」の受講医師を5万人から6万人に増やす。さらに、より認知症に詳しくなって地域の医師に指示を出せる「認知症サポート医」の養成研修受講医師を4000人から5000人に増やす。

 さすがに、これら人数の上乗せだけでは物足らないと判断したのか、もうひとつ加えた。「認知症初期集中支援チーム」を2018年度には全国すべての市町村で整備するとした。かなり思い切ったいい提案である。

「認知症初期集中支援チーム」は、オレンジプランの中で最大の目玉だった。看護師やリハビリなどの専門職が認知症の人の家を訪問して、家族に支援法をアドバイスしたり、かかりつけ医と連携して自立生活を手助けするものだ。認知症の初期の段階の人へ集中的に関わることで進行を遅らせることができる。

既にモデル事業として始めているが、現在わずか41市町村でしか実施されていない。あと3年間で1741の全区市町村に広げようという方針だ。その意気込みには拍手である。

認知症高齢者がすでに受診している病院やかかりつけの診療所医師と「連携しながら」と厚労省は謳っているが、実際は「押しのけて」特別チームを介入させようという制度だ。現行の医療制度では、きちんと認知症を診ることができる医師が少ないため、いわば特別な訓練を受けた特殊部隊を投入しようという作戦ともいえる。それだけに、既存組織の抵抗は大きい。

新オレンジプランで唯一の高評価を得られる項目だろう。

日本の認知症ケアが欧米諸国と比較する際に必ず問題となるのが精神科病院への入院である

(4)の中で言及した。「その必要性を見極めたうえで、標準化された高度な専門的医療サービスを短期的・集中的に提供する場として、長期的・継続的な生活支援サービスを提供する介護サービス事業所や施設と適切な役割分担が成されることが望まれる」と記す。精神科病院を「短期・集中の場」と明確に区分けした。そして「精神科病院等からの円滑な退院や在宅復帰を支援する」と結ぶ。

 脱病院策として前向きではあるが、現在の認知症入院者をいつまでに何人に減らすかという肝心の数値目標は相変わらず出て来ない。踏み込み不足と言わざるを得ないだろう。一方で、欧州諸国は数字を掲げて、脱病院への道筋をつけてきている。
<次回に続く>
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<前回に続く>

実は大きく異なる
認知症ケアと身体ケア


介護保険の報酬改定が耳目を集めている割に、注目度が低いのが認知症ケアの長期プランだ。しかし、今後の高齢者介護で最も重要なのは認知症への関わり方である。

 脳梗塞やくも膜下出血などいわゆる脳卒中による身体障害に対するケア、つまり身体介護はかなりの程度その道筋が明らかにされ、介護の手法も確立されてきた。また、「寝かせきり」「オムツ」「機械浴」「身体拘束」「下剤」などをできるだけ止めていく、減らしていくことをケアの目標とする法人が各地で現れてきた。高齢者本人の側に立って、より良い介護を目指す動きは広がっている。集団での管理主義に基づく介護から、個々人の生活に寄り添った個別介護への転換が多くの現場で意識され出したからだ。

介護保険の前段階施策だったゴールドプラン(1990年から94年)と新ゴールドプラン(1995年から1999年)では「寝たきり老人ゼロ作戦」「ベッドからの起床」が謳われた。

 つまり、身体麻痺を想定した介護であった。介護保険もその範囲内で多くのサービスや施設が運営されてきた。介護の目標とその手立てが軌道に乗りつつあるといっても過言ではない。

ところが、認知症介護は様相が全く違う。

 例えば、介護保険を初めて使う時に欠かせない要介護判定の聞き取り調査。「片足で1秒ほど立てますか」という項目は身体介護が必要な高齢者には、適切な問いかけだが、認知症の軽度者にはほとんど意味を成さない。簡単にクリアできる。身体機能に衰えがないからだ。記憶や判断能力を問う設問が必要なのである。

 脳細胞の障害によって暮らしが成り立たなくなる。その支援活動である認知症ケアは身体ケアとは大きく異なる。心の中に分け入ったうえで接しなければならない。外見からは窺い知れない心の葛藤の見極めが不可欠だ。認知症は介護保険制定時には、要介護者の一類型としか見なされなかった。それが今や、社会全体で取り組まねばならない最重要課題になりつつある。

 家族介護が続けられなくなって施設入居を迫られるのは認知症だからというケースが大半だろう。身体障害だけなら意思疎通ができるので、車いす生活でも在宅サービスをフルに使えば何とか同居できる、という声が聞かれる。意思疎通がままならないと介護は別次元に転化する。認知症ケアはそれほど難しい。

<次回に続く>
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なぜ介護報酬引き下げ?新オレンジプランは新味なし (DIAMOND ONLINE)
浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)]
【第22回】 2015年1月21日

介護報酬引き下げの背景並びに課題について浅川氏が報告されています。今後在宅ケアに施策が傾斜するのは目に見えていますが、認知症ケアについて明確な方針が示されていないとする論説はその通りだと思います。
在宅での認知症ケアを行う体制をどのように構築するのか、また、どこまで可能なのか、方針を明確に示さねばなりません。
新味なしとする意見には賛成です。もっとグループホームが必要なのです。それが難しいのであれば高齢者住宅にて認知症ケアの体制を構築せねばなりません。

その拠点を認知症在宅ケアの中心に据えるべきではないでしょうか?
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来年度の予算編成の一環として介護報酬が改定された。介護報酬は3年ごとに見直され、この4月が第6期目にあたる。1月11日の麻生財務相と塩崎厚労相の会談で正式に決着したもので、前期より2.27%のマイナスとなった。9年ぶりのマイナス改定で事業者団体は一斉に反発している。

 ほぼ同時期の1月7日には、厚労省がやはり4月から始める認知症の新しい長期総合計画を策定し自民党に示した。認知症ケアは、介護保険にも含まれる。介護保険は当時の歴史的経緯から身体介護に軸足を置いた制度として2000年にスタートしたが、その後、認知症介護の重要性が高まってきたため、認知症に特化した新戦略を構築しなければならなくなった。
そこで今回は、介護保険の総費用と認知症介護の長期プランという2つの決定事項について考えてみる。

介護報酬2.3%減に事業者・厚労省大反発
財務省の先制パンチが効いた?

