――埼玉県千葉県神奈川県などのベッドタウンで高齢者の単身世帯や夫婦のみ世帯が増えていく中で、どのように備えていけばいいでしょうか。

ひとつは、「地域包括ケアシステム」の構築です。身寄りのない一人暮らし高齢者であっても、安心して住み慣れた地域で自立した生活を送れるように、医療、介護、生活支援などを提供する専門職が、地域ごとにネットワークを築いて、一人暮らし高齢者の生活を支えていくことが求められます。

例えば、
千葉県柏市では、市役所が中心になって、医療従事者、介護従事者、福祉従事者などが一堂に会する会議を年に数回開き、「顔の見える関係」を作っています。また、開業医が主治医・副主治医といったチームを組んで、地域住民に往診できる体制をつくっています。医療や介護、福祉の地域資源は地域によって違うので、それぞれの地域に合うように地域包括ケアの仕組みをつくっていくことが求められています。その際、柏市の事例が示すように、自治体の役割は大きいと思います。

 一方で、身寄りのない高齢者が在宅生活を続けるには、住民同士の支え合いネットワークも必要だと思います。大都市圏のマンションや団地では、隣近所と人間関係が築かれていないことも珍しくありません。今後一人暮らし高齢者が増えていく大都市圏で、どのように住民ネットワークを築いていくのかは大きな課題となっています。

 この点、3千人を超える居住者を抱え、その5割が高齢者であり、さらに居住者の2割強が一人暮らし高齢者となっている東京都内のある大規模団地では、自治体が資金を拠出してサロンをつくる事業を始めました。

サロンには、高齢者だけでなく、子供も含めた多くの世代が集まっています。夏には、近隣の大学生の協力を得て、団地内の高齢者を個別に訪問して、
熱中症の啓発とともに生活状況の聞き取り調査もしています。また、高齢者の孤食も多いので、サロンが中心になって食事会を企画して参加を呼びかけています。このようなサロンになったのは、運営する人(担当者)が醸し出す雰囲気も大きいのではないかと思います。

 地域包括ケアのネットワークにしても、住民ネットワークにしても、地域コミュニティーを形成するには、中心となってネットワークを組んでいくことのできる人材の育成が大きなポイントだと思います。

コミュニティーが活発に活動している地域には、カリスマ的な人物がいることがあります。しかし全国には、そのようなカリスマ的な人物やNPO法人がいない地域もたくさんあります。そのような地域では、まずは自治体が地域づくりに取り組むべきだと思います。

地域づくりに取り組む自治体職員を育てるための集合研修を行ったり、ノウハウをもつ民間人を自治体で採用したりするなどして、人材育成を図っていく。そのために予算が必要であれば、
消費税などを引き上げて、充当することも考えるべきだと思います。