無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2017年10月

<前回に続く>

無意味な「ローカルルール」の統一に大きな期待

混合介護の柔軟化によって従業員の業務効率向上や収入増、従業員の処遇改善などが見込まれるが、実の所、サービスを提供する事業者が最も期待を寄せているのが「ローカルルール」の統一だ。

※写真はイメージです


介護分野においては、法令や通知の解釈に相違が生じることで、自治体ごとに実施できること、できないことの相違が生じているケースが少なくない。A市では実施して問題ないとされたことが、B市では実施できないとされることが実際に起こっているのである。

複数自治体で同じオペレーションが実施できないため、地域別に組織内のルールや仕組みを構築する必要があり、市をまたいで広範囲に展開しているような事業者にとって、このローカルルール問題は影響が大きくなる。

そのため、特に大手事業者は、混合介護の議論が進む過程としてローカルルールの存在が明らかになり、統一されていくことに期待を寄せている。

弾力化に向けて解消しておくべき課題

混合介護の弾力化については当然、メリットだけではなく課題や懸念点も挙げられている。例えば、事業者が収益性の高い保険外サービスに注力し保険サービスの質の低下や人手不足が拡大する懸念、低所得者と富裕層で不公平が拡大する懸念である。

混合介護における保険外サービスは同時一体的提供が前提にあり、介護保険サービスを提供する事業者が提供することが想定されている面が大きい。

実際に保険外サービスを提供したいと考えている介護事業者は多いが、保険外サービスを提供している事業者は限定的となっている。この理由は保険サービスに係る人手が不足しており、保険外サービスに回せるリソースがないということが大きい。現状、介護事業者は保険サービスの人手を回して保険外サービスを提供しようという考えは少ない。

また、すでに保険外サービスを提供している事業者も少なくないが、その多くにおいて、保険サービス利用者のうち保険外サービスの利用は2割にも満たず、利用額も月に数万円あれば多い方であり、大半は数千円程度という状況である。

介護事業者は、保険外サービスに注力することで十分な収益を得るには程遠い状況であることからも、保険サービスからのシフトが生じる可能性は低いだろう。

現状で提供されている保険外サービスの内容を見ると、その利用額は1回あたり15分程度の場合で500円~1000円程度、1時間であれば2500円~4000円程度が多くなっていて、必ずしも高額ではない。

また、いわゆる富裕層はここで示しているような保険外サービスではなく、一般的なサービスとして掃除や配食といった専門サービスをすでに利用しているケースが多い。

想定される費用が必ずしも高額ではないことやすでに富裕層は自費でサービスを利用している現状を踏まえると、混合介護弾力化によって大きく不公平が拡大するということは少ないのではないだろうか。

混合介護が解禁されれば、介護以外の事業者の参入が予想される。注意が必要なのは訪問介護よりもデイサービスだ。デイサービスの利用者に物販やサービス提供などができるようになれば、「ビジネスチャンス」が広がる。悪質な業者を排除できるように、利用者保護の取り組みが重要だ。

ケアマネジャーや事業者が利用者や家族の状況を踏まえて利用の可否や利用できる金額の上限をあらかじめ定める、サービス提供・物販をできる事業者をあらかじめスクリーニングするなどの対応が求められる。

<次回に続く>

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<前回に続く>

「ついでにお願い!」をできるように

冒頭でもご紹介の通り、現在のルールでは、訪問介護サービスで要介護者(おばあちゃん)の食事を作る際に同居家族分も一緒に作ることや、ヘルパーさんが煮込み料理をしている待ち時間に、家の共有スペースを掃除することは難しい。介護保険で決められた通りに「おばあちゃんの食事を作るだけ」、「料理に専念するだけ」。これが基本となる。また、お気に入りのヘルパーさんを有料で指名することもできない

もしこれらが柔軟に提供できるようになれば、おいしいご飯を食べたいおばあちゃんだけはなく、おばあちゃんの介護をしながら仕事をしている家族にも、料理が上手なヘルパーさんにもそれぞれメリットがある。

おばあちゃんはなじみのヘルパーさんに、自分ができない家のことを安心して任せることでき、家族は家事の負担を抑えることができる。

また、ヘルパーの仕事の多くは朝・昼・夕方に集中しており、日中も働きたくても仕事がないケースもあるため、もっと働きたいというヘルパーにとっては仕事が増え、収入も増えることにつながる。

