<前回に続く>

<マンション高齢化時代> 認知症(下) 

◆住民みんなで見守る

「今日、誕生日なんですか?」「そうだよ。28歳になった」

横浜市の霧が丘グリーンタウン第一住宅で、毎週金曜日に開かれる高齢者サロン「ふらっと・ほっと」。女性スタッフの問いかけに高齢の男性が答える。「28?」「本当は82歳」。ちゃめっ気たっぷりの返事に、笑い声が響いた。

 サロンは敷地内の集会所を利用し8年前に始まった。住民の安本とよ子さん(82)が提案し、管理組合が集会所を無料で貸すことを決めた。住民14人がスタッフとして運営を手伝い、午前10時から午後4時まで、好きな時に高齢者が立ち寄って談笑したり、マージャンをしたり。民生委員をかつて務めた安本さんは「お年寄りがつながる場をつくりたかった。毎週顔を合わせれば小さな変化にも気付ける」と話す。

 約400世帯のマンションは1979年に完成。住民は当初からの居住者が約半数と高齢化が進む。管理組合の役員を務める数馬平内(へいない)さん(76)は「最近、認知症ではと思われる人も見かけるようになった」と話す。

 数馬さんが最初に認知症とみられる住民に気が付いたのは2年前。ガス管や排水管の大規模修繕工事を実施したときだ。工事に向け、全世帯に部屋の工事部分の片付けをお願いしていたが、70代の女性が片付けていなかった。

 やむなく数馬さんと業者が片付け、工事後に元の場所へ。それから、女性から「洗剤がない」「タオルがない」と連絡が来るようになった。だが、見に行くと棚にちゃんとある。「元の場所と全く同じところに戻していないと分からないようだった。これが認知症なのかなと思った」

 これを機に、管理組合は地域包括支援センターの職員を講師に招いて認知症サポーター養成講座を開催。昨年9月、管理組合の役員を含め、住民39人が受講した。今後も毎年講座を開き、その年の班長が受講する。41班の各班長は輪番制で、10年で一回り。安本さんは「十年後には全世帯がサポーター。誰かが面倒を見る、ではなく、全員で見守りたい」と話す。

 「認知症予防に大切なのはコミュニティーづくり。同じ場所に住み、集会所もあるマンションにはその環境がある」。

名古屋市千種区社会福祉協議会の坂井聖士事務局次長(42)は強調する。区内では世帯の約75%が集合住宅に集中。そこで2013年に定めた地域福祉活動計画で、マンションでの福祉活動をテーマに取り入れた。

 その取り組みとして開いたのが集会所でのサロンや介護研修会。一人暮らしの高齢者が多いマンションでは「ここの住民はそんな場を求めていない」と反対する声もあったが、研修会を重ねるうちに交流が広がり、一年後には住民が自主的にサロンを開催するように。当初は反対していた男性住民も、「エレベーターで一緒になった女性が認知症かも」と地域包括支援センターに連絡するようになったという。

 一方、同じマンションで70代の男性が孤立死したことも。その数週間前から廊下を徘徊(はいかい)する様子を周囲の住民が見ていたが、誰も自治会や民生委員に連絡しなかった。坂井さんは「コミュニティーが全体に広がっていなかった。サロンに出たい人ばかりでもなく、課題はある」としながらも、こう強調する。

 「認知症対策というと大変なイメージだけど、必要なのは『最近、顔見ないな』と近所が気付くこと。地域がSOSをキャッチできれば、認知症の予防にもつながる」 (寺西雅広)