無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2017年10月

<前回に続く>

見落とされがちな地域包括ケア

当然、高齢者の単身世帯も増える。これまで通り、複数人家族が一人の高齢者を介護するという図式は根本から成り立たなくなるのは明らかだ。

高橋紘士氏


高橋氏は、今後は地域で包括的に介護をケアしていくシステムに本気で取り組むべきであると示唆する。特に、見習うべきはスウェーデンやデンマークの介護システムだ。自宅で居住しながら、必要とあらば24時間体制で看護や介護福祉士が駆け付ける地域の介護ケアシステムは、今後見習うべきものがありそうだ。

「ある研究結果では、大部屋に入れられると、人はその部屋の一番重篤な人の状態に引きずられて悪化するそうです。反対に個室になると回復傾向が見られる。人間にとって、食事や排泄といった生命の根源的なところを大切にできるかどうかは、我々が想像する以上に重要なことなのです」

在宅介護の実現には何が必要か

未来の介護の在り方に今後の期待をかけつつも、では今現在、私たちが在宅で介護していくことは実際に可能なのか、最後に介護事業大手「ケアリッツ・アンド・パートナーズ」の取締役副社長、松田吉時氏に話を伺った。

「介護離職の問題が取りざたされていますが、現場に携わっている私たちから見ると、介護度が比較的高くても、介護サービスをフル活用すれば何とかやっていけるというのが実感です」

ただし、注意点もある。まずは職場や家族の理解、話し合いが必要だ。介護は育児と異なり、終了地点が見えないため、漠然とした不安やあいまいな役割分担は介護従事者にとって心的ストレスにつながりやすい。

「身内に介護が必要だと感じたら、まず地域の包括支援センターに連絡し、ケアマネジャーとコンタクトをとってください。誰にも相談せず仕事を辞め、一人で頑張っているうちに、介護に疲れて、最後に弊社にたどり着くお客様が多いんです。

でも、それは順番が逆。むしろ仕事を辞めないほうが利用できるサービスも多いんですよ」

介護度5でも在宅で介護できる人もいれば、介護度は低くても認知症が重度なために在宅介護が困難な場合もある。素人考えで介護プランを組んでも、実効性は薄い。まずはプロに相談することだ。

今後ますます需要が伸びると予想されている在宅介護サービス支援事業だが、実は倒産する業者も続出しており、圧倒的に人材不足の現実がここでも浮き彫りになっている。

倒産業者の4割は訪問介護事業を行っている会社だ。介護を提供する側にとって、在宅サービスはハードルが高い。清潔でシステムが整っている施設で働くほうが、見知らぬ個人宅に行くよりストレスが低いことは容易に想像もつく。

そもそも訪問介護に従事する人材は平均年齢は53歳、5名未満の事業所も多く、ヘルパーが定年になれば、いくら顧客がいても倒産せざるをえないのだ。

厚労省推計によると、25年には、介護人材が37.7万人不足する恐れがあるという。人数ベースで最も不足が多いのは東京都の3万5751人(充足率85%)ということだ。

私たち自身が「老い」に向き合う時期が来たとき、クオリティ・オブ・ライフをどこまで追求できるのか、今後の環境整備にかかっている。

結城康博●1969年、栃木県出身。淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科教授。介護現場での実務経験を生かし、経済学や政治学をベースにして、介護・医療政策に独自の視点で切り込む。厚生労働省の老人保健健康増進等事業「特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究」検討委員会座長。
高橋紘士●一般財団法人高齢者住宅財団理事長。厚生労働省の政策評価に関する有識者会議座長。福祉政策・介護保険論・地域ケア研究の第一人者であり、これまで複数の大学での教授職、全国社会福祉協議会研究情報センター所長、社会福祉医療事業団(現・福祉医療機構)理事などを歴任。
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<前回に続く>

非効率な特養 なぜまだ増える

さて、ここまで特養を中心とした介護施設のニーズと現状について取材してきたが、特養の存在意義自体に疑問を呈する論者もいる。

一般財団法人「高齢者住宅財団」の理事長、高橋紘士氏だ。「地域包括ケア」を中心に様々な研究、提言を行っている高橋氏は、特養の非効率性を指摘する。

「特養を一つ建てるのにいくらかかるかご存じですか。土地価格にもよりますが、およそ100人規模の特養で10億~15億円ほどです。東京なら20億を超すかもしれません。たった100人の利用者のために15億円ですよ。さらに特養利用者の平均利用日数は何日か。一人約1400日ほどです。つまり特養に入った人はだいたい3年から4年はそこで過ごすんです。この数字だけ見ても、非常に回転率が悪く非効率的なやり方だとわかると思います」

