■介護職員増やすには処遇改善が必要

 ――医療や介護の提供体制の違いから、地域によって受けられる医療や介護が違うことについて、どう思いますか。

 社会保障制度改革国民会議では、「データによる制御」という言葉を使っていました。高齢化のピークは地域によって違うので、都道府県が、データに基づきながら、医療機能の将来の必要量と地域の医療体制の目指すべき姿を策定し、地域の需給のマッチングをしていくというものです。需要と供給のバランスを見ながら地域ごとに考えていく。医療や介護の計画を都道府県ごとに作る中で、必要なサービスや人材を確保することに予算をつけようとしています。それは一つの方法だと思います。

 

 ――「データによる制御」というのは簡単ですが、例えば事業が縮小する見通しだったり、経営効率が悪くなったりしていく地域の場合、医療や介護の現場で働く側も家族を養っていけるか不安になりますが、どうすればいいですか。

 医療や介護のスタッフ不足は、全国的な課題だと思います。まずは、医療や介護職員の処遇を改善しなくてはいけないと思います。そのためには、税や社会保険料を引き上げて財源を確保する必要があります。

2015年から2030年にかけて、15歳から64歳までの生産年齢人口は年平均で57万人減少していきます(注2)。57万人というのは、現在の
鳥取県の人口に相当します。その規模の生産年齢人口が毎年消失していくのですから、人手不足は一層深刻になっていきます。一方で、介護職員は、2011年から2025年まで年平均で約7万人増やす必要があると指摘されています(注3)。他の分野も人手不足となる中で、介護職員を増やすのは、容易なことではありません。医療や介護分野で働く人々の処遇の改善が必要です。

 

 ――日本の生産年齢人口が減少していっています。処遇の改善で解決できますか。

 在宅中心のクリニックにしても、経営する医師の方々と話をすると、人口減少していく地域や利用者が点在している地域に開院しようと思わないという声が聞かれました。それならもっと効率よく在宅の患者さんを回れる東京都内など人口密集地域で開院しようということになるのではないでしょうか。

 処遇改善は、人材確保の必要条件であって、それだけで十分とは考えていません。例えば、介護という職業の魅力などももっと語られてよいと思います。

 一方、人口が減少している地域では、地域包括ケアでは対応が難しいというのはその通りだと思います。以前、講演で高知県に行った時に、医師の方から「高知県は、都道府県の中で人口当たりの療養病床数が一番多い県だとして批判されていますが、療養病床は必要なのです」というお話を聞きました。

 高知県療養病床が多い背景には、高齢者に占める一人暮らし高齢者の比率が高く、かつ高齢者の住居が広域に点在していることがあるようです。仕事を求めて多くの若者が県外に出ていくために、親の老後を在宅でカバーしていくことが難しくなっています。そこで、療養病床に高齢者を集めて、効率的に医療や介護を提供するようになったと聞きました。確かに、無駄の削減は必要ですが、地域ごとに異なる事情があり、高知のような状況を理解した上で、どのように対応していくかを考えないといけないと思います。

 一方で、75歳以上の一人暮らし高齢者が増えていくのは大都市圏ですから、地域包括ケアは必要だと思います。大都市圏では、地域包括ケアの体制づくりに取り組まずに、在宅介護は成り立ちません。そのためには取り組む人たちに予算をつけてあげることが大切です。ボランティアだけで回していくのは難しいと思います。

厚生労働省は、先進事例を他の地域に横展開しようとしています。横展開をしていくにしても、ネットワークの組み方は、地域ごとに異なり、ネットワークを築ける人材がいない地域もあります。医療や介護従事者などの供給者サイドのネットワークと住民ネットワークの二つを作って、運営できる人材を育て確保していく必要があります。そのためには、予算が必要です。しかし、自治体も自由に使える予算がありませんので、政府が中心になって地方に経済的支援をすることも検討すべきではないかと思います。