政府はこの1年半の間に一体何をしてきたのであろうか。医療崩壊の一因として、一橋大学経済学研究科の高久玲音准教授は「救急患者を受け入れるキャパシティがないにもかかわらず、診療報酬欲しさに急性期医療に手を出す病院が多いのも原因の一つだ」と指摘する。
入院中や療養中などの人の数(全国)8月19日時点 181106人である。これで医療崩壊を起こしているのである。
日本のコロナ向け病床は約2万8,000床で、感染症への対応が可能な病床全体約73万床の4%弱にとどまるとされている。何故、70万床もありながら、受け入れ拡大ができないのか?
国はコロナ対策で病床確保の為に政府は膨大な空床確保料をばらまき、受け入れ体制を作ったつもりが、医療体制は「はりこの虎」であったということである。空床確保料で病院は潤ったものの、実質的な受け入れ体制ができていない為にコロナ患者の受け入れができないという皮肉な結果となったのである。
その一つに、海外では法的に救急患者の受け入れを断れないが日本では救急患者を断れるという制度的な問題があるということ。
二つには、現在の日本の医療提供体制では中小規模の民間病院が乱立しており、救急医療に携わる急性期病院であっても医療体制は必ずしも万全ではないということ。高い診療報酬を得る為に急性期医療に多くの病院(全体の6割)が参画しているが、実質的に機能していないのである。
平時から医療者の過度な負担なしに「24時間365日断らない医療」を中心に、中小病院の統廃合や機能分担を行い、真の緊急医療体制を実現できるような仕組みが指向される必要があったが、政府はこの1年半の間にその構造改革を行うことを怠った。その責任は重い。そのツケが今、国民を襲っている!
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病床はあるのにコロナ患者は自宅療養 政府が見落としている医療体制の問題点
SankeiBiz2021.8.19
新型コロナウイルス拡大で、病院への救急搬送を断られるケースが増えているという。だが、この患者の「たらい回し」は、コロナ禍以前から起きていた。一橋大学経済学研究科の高久玲音准教授は「救急患者を受け入れるキャパシティがないにもかかわらず、診療報酬欲しさに急性期医療に手を出す病院が多いのも原因の一つだ」という。
新型コロナウイルスの感染拡大が続いている。その結果、医療機能は逼迫しており、コロナに感染した際に入院できるのは既に相当な幸運が必要だと言われている。東京都によると、都内では「自宅療養」は2万2226人、「調整中」は1万2349人となっている(8月18日時点)。
医療現場での混乱も続いているが、第1波の頃とは明らかに異なる点がある。多くの病院の経営は順調なのだ。
突然の流行で混乱を極めた第1波では政府のコロナ対策補助金が整備されておらず、病院は軒並みかつてない減収を記録した。未知の感染症に対する医療従事者の英雄的な奮闘にもかかわらず、ボーナスを削減せざるを得ない病院も多かった。
その後、コロナ対応のための補助金が整備され、2020年度全体でも黒字の病院が増えている。全国自治体病院協議会の調査では6割の自治体病院が黒字となっており、少ない患者数にもかかわらず、例年より黒字病院が増えていることが報告されている。
通常の医療ができなくても「儲かる」からくり
筆者がとりまとめた東京都の病院を対象とした経営状況調査でも、赤字の病院はあるものの、コロナ患者の受け入れが期待されている都内の急性期病院は2020年度全体で億単位の黒字だ。多くの通常医療がキャンセルされた中での黒字は、病院に対する補助金がいかに潤沢だったかを示している。
黒字のカギは政府が設けた空床確保料にある。コロナ患者を診るためには、他の患者と隔離するために多くの空床を事前に準備する必要がある。空床を確保するには通常の患者の診療を停止する必要があり、そうした機会損失を補填(ほてん)する補助金が設けられた。
具体的には、ICU(集中治療室)では1床当たり30万1000円/日、HCU(高度治療室)では21万1000円/日、それ以外の病床では5万2000円/日が支給される。この空床確保料には問題も多く、例えば、もともと稼働率の低い病院が、患者のいない病床をコロナ患者のための「空床」として申請して儲けているケースもある。
多額の補助金は配られたが、残念ながら医療提供体制は改善されていない。典型的な例は、搬送困難事例の増加だ。
重点医療機関は空床確保料をもらっていることもあり、基本的にコロナ患者の受け入れを断らないことが想定されているが、実際には「直前まで診ていた一般診療の患者のベッドをすぐに開けられない」等の理由で断るケースもある。
救急患者を断れる日本、断らないアメリカ
「患者を断る病院」という報道に長い間慣れきっていると、救急医療とはそういうものかと思ってしまうが、患者の「たらい回し」は海外では日本のような社会問題には発展はしてない。
最も有名な例は米国だろう。米国では1986年に制定されたEmergency Medical Treatment and Active Labor Act(EMTALA法)で、病院が救急患者に対して適切な診療を行わない場合には罰則の対象となっている。当時米国では、無保険者が民間病院に救急搬送の受け入れを拒否されることが社会問題化しており、EMTALA法はその解決策として制定された。
コロナ患者、および疑い患者の搬送困難事例が伝えられる中で、平時から救急搬送受け入れの義務化を通じて「24時間365日断らない」病院を整備・支援していくということは必要に思える。加えてそうした方向性には、救急搬送の問題のみならず、長らく医療提供体制の課題だった、病院の機能強化・分化を促す面もあるだろう。
現在の日本の医療提供体制では中小規模の民間病院が乱立しており、救急医療に携わる急性期病院であっても救急専門医が1人しか常駐しない病院もある。また、看護配置の高い病院に手厚い診療報酬を設定していたこともあり、実際には急性期の患者の診療実績が乏しい病院まで急性期医療に参画してしまっている。
地域医療構想における「高度急性期」および「急性期」の病床割合は約6割にのぼっており、急性期の医療機能が集約化されていないこともたびたび指摘されている。言葉は悪いが、困難な患者の受け入れは断ってしまえるので、多くの病院が診療報酬上のメリットを目当てに急性期医療に手を上げているという実態もあるだろう。
乱立する中小民間病院の統廃合が必要だ
加えて、病院の機能分化・強化を進める政策は、そのまま未知の新興感染症への対策にもなる。コロナ禍では急性期の医療機能が分散されているために、強力に患者を受け入れる病院がなく、そのために医療連携がすぐに困難になってしまった。
コロナ禍という非常事態では、病院が患者を受け入れないという事実がクローズアップされた。こうした事態を避けたいのであれば、平時から医療者の過度な負担なしに「24時間365日断らない医療」が実現できるような仕組みが指向される必要がある。また「24時間365日断らない医療」に過度に依存しない、国民の良識ある受診行動も大切になるだろう。
政府は病院にコロナ患者を受け入れてもらうために、空床確保料という潤沢な金銭的インセンティブを与えることで対処してきた。膨大な公金が投じられた一方で、国際的には少ない感染者数にもかかわらず医療システムはすぐに逼迫してしまっている。この事実は個々の医療従事者の献身的な取り組みとは全く別に、全体的なシステムとしてわれわれの医療提供体制が大きな問題を抱えていることを示唆している。
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