それでも特養を国がつくり続ける理由は、「特養」という目に見える福祉施設をつくることで「福祉対策をしている」アピールができるからだという。

「特養をつくるといって反対する党はほとんどないでしょう。けれども、たった100人のためだけの施設に億単位の金をつぎ込むなら、そのお金を在宅介護サービスの充実や介護従事者の人件費に充てるなど、できることはたくさんあるはずなんです」

高橋氏が加えて指摘するのは、日本人の「死に場所」の変化だ。高橋氏によると、1950年代までは日本人の自宅死亡率は8割だったという。それが70年代に5割になり、2000年には逆転、8割が病院死となった。


「僕は冗談めかして、日本の経済成長が日本の寝たきり老人をつくったといっているんです。かつては脳卒中、心臓発作、肺炎などで自宅死していた高齢者は、今みんな病院に搬送されます。その結果、日本人の寿命は延び、85歳以上になるまでなかなか死亡しない長寿国になったんです」

もちろん、長寿国であること自体は悪くはない。しかし問題は、「どのように長寿であるか」だ。

「北欧に寝たきり老人はほとんどいない。日本とは対照的です。病院で一命をとりとめた人が、1年後に重度の認知症になり、寝たきり状態になるというのが日本のスタンダード。

その原因の一つは、医療、家庭、役所、介護訪問、それぞれの連携が取れていないことにあると私は思っています。

一命はとりとめたけれども障害が残っている人がいるとします。でも家族は日中仕事に出ており、話す相手がいない、障害があるから自由に出歩けない。そのうち体が弱りオムツをするようになる、張り合いがなくなり仰向けのままほとんどの時間を過ごす。つまり認知症や寝たきりの多くは、日本人が意図せず生み出してきたものなのです」

現在、日本社会は急速に高齢化している。内閣府の高齢社会白書(平成28年度版)によると、15年10月時点で日本の総人口は1億2711万人で、65歳以上の高齢者は26.7%だ。だが、約40年後の2060年には、日本の国民数は8674万人になり、65歳以上が約40%を占めるという。国民の約2.5人に1人が65歳以上。街を歩いても電車に乗っても、周囲は白髪の人が溢れている光景が広がるのだ。

<次回に続く>

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<前回に続く>

数ある選択肢の中で特養を選ぶのは妥当か


ここで一度、介護施設の種類の整理をしておこう。

大きく分けて介護施設には住居系と入所系がある。まず、住居系はシニア系分譲マンションやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、住宅型有料老人ホームなどに代表される。これらの特徴は、何よりも住居としての快適さや生活の自由度を重視している点だ。

住居+見守り機能や食事サービス、介護サービスなどをオプションで追加していく形式が一般的だ。比較的介護度が低く、ある程度自立して生活が可能、かつ生活のプライバシーを重視したり、自分なりの生活スタイルを維持したい人に向いている。

比較的介護度が高い人の選択肢の一つには、介護付き有料老人ホームがある。様々なタイプの施設や充実度、価格帯があるが、比較的自由度は保ちつつも、介護保険に適応するサービスを一体的に受けることができる。食事、排泄、入浴などのケアも充実しており24時間見守りケアもある。医師の常駐は規定されてはいないが、医療機関との連携があるなど、認知症や介護度が高い場合も対応してもらえる。

ただし施設の充実度や立地、グレードなどによって金額は千差万別で、入居一時金や月々の費用が高額なところも少なくない。介護保険内のケアはほかの施設同様1~2割負担だが、食事や部屋代、保険適応外のサービスはすべて実費負担であるため、ひと月の利用料は15万から20万、30万以上かかるところもあるので家計との相談も必要だ。

そして、特養は、できるだけ介護費の負担を軽くしたいというニーズにこたえる。公的施設のため比較的価格は安く、従来の大部屋で8万~9万円程度、ユニット型個室でも12万~16万円程度だ。ただし、入居条件は65歳以上、要介護3以上、家庭で介護が困難といった介護度が高い人が優先条件となる。

