■「介護離職しても結構」という企業は生き残れない時代に
――介護離職をせざるを得ない年齢層は40代後半から50代が中心です。企業の中では比較的高い給料をもらっている層です。経営が右肩下がりの企業では、退職を容認せざるを得ない事情もあるのではないでしょうか。こういう「介護離職」についてどう考えますか。
確かに、40代後半から50代前半に賃金カーブは高い水準にありますが、今後もこの賃金カーブが維持されるかはわかりません。正社員の得てきた生活給も、今後縮小していく可能性があります。また、これから構造的に人手不足の時代に入っていきます。具体的には、2015年から2030年にかけて生産年齢人口は毎年、年平均で57万人も減少していく見込みです。
人手不足が深刻になっていく中で「40代後半や50代は介護離職をしてもらって結構」という企業は、むしろ生き残れないのではないでしょうか。
一方、社会の側では、親の介護を抱えても離職せずに済むように、介護保険制度を拡充しなくてはいけません。介護職員数は年平均で7万人増やす必要があると指摘されていますが、まずは税や社会保険料を引き上げて、介護職員の処遇改善を行うことが求められます。
社会保障の機能強化を行って、「いざという時には、社会全体で支え合える」という安心感をもてることは、経済にも良い影響を与えると思います。人は、何歳まで生きるか、要介護になるかどうか、どのような病気になるかどうか、わかりません。その時に、どの位の費用を要するかもわかりません。もし、このようなリスクに個人の自助努力で対応しようとしたら、過剰貯蓄になって消費が冷え込むでしょう。
社会保険は、事前に社会保険料を支払って、リスクに陥る人と陥らない人の間でリスクをプールします。リスクに陥らなかった人も、「いざという時も大丈夫」という安心感をもって生活できたわけですから、社会保険料は無駄になったわけではありません。
日本社会は需要不足でこれが経済成長に悪影響を与えていると指摘されています。この背景には、将来不安から過剰貯蓄になっている面があるように思います。また、社会保障の機能強化は、高所得者から低所得者へ所得の再分配を強化することになります。低所得者層は高所得者層に比べて、消費性向が高いので需要を増やしていくことにつながります。中間層を増やし育てるためにも、社会保障の機能強化が必要だと思います。
市場のダイナミズムは必要ですが、医療、介護、教育、保育といった分野は社会資本だと思います。こうした分野の支え合い機能を強化することが、人々の暮らしやすさにつながると思います。そしてそのためには、負担能力に配慮しながら、税や社会保険料の引き上げを行うことが必要になると思います。
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