<前回に続く>

家族にとっての最高と、本人にとっての最高は、果たして両立できるのか。家族の求めることは概ね同じだけれど、本人が求めることは個人差が大きい。自分で自分の最期の過ごし方を決める。それが可能になれば心穏やかにこの世との別れを迎えられる。

 「そのためには、自分の裁量で使えるお金をしっかり残しておくしかないですね。年をとったらまず家族と縁切りとだれかが言っていましたが、これからの時代、まさに豊かな老後はそこからなんでしょうね」

親を看取った最後の世代は、子どもに看取られない最初の世代となって高齢期を迎え、最期の時をどう過ごすかは自分が決める時代になりつつある。自分の築き上げたものは子どもに残さず一代限り。その覚悟を固めれば、それなりに費用もかかる慶友病院での最期も選択肢に入るかもしれない。最晩年を家族任せや医療任せにしないための気持ちの整理や資金の準備に、早すぎることはないのかも……そんな思いを抱きながら、遠く新宿の高層ビルが望める屋上に出てみた。

敷地内に同居するよみうりランドのジェットコースターから歓声が聞こえる。最初はゆっくりトロトロ、やがて一気に手に汗握る大冒険の絶叫が続くジェットコースターと、その中でさえ笑顔で手を振る人々が間近に見える。実験的試みに果敢に挑戦する大塚の姿と重なるようで、轟音と歓声に思わず手を振り返していた。

大塚宣夫(おおつか・のぶお)
1942年、岐阜県生まれ。大学卒業後、79年まで精神科医として病院勤務、その間、フランス政府給費留学生として2年間渡仏。80年、高齢者専門の療養型病院として青梅慶友病院を開設、2005年、よみうりランド慶友病院を開設。著書に『人生の最期は自分で決める』(ダイヤモンド)