高額な費用がかからず、オールマイティに介護してくれるとあって一定の需要を満たしてきた特養だが、デメリットがあるとすればプライバシーの問題だ。特養は居心地のよい住居というより、介護ケアを重視するため、効率性重視が基本だった。だがその認識も変わりつつあるとA氏はいう。

「最近は特養でもユニット型個室が標準になりつつあります。従来の完全個室とは異なり、食事は大部屋で皆と一緒に食べることで人とのかかわりを保ちつつ、部屋は個室でプライバシーを守る。やはり、おむつを換えたりするのに大部屋のカーテンしきりだけでは心もとないですよね。介護はこれまでどうしても医療や介護する側の事情で語られがちでしたが、昨今では個人の尊厳が見直されつつあるんです」

今回の取材で見えてきたのは、介護における「クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)」というキーワードかもしれない。私たちはつい介護しやすい環境に目が行きがちだが、よい介護環境というのは、快適な居住空間や適切な医療、介護サービスだけでなく、その人の来し方、歴史に紐づく環境だ。

「地方の過疎地域では、公共事業としての特養という見方が存在しています。職がなく、高齢者が少なくなるなかで都市部のお金で特養を建て、雇用を生み出す。

土地が高騰する都心部から高齢者を集めれば、ウィンウィンだという発想です。しかし、介護認定を受けている人の約7割が認知症を患っている現実を前に、どこまで本人の意思、要望を確認できるのか、また遠方への移送に高齢者が耐えられるのかという問題もあります。

70年、80年と生きてきて最後の最後で縁もゆかりもない土地で、見知らぬ人に囲まれて過ごす孤独は、仮に本人が現状を理解していなくても幸せな選択なのか、よく考えてみる必要があると思います」(A氏)

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<前回に続く>

特養の空床はなぜ生まれるのか

では、地域に差こそあれ、徐々に特養に空床が存在し始めている原因は何なのか。調査を進めると2つの要因が見えてきた。1つ目は施設側の事情、2つ目は利用者側の事情である。

まず施設側の事情から見ていこう。特養に空床が存在する原因で、職員側の理由のトップは、「職員の採用が困難」「職員の離職が多い」であり、介護人材確保の難しさがある。2017年3月時点の介護サービス職種における都内の有効求人倍率は6.4倍

一方、都内の全業種平均は2.06倍であり、それを全国に広げると1.45倍になる。それらの数字と比べると、介護サービス業界は突出して人手不足、かつ人材集めが困難なことがわかる。にもかかわらず、介護人件費の低さ、業務の過酷さ、シフト制の厳しさは依然として問題となっている。

この問題に対する施設側の改善案として、「勤務条件の改善」や「昇給昇格制度の明確化」「研修の機会を増やす」「職員メンタルヘルスに対するケア」などが提案されているが、それが現実のものとなるまでの道のりは遠く、業界、国を巻き込んでの介護業界全体の待遇改善が、今後ますます課題となっていくだろう。

利用者側の心理が特養の空床を増加させる

もう一つ、特養空床問題の要因には、利用者側の複雑な事情も存在している。特養人気の声の陰で、実際には入居申込者を募集しても定員に達しない地域もあるし、空きが出たことを告知しても「今はいいです」と断る人が続出しているのだ。介護現場に詳しい東京23区内のあるケアマネジャーA氏が、匿名を条件に詳細を語ってくれた。

「杉並区が約200キロ離れた南伊豆に建設している特養施設が原因で区議会が紛糾しています。実は南伊豆どころか、青梅や八王子など比較的都心から近場の特養であっても、近親者を送ることにためらいがある親族は多い。

距離というのは、健常者が考える以上に介護においてはネック。特に特養の場合、一度入居したらほかの特養に転居がしにくいので、近場が空くまで我慢する人が多いんです」

また、特養以外の有料老人ホームや在宅での介護サービスやショートステイなど、介護環境に選択肢が増えてきたことも、特養頼みの状況に変化が生じている原因だろうと分析する。

「ケアハウスやグループホームなど短時間預けるプランや、3カ月ほどの短期間入居できる老人保健施設など、選択肢も増えてきています。最近では東京23区内の特養でも、半数ほどが辞退するというのが実感です。特養待機者名簿の実効性が希薄になりつつあるので、最近は、『待機者』とは呼ばず、『申込者』と呼ぶようになりました」

