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ドイツやイギリスの「最低所得保障」

ドイツでは日本の生活保護と同様に低所得者向けの「生活扶助」の要件に親族の扶養義務を課しているが、それによって問題が起きてしまった。

自分の子どもに扶養義務が課せられるのを恐れて、申請を諦める低所得高齢者が増えたことだ。そこで2003年に65歳以上の低所得高齢者だけを対象に「基礎保障」という制度をつくり、要件を緩くして受給しやすいようにした

具体的には、子どもと親の資産を合わせた保有限度を10万ユーロ(約1200万円)と高く設定することで、扶養義務の範囲を狭くしたのだ。

ドイツが高齢者向けの最低所得保障制度をつくったのは、高齢者は稼働能力が低く、再び働ける可能性も少ないため、一般の低所得者と分けて保護する必要があると考えたからである。これによって、低所得高齢者は問題なく最低限の生活保障を受けられるようになったという。

イギリスでも2003年に、低所得高齢者に最低限の生活費を保障する「年金クレジット」を導入した。これは一般の低所得者向けの「生活扶助」とは異なり、高齢者だけを対象にした制度である。

政府は公的扶助につきまとうスティグマ感を軽減するために「年金クレジット」という名称にし、運営も福祉事務所ではなく年金事務所(雇用年金省)にした。この辺りに低所得高齢者に対する配慮が感じられる。

年金クレジットは「保障クレジット」と「貯蓄クレジット」で構成されている。保障クレジットは60歳以上で年金などの収入が一定額(単身・週114.05ポンド、約1万6千円)に満たない場合、その差額を最低所得として支給する。貯蓄クレジットは65歳以上を対象に貯蓄を促すのが狙いで、年金などの収入が一定額(単身・週159ポンド、約2万2千円)に満たない場合、収入に応じて、単身者に週17.88ポンド(約2500円)を上限として支給する。

イギリスでは当時、特に低年金者の中に女性が多いことが問題視された。政府はその理由として、(1)男性と比べて就業率が低いこと、(2)子育てなどが理由でパートタイム就業に頼る傾向があり、職域年金の対象になりにくいことなどをあげ、低年金問題の対応に力を入れた。日本でも単身高齢女性の貧困率が52.3%(単身高齢男性は38.3%)に達していることを考えると、これは重要なポイントである。

イギリスの年金クレジットは、女性の低年金問題の改善に大きな効果をあげた。雇用年金省が発表した報告書「女性と年金―証拠―」(2005年)によれば、年金クレジットによって190万人が貧困から逃れることができたが、そのうち130万人は女性だったという。

このようにドイツやイギリスは一般の低所得者向けの「生活扶助」とは別に、低年金者・無年金者に最低限の生活費を給付する「最低所得保障」制度を公的扶助の中で実施している。

一方、スウェーデンやフィンランドなどは公的年金の枠組みで、一定額に満たない低年金者などに最低限の生活費を支給する「最低保障年金」制度を導入している。報酬比例部分から得られる年金額と最低所得の基準額との差額を補てんする仕組みである。

最低保障を行う制度は公的扶助の一環として行えば「最低所得保障」であり、年金の枠組みで行えば「最低保障年金」となる。そのやり方や名称は問題ではなく、大切なのは低年金者・無年金者に最低限の生活費を保障する制度をつくれるかどうかである。

<次回に続く>