事業者としてもヘルパーの仕事が増えることで退職の防止につながる可能性があり、事業者としての収入も多少増えることにつながる。

現状の混合介護に関する議論の中心は、例えば、介護を受けている人とその家族分の料理といったような家事のサポートをいっぺんにできないか、調理の合間に短い時間でできる掃除やペットの世話などを提供できないか(これらを「保険内外のサービスの同時一体的提供」と言う)、料理上手で顔なじみのヘルパーさんを指名できないか(これを「付加価値相当分の料金徴収」と言う)について、柔軟な対応ができないか、というものだ。

東京都豊島区は混合介護をメニュー化

さらに混合介護の世界では上記で例示した「保険内外サービスの同時一体的提供」と「付加価値相当分の料金徴収」以外にも、もっと多種多様なサービス提供を可能にしようという取り組みが始まっている。

先進的な取り組みで知られる東京都豊島区では、介護事業者や利用者のニーズを元に、幅広くモデル事業の内容を検討している。モデル事業では。混合介護を利用しやすいようにメニュー化して提供する。

例えば、部屋を掃除するついでに愛犬の世話をしたり、お風呂の準備の時間にテレビ電話の使い方を教えたり、デイサービスの送り迎えの途中に日用品の買い出しでコンビニに立ち寄ったり、デイサービスの場で夕食用のお総菜を販売したり……。これらは簡単にできそうであるが、柔軟に実施することには障壁がある。

この障壁を乗り越え、利用者、家族、介護事業者それぞれにとってメリットがあり、それほど追加負担も必要とせずに混合介護を利用できるよう、東京都・豊島区では図表2に示すようなサービスメニューについてモデル事業で実施することを目指している。

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徐々に混合介護を巡る議論が活発化してきています。東京都豊島区が特区にて混合介護の取り組みを始めていますが、いまいち混合介護の中身が不明確なような気がします。下記にも書かれていますように、従来上乗せ、横出しサービスはあったかと思いますが、これとどのように異なるのか、一体的サービスという言葉だけの問題なのか、よくわかりません。制度との関係、契約上の問題、様々な課題があるように思います。
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なぜヘルパーは"介護食"しか作れないのか

自治体ごとにルールが違う理不尽さ

企業経営 2017.10.30
福田 隆士

日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門シニアマネジャー 福田 隆士                

PRESIDENT Online

「ヘルパーさんにおばあちゃんの食事を作ってもらうのと一緒に、今晩の家族の分も作ってもらおう」。これはいまの介護保険ではNGだ。介護保険サービスと組み合わせて「家族用の食事」をつくることは認められていない。

だが日本総研の福田隆士氏は「サービスを柔軟に組み合わせる『混合介護』が可能になれば、業界の人材不足解消にも役立つ」という。なにが介護の効率化を妨げているのか――。

すでに「上乗せ」と「横出し」はあるが……

 混合介護の弾力化に向けた検討が本格化している。2016年9月の公正取引委員会「介護分野に関する調査報告書」における提言をはじめ、179年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」において、厚労省がその検討を進めることとされており、東京都と豊島区では18年度以降のモデル事業実施に向けた検討が進んでいる。混合介護は、介護保険サービスとそれ以外の一般のサービス(保険外サービス)を組み合わせて提供することを指す。

現状でも保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供することは可能であるが、時間を区切る、あるいは場所を区切るなど、明確に区分したうえで提供する必要がある。明確な区分が必要とされる理由は利用者保護の面が大きい。

保険サービスと保険外サービスを一緒に提供することで、必要ではないサービスが一体的に組み込まれる可能性、間接費用が介護保険を給付する側に転嫁される可能性があり、これを防ぐ狙いがある。

介護保険サービスの一つである訪問介護を例に、提供可能な混合介護の範囲を示したい。介護保険で利用できる限度額は、介護を要する度合いによってそれぞれ定められており、訪問介護を利用できる回数にも上限がある。この利用上限を超えて利用したい場合は自己負担でサービスを受けることができる。

訪問介護には「身体介護」と「生活援助」の2種類があり、身体介護は食事や入浴、排泄などを介助するもので、生活援助は掃除や洗濯、調理などをサポートするものである。ただし、生活援助において庭の掃除やおせち料理の準備などは対象とはならず、保険外サービスとして利用する必要がある。

