<前回に続く> 認知症ケアの切り札「グループホーム」開始3年で目標3200ヵ所をクリアしたが… ■さて、今回のテーマの認知症ケア。審議会議論を経て2015年4月以降にどのように変わるのかを見て行こう。 ■認知症ケアの本命は何と言ってもグループホームである。グループホームとは、認知症高齢者が、食事や入浴などのサービスを受けながら毎日暮らす場である。個室が確保され、日中は個室の目の前の食堂兼居間で寛ぐ。入居者は9人以下に限定され、スタッフと共に家庭的な生活を営む。極めて小規模なグループ生活で、時には家事を職員と共に行う。普通の暮らしと同様の日々を送ることによって認知症特有の不安定な心情を緩和できる。 ■1990年代に北欧で生まれ、「認知症ケアの切り札」と喧伝される。介護保険直前に厚労省がモデル事業として推進、各地で開設が進んだ。それまでの高齢者施策のゴールドプラン(高齢者保健福祉戦略10か年戦略、1990年から1994年)や新ゴールドプラン(高齢者保健福祉5ヵ年計画、1995年から1999年)にはない介護保険の目玉として採りいれられた。今回の制度改定で、「2ユニットまでしか開設を認めていなかったが、3ユニットに拡大する」となった。 ■ 「グループホームを広げていこうとする前向きな姿勢」と一般的には評価されているが、認知症の当事者やその介護家族からみると、「今更、この程度では」と冷淡な反応だ。「暖簾に腕押し」とも言われる。なぜか。 ■厚労省は、介護保険のスタート時にグループホームを「施行5年後には全国で3200ヵ所に広げたい」と目標数字を掲げ、相当な意気込みようだった。いざ、始まってみるとその計画を上回るスピードで開設が相次いだ。「やっと受け入れ先が見つかった」「介護に行き詰った家族にとっての救世主」「家庭的な暖かい生活支援態勢がといてもいい」と高い評価を得たからだ。 ■認知症のケアは難しく、家族だけでなく施設でも受け入れに難色を示していたこともある。 ■グループホームの職員配置は日中3対1。つまり利用者3人に対して1人の職員が付く。ローテーションを組むには入居者9人に対してほぼ同数の職員が必要となる。一方、同じように高齢者が暮らす特別養護老人ホーム(特養)では、やはり3対1の職員配置。だが、日中でなく利用者全員に対する比率だから、夜勤者や泊り明け職員を含める。従って、日中の職員配置は7対1や8対1とかなり少ない。 ■グループホームが相当に手厚い職員配置となっているかは明らかだ。それだけ充実した生活支援、とりわけ個別ケアが実現できる。認知症ケアは100人に100通りのケアで臨まねばならない。個別ケアにどれだけ近づけるかがより良いケアに欠かせない。特養より評判がいいのは、こうした仕組みがあるからだ。 ■福祉の主役だった社会福祉法人以外にも参入が認められたことで、建築や不動産業者など土地を確保しやすい事業者や教育、飲食業界など全くの域外事業者も積極的に進出してきた。介護報酬が高額に設定されたこともあり、新規参入事業者が2棟目、3棟目を開設、チェーン展開を目指す事業者も各地で登場してくる。 ■地域活動に熱心な地元のNPO法人が、「最も支援を待ち望んでいる認知症の方を手助けしたい」との強い思いからグループホームに着目して参入するケースも少なくなかった。草の根の住民運動が開花し、その共鳴者がまた新規開設に向かう。 ■日本のグループの中には、本家の北欧を追い越すほどの優れたところが多い。入居者と一緒に商店街やスーパーに出かけて食材を購入し、職員と並んでキッチンに立って調理を行い、食後には食器の後片付けもしてしまう。自宅での暮らしと変わらない生活を続ける。これこそが認知症ケアである。欧州諸国のグループホームでは見られない営みだ。日本の傑出した手法だろう。「食」への関心、こだわりが欧州よりはるかに勝る日本人ならではのケア手法である。 ■ 「寄り添うケア」を掲げて運営するNPO法人のグループホームには、こうした日々の暮らしを尊重する志向が強い。いわゆる「生活モデル」の構築である。 ■暫くは「グループホーム・ラッシュ」と言われるほど全国各地に広がった。厚労省の開設計画を上回る勢いである。スタートして3年余りで3300ヵ所に達し、「5年後に3200ヵ所」の目標を早々と超えてしまった。 ■4、5年目に入ると、あまりの急増に対して「ケアの質」を問われ出す。「これまで福祉の「ふ」の字も知らない事業者がどっと入ってきた」「地主を説き伏せ、儲かる商売と勧誘して開設した」など、従来の福祉事業者からの反発も出てきた。 <次回に続く>