しかし、順番が来ても断るのならば、なぜ特養に申し込むのか。その問いについては、「特養=いざというときの保険」という意識が働いているという。介護はいつ終わるともしれない。介護者自身が高齢者だったり、仕事が忙しかったり、いつ事故や病気、介護疲れが生じるかもわからない。

「いざというときに頼れる特養を確保しておきたいのではないでしょうか」

<次回に続く>

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現在の特養ホームの問題点について指摘されています。特養そのものが時代に合わなくなっているのではないかと考えます。在宅介護が今後主流になってきます。そうなると特養の効率性が問われてくることになると思います。高い建設コスト、まだ相部屋タイプが残るプライバシーの欠如といった内容が「クオリティ・オブ・ライフ」を追及する団塊の世代が主流になる今後の高齢者にとって不適合な存在になっていくのではないかと思います。その兆しが表れ出したとみることができるのではないでしょうか?
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空き室だらけの「特別養護老人ホーム」

23区&政令指定都市の利用率44.5%

政治・社会 2017.7.4      

フリーランスライター 三浦 愛美                

PRESIDENT 2017年7月3日号

2017年、介護現場に再び異変が起きている。リーズナブルな価格が人気の特別養護老人ホーム、略して「特養」。そして、注目を集めつつある在宅介護。2つの介護現場の最新事情から、高齢者福祉の未来を探る。

イメージと裏腹に「空いている」特養

2016年、厚生労働省の事業の一環で、みずほ情報総研がある調査に乗り出した。特養の入所申込者は全国で約52万人(調査実施時の数値。最新調査では入所要件が厳しくなり約37万人に減少)といわれる一方で、空床の存在が見え隠れする。

その実態を探るためだ。空床が目立つ施設は、比較的開設後間もない施設に見られるという声も聞かれているため、開設10年以内の1151施設(うち有効回答550件)に対してアンケートを実施し、2017年3月に「特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究」として発表された。

それによれば、2016年11月時点で、全国の特養で「満室」と答えたのは73.5%。26%の施設では「空きがある」。また、新規オープンした特養の開設時点での利用率も、決して高くはなく、ユニット個室(居室は個室。10人程度が1ユニットとしてケアを受ける)で62.4%、従来型個室や多床室では67.8%と、7割を切っている。全国の特養で満床になるまで要した期間が平均5.8カ月。これらの数字をどう受け止めるべきなのか

検討委員会の座長、淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博氏は語る。


「特養が『空く』のは、新設特養のならし期間、入所者の入院、そして入退所のタイムラグ、3つの要因があるとされていました。これらの要因で『空き』が生じるのは避けられませんから、さほど問題ではない。むしろ注目すべきは、これまで認識されていなかった新たな要因が見つかったことです」

それは、地域によって特養の需給ギャップがあること、そして職員不足によりベッドを空けざるをえない施設が存在するということだ。結城教授は「需要を鑑みず、全国一律で特養をつくってきたツケ」「箱ものだけつくり、必要な人材育成と人件費に投資してこなかった政策の失策」と指摘する。

結城康博氏

「現在、全国の特養の数は9700ほど。もちろんまだ特養の数が足りていない地域もあります。しかし、すでに秋田など高齢者の数自体がピークアウトしており、施設に空きが出始めているエリアもあります。

必要な地域に、必要な設備と必要な人材を投入しきれておらず、反対に需要のないところには依然として整備計画が検討されている。

すでに黙っていても人が特養に集まってくれる時代は終わり、不要なところは新たにつくらないなどの作業を早急に進めなければ、10年後には『倒産』する特養も出てきかねません」

つい最近、東京都23区内に住むある人物にこんな話を聞いた。それまで徳島で元気に一人暮らしをしていた母親が、転倒して背骨を圧迫骨折。
地元で入院させたところ、一気に認知症も発症してしまい、2カ月後には要介護3になって退院してきたという。しかし夫婦は共働き世帯。重度の認知症になった母は「嫁が指輪を盗んだ」と言いふらし、夜中に奇声を発するなど問題行動が頻発。疲れ果てて特養を申し込んだら、「500人待ち」と告げられ絶望したというのだ。

彼らは結局、在宅で介護しつつ、デイサービスやショートステイなどを目いっぱい利用しているということだが、実はこのようなケースでも、キャンセルが相次ぎ、想定より短期間で入所できたり居住地以外の特養に入居できる可能性があることはあまり知られていない。


<次回に続く>

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