<前回に続く>

関野さんは「在宅老人ホーム」と名付けた理由をこう説明する。 「施設ではスタッフのいる部屋から入居者の居室に移動してお世話をしますよね。在宅老人ホームは同じサービスを、事業所と自宅でおこないます。つまり『道路』が施設の廊下で、『自宅』は施設の居室のようなもの。移動の距離と時間が長くなっただけというイメージなんです」  毎月の利用料は、要介護度に応じた介護保険サービスの自己負担(1割)に、定額2万円の生活支援サービス費用を合算した金額。食事の宅配を利用する場合は、内容や1日何食分注文するかによって、3万~4万1千円が加わる。 「施設のような住居費はかからないので、安く抑えることができています」(関野さん)  要介護3で3食分を頼んでいる田中さんの場合、毎月の自己負担は約8万5千円。年金で十分賄うことができているという。田中さんはこう話す。 「有料老人ホームのような高額な入居一時金がないので『だまされたら』とか、『あわなかったら』といった不安もなく、気軽に始めることができました。今は満足していますが、一人暮らしなので要介護度が進めば在宅は難しくなるかもしれません。そのとき、あらためて施設入居を考えればいいと思っています」  新宿区内の一戸建てで暮らす篠原さん(仮名)夫妻も同サービスを利用している。昨年末、夫の孝さん(同・73歳)は心臓病の発作で救急搬送され、命は取り留めたものの手足にまひが残り、食事や排せつなどほぼすべての活動に介護が必要な状態に。妻の雅子さん(同・72歳)は「高齢の自分一人では自宅で介護はできない」と判断し、退院後は施設に入居することになった。  しかし施設ではベッドに寝かせたままの状態が続き、それまで少し動かせていた手や足が動かせなくなってしまった。泣きそうな顔で「家に帰りたい」と繰り返す孝さん。そんな姿を見て雅子さんも追い詰められていたとき、たまたま自宅のポストに入れられた在宅老人ホームのチラシを見つけ、電話をかけたそうだ。 「1週間で準備が整い、家に戻りました。そのときのうれしそうな夫の顔を今でも覚えています」  と、雅子さん。それから1カ月半。孝さんは生きる気力を取り戻し、寝たきりから車椅子での生活ができるようになった。雅子さんは晴れ晴れとした顔でこう話す。 「 (取材・文/熊谷わこ) ※週刊朝日MOOK「自宅で看取るいいお医者さん」より抜粋