増える介護費 自己負担(下)困惑する自治体 「不正」把握へ事務量増大

 「限度額未満まで預金を下ろして『車を買った』と言われても、それ以上調べようがないんです」。東海地方にある市の介護保険担当職員は表情を曇らせた。

 八月から始まった介護保険制度の見直しによる自治体補助見直し。施設利用者から申請の際に預金通帳などのコピーを受け取っているが、窓口で対応の難しさをこう打ち明ける。

 これまで所得額だけで補助対象者や額を決めていたが、単身で一千万円、二人暮らしで二千万円以上ある場合は軽減対象から外れる=表参照。年間で約五百六十億円の介護給付が減る見通しだ。

 資産がいくらあるかは自己申告制で、一部の資産のみを報告し、他は隠すなどの不正が懸念される。

自治体は不正防止のため、銀行に口座情報などを照会できる同意書を申請者から受け取っており、調べることができる。不正が分かった場合、支給額の二~三倍を徴収する。

 自治体は対応に大わらわだ。事務量増加に対応するため、東京都世田谷区は四月、介護保険担当職員を増員。名古屋市は各区に介護給付事務などをする嘱託員を各一人配置した。両自治体とも「不正などの情報があれば対応する。一部の利用者を抜き打ちで調査する」としている。

 ただ、未申告の預金があると思われても、口座を開設した金融機関が分からなければ、多数の金融機関の中から照会先を絞り込まなくてはならない。ある自治体の担当者は「限られた人数で、どこまで効率的に調査できるか」と不安を口にする。現金を手元に置く「たんす預金」を調べる方法はなく、厚生労働省も利用者の良心頼みだと認める。

◆「ペナルティーがあること伝えて」 

 「今回の制度改正は、大きな不公平感を解消し、高齢者の世代内である程度持っている人が、持っていない人を助ける世代内扶養を強化するのが目的です」

 結城康博・淑徳大総合福祉学部教授(社会保障論)は強調する。介護保険制度を議論する厚生労働省社会保障審議会介護保険部会の委員を務めている。

 結城教授によると、「年金額が少なければ、多額の預貯金があるのに食費などで補助が受けられる仕組みは不公平だ」という意見は、審議会の場で以前から出されていた。しかし、資産を理由とした負担増には反発が予想されるほか、預貯金に関する書類を整えたり“資産隠し”を調査したりする自治体の事務の増量が懸念され、制度導入に踏み出せなかった。

 状況を変えたのは、年間一兆円ずつ増える介護保険財政の膨張と、高齢化で高騰する介護保険料、国の財政逼迫(ひっぱく)だった。

 結城教授は「資産による軽減見直しをしないと、子や孫の世代へ負担がさらに重くなる」と指摘。不正問題に関して、「自治体は制度の趣旨とともに、不正にはペナルティーがあることもしっかり知らせるべきだ。ただ、特養を利用している世代はまじめな方が多いし、不正はごくわずかではないか」と想像する。

 

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