まず、介護保険のマイナス改定である。以前から財政均衡に拘る財務省は、社会保障費の突出を抑えようと策を凝らしてきた。財政制度審議会を通じて介護報酬の改定に早くから積極的に介入し、そこへ消費税の10%アップの先延ばしで、予定財源が減少したこともあり相当に強腰だった。

 財務省が一貫して主張してきたのは、「介護事業者の『収支差率』は8%ほどあり、2%ほどの中小企業を上回る」「その結果として特別養護老人ホームは、過剰な内部留保を抱えている」という点だ。いわば「儲け過ぎ」と言わんばかり。「内部留保を吐き出せばいいのだから、報酬はこれまでより下げるのが当然」という考え方だ。

 当初は一般企業との差を考慮して6%減(8%-2%)を唱えていたが、4%減に下げて厚労省と折衝を続けた。対する厚労省は「介護現場の人手不足は深刻な状況に陥っている。一般産業より平均賃金が10万円も安いからだ。総費用を減額されて人件費が頭打ちになればますます人が集まらなくなる」と訴えた。

そこへ官邸から「過去最大の下げ幅の2.3%を上回らないように」との声が届き、最終的には小数点2ケタという異例の細かい数値で折り合うことになった。安倍首相が「社会保障に冷たい政権」とのイメージが広がることを恐れて指示を出した、と言われる。

 早い段階からのマイナス改定のムード作りが功を奏した。財務省の「社会福祉法人の儲け過ぎ」という強烈な先制パンチが効いたことは確かだ。当事者の全国老人福祉施設協議会は「計算方法がおかしい」と財務省の数字を躍起になって否定し、「費用の抑制はサービスの劣化をもたらしかねない」とも主張。報酬減に反対する署名集めに奔走した。

 財務省は一方で社福法人の体質の見直し、改革論議を財政制度審議会で重ねてきた。不透明な会計報告、家族経営、親族企業からの設備購入、自治体や議会との癒着――。税の投入を受けながらの不明朗な運営に一部のマスメディアも追及し出した。こうした勢いに押されて厚労省も重い腰を上げる。審議会で検討し始め、地域貢献の義務付けや役員報酬の透明化などの法改正案をまとめた。

社福法人の不透明な体質が「儲け過ぎ」をもたらした、という確信が財務省側にはあったようだ。収支差率という具体的な数字は説得力を持つ。社福法人を槍玉にあげることで、巧みにマイナス改定の土俵を作ったともいえるだろう。
そのとばっちりを受けたのは、熱意をもって地道にケアに取り組む各地の小さなNPO法人や中小の企業のようだ。

だが、マイナス改定はサービスの総和。厚労省は「認知症や看取りなど重要なサービスは評価する」と原則論を言い続ける。各在宅サービスや施設などのそれぞれの報酬がどのようになるかはまだ明らかではない。

 2月6日に開かれる社会保障審議会介護給付費分科会の最終会合で厚労省から提案される。その内容を見ないことには、ただちに一概に介護サービスの劣化につながるとは言えない。ただ、施設から在宅へのケアの大きな流れに加速がつくのは間違いないだろう。
 同分科会で事業者側から強い要望があった職員の「処遇改善加算」の扱いも注目される。財務省は「全体の報酬を下げても、賃金に回すこの加算で月収は1万2000円アップさせられる」とアピールしてきた。
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<前回に続く>

安全基準満たしていないが入居費・食費安い
東京・江戸川区の木造2階建の一軒家では、7人の高齢者が介護を受けながら暮らしている。月の料金は食費も入れて15万円。平均的な老人ホームより10万円安い。廊下の幅や部屋の広さ、消火設備などが国の定める老人ホームの基準を満たしていないため「無届け」だ。基準を満たすための工事などを行うには「採算的な問題がある」(経営者)が、自治体や病院からの依頼で高齢者を受け入れ、常に空きがない状態だという。

7年前から暮らしているという86歳の女性は、体調を崩して自宅で一人で暮らせなくなった。家族はいない。収入が少ないため入れる施設はここだけだと、区役所から紹介されて来たという。

「行くところがないから、ここが一番いい」(入居者)
「やっちゃいけないと言われればやめます。でも、入ってる人たちはどうするんですか」(経営者)

特養間に合わず、自治体・病院も頼みの綱
こうした無届け施設は、行政の目が及ばないことから安全や衛生面が懸念されている。高齢者160人が暮らす東京都内マンションで3年前の冬、インフルエンザやノロウイルスが蔓延して28人が次々と死亡した。

老人ホームで集団感染が発生した場合は保健所に報告する義務があり、保健所から衛生上の指導を受ける。無届け施設は野放し状態だという。元職員は「閉鎖された空間。何事もなかったように済まされてしまう」と話す。

自治体側にとって無届け施設は頭の痛い問題だ。東京・世田谷区は地価の高さなどから高齢者施設の建設が進まず、2300人の入所待機者がいて、無届けの施設に頼らざるをえないという。

保坂展人・世田谷区長はこう話す。「待機者が大変多く、高齢者施設が少ないということで、無届けの場所があるというのが現実です。そこをどう解決していったらいいのかは大変悩ましい」
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