<前回に続く>

正直がっかりした
「新オレンジプラン」の中身

 そこで、厚労省は認知症への基本的な介護対策を介護保険とは別に打ち出さざるを得なくなった。2012年9月に決めた「認知症施策推進5か年計画」(オレンジプラン)である。その経緯については、連載の第9回と第10回に記した。まだ5か年計画の3年目なのにもかかわらず、今回新たに「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)を作り練り直した。

 昨年11月、東京で開かれた「認知症サミット日本後継イベント」での会場。各国の専門家を前にして安倍首相が「新たな戦略の策定を厚労大臣に指示します」と宣言したことによる。急遽、オレンジプランを修正してできたのが新オレンジプランというわけだ。厚労省は1月7日に自民党に披露、その後に公明党の了承を得て正式に発表される。

 新プランの中身であるが、残念ながらオレンジプランの域からほとんど出ていない。がっかりである。安倍首相が国際会議で大見得を切るほどの内容ではなかった。

 プランは7つの柱で構成している。

(1)認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進
(2)認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供
(3)若年性認知症施策の強化
(4)認知症の人の介護者への支援
(5)認知症の人を含む高齢者にやさしい地域作りの推進
(6)認知症の予防法、診断法、治療法、リハビリテーションモデル、介護モデル等の研究開発の推進
(7)認知症の人やその家族の視点の重視

これらの多くは、オレンジプランの踏襲であり、また認知症介護の現場では既に実践されていることの追認に過ぎない。

オレンジプランとの違いがはっきりしているのは(2)で挙げている獲得目標の人数だろう。いずれも次の介護保険改訂時である2017年を目標時点としている。

 まず、一般国民が認知症の関連講演を聞くだけで得られる「認知症サポーター」。2017年度末までに600万人を目標としていたが、800万人に引き上げる。早期診断できる医師を増やすための「かかりつけ医認知症対応力向上研修」の受講医師を5万人から6万人に増やす。さらに、より認知症に詳しくなって地域の医師に指示を出せる「認知症サポート医」の養成研修受講医師を4000人から5000人に増やす。

 さすがに、これら人数の上乗せだけでは物足らないと判断したのか、もうひとつ加えた。「認知症初期集中支援チーム」を2018年度には全国すべての市町村で整備するとした。かなり思い切ったいい提案である。

「認知症初期集中支援チーム」は、オレンジプランの中で最大の目玉だった。看護師やリハビリなどの専門職が認知症の人の家を訪問して、家族に支援法をアドバイスしたり、かかりつけ医と連携して自立生活を手助けするものだ。認知症の初期の段階の人へ集中的に関わることで進行を遅らせることができる。

既にモデル事業として始めているが、現在わずか41市町村でしか実施されていない。あと3年間で1741の全区市町村に広げようという方針だ。その意気込みには拍手である。

認知症高齢者がすでに受診している病院やかかりつけの診療所医師と「連携しながら」と厚労省は謳っているが、実際は「押しのけて」特別チームを介入させようという制度だ。現行の医療制度では、きちんと認知症を診ることができる医師が少ないため、いわば特別な訓練を受けた特殊部隊を投入しようという作戦ともいえる。それだけに、既存組織の抵抗は大きい。

新オレンジプランで唯一の高評価を得られる項目だろう。

日本の認知症ケアが欧米諸国と比較する際に必ず問題となるのが精神科病院への入院である

(4)の中で言及した。「その必要性を見極めたうえで、標準化された高度な専門的医療サービスを短期的・集中的に提供する場として、長期的・継続的な生活支援サービスを提供する介護サービス事業所や施設と適切な役割分担が成されることが望まれる」と記す。精神科病院を「短期・集中の場」と明確に区分けした。そして「精神科病院等からの円滑な退院や在宅復帰を支援する」と結ぶ。

 脱病院策として前向きではあるが、現在の認知症入院者をいつまでに何人に減らすかという肝心の数値目標は相変わらず出て来ない。踏み込み不足と言わざるを得ないだろう。一方で、欧州諸国は数字を掲げて、脱病院への道筋をつけてきている。
<次回に続く>