このようにサービスを保険の利用上限を超えて利用することを「上乗せサービス」、そもそも保険の対象になっていないサービスを提供することを「横出しサービス」と言い(図表1)、現状でもその提供は可能である。
明確な区分が必要とされるため、両サービスを一緒に提供することは原則不可とされている。


<次回に続く>

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サ高住を地域住民に開放する動きがあります。地域の公民館という発想は以前からありましたが、コストの管理と人材不足によりなかなか実現できませんでした。ジェイ・エス・ビーの取り組みに注目したいと思います。今後期待される内容かと思います。
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【ニュース】 ジェイ・エス・ビー、サービス付き高齢者向け住宅で地域住民に食堂施設を開放、「地域の公民館」を目指した取組み 京都府京都市

遊都総研 2017.10.30
学生マンションの企画開発・仲介斡旋・運営管理を手掛ける株式会社ジェイ・エス・ビー(京都市下京区、田中剛社長)は、同社グループが運営するサービス付き高齢者向け住宅「グランメゾン迎賓館京都嵐山」(京都市右京区)で、地域住民の交流スポットとして食堂施設を一般開放、飲食スペースの利用や健康運動の教室等のイベントに参加できる「地域の公民館」を目指した取組みを行っている。

同館では、今年の8月より、入居者と地域の人が交流できるスポットとして、館内のレストラン形式の食堂を一般に開放。

暖かな木目が施された大きな食堂では、専属のシェフによる料理を楽しむことができるほか、健康運動の教室にも参加することができるという。
20171030ジェイエスビー

食堂の一般開放では、専属シェフによるランチや飲み物が楽しめるほか、毎週木曜日に開催する健康運動タイムや、定期的に開催するイベントにも参加可能。

主な利用者は、65~75歳の活発に活動する女性が中心。

 知り合いが多く、時間にゆとりがある人が多い様子で、健康運動タイムには毎回20~30名程度、カフェタイムには毎回10名以上が来訪しているという。

なお実施後は、入居者も参加し、地域住民と楽しそうに談笑する場面が見られるようになったほか、地域住民からは「館内の様子が知りたかったところでいい機会になった」との声も寄せられた。

今回の一般開放をきっかけに、町内会が会合スペースとして館内を利用することにもつながったという。

グランメゾン迎賓館京都嵐山の所在地は京都市右京区嵯峨天龍寺油掛町10-25、交通はJR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅より徒歩7分、京福電気鉄道嵐山本線「鹿王院」駅より徒歩4分。
構造・規模は鉄筋コンクリート造3階、総室数は56室。

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その支給額から見て、多床室の料金なら払えるけど、ユニット型は無理という人はかなりいる。にもかかわらず、新設の特養はユニット型ばかり。その結果、空室が出てしまうんです」

多床室の利用額8~9万円より月4~5万円ほど高くなってしまう。このため空きがあるのに、入れないという状況が生じているのです。

■はやりのユニット型は職員の負担が大きすぎる

空室が出る要因として、施設側の事情もあります。

多床室は介護職員が効率的にケアできますが、ユニット型は個別ケアのため職員の負担が大きくなります。介護施設はただでさえ人手不足。給料はたいして変わらないのに仕事の負担が重いところに働き手はなかなか集まりません。

老人ホームでは最低でも利用者3人に対し1人の介護職員を配置しなければならないという基準がありますが、その基準を満たすことができず、空室があるのに利用者を受け入れられない特養があるとMさんは言うのです。

「つまり、空きが出ているのは厚労省の方針で新設が進められたユニット型特養。理想と現実のギャップが生んだ空室といえます。たしかに入所者の方々のことを考えたら、個室であることが理想です。しかし、料金が高くて入れない人がいるという現実がある。そもそも特養って、利用料が安いのが最大の利点じゃないですか。収入が少ない要介護者のセーフティネットでもある。その辺の目配りを十分にしないまま、空室を出してしまっている状況はやはりおかしいですよね」

介護関係者でも、ユニット型支持派と多床室支持派に分かれて議論が行われることが多いそうです。

「でも、どちらがいいというのではなく、ユニット型も多床室も十分に整備して、利用者さんの状況に応じて選択できるようにするべきだと思います」(Mさん)

(ライター 相沢 光一)
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