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国民年金を「最低保障年金」に変形させる

翻って日本では一般の低所得者を対象にした生活保護があるだけで、低所得高齢者向けの最低所得保障は存在しない。しかも国民年金は満額でも月額約6万6千円しかもらえず、低年金の下流老人を多く生み出す原因の一つとなっている。

「みずほ政策インサイト」(2010年1月発行)によれば、無年金者は約100万人、基礎年金(国民年金)のみの受給者は約900万人(平均年金額4.8万円)もいるという。無年金・低年金問題の深刻化を受けて生活保護を受ける高齢者が増えているが、それでも受給しているのは低所得高齢者のほんの一部である。

厚生労働省によれば、2016年3月時点で生活保護を受けている高齢者は82万6656世帯(うち約9割は一人暮らし)であり、低所得高齢者の大半は受けていないことがわかる。それでは、この人たちは一体どのように生活しているのか。憲法第25条で全ての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が保障されているのではないのか。

このような状況をみれば、稼働能力の低い低所得高齢者に最低限の生活費を保障する制度が必要なことは明らかだ。ところが問題は政府の財政が非常に厳しい中で、それをどう実現するかである。

民主党政権は以前、国民に月額7万円程度の「最低所得」を保障するという公約を掲げたが、財源を確保できず、計画は頓挫した。

しかし、年金制度に詳しい専門家によれば、現行の年金制度の1階部分にあたる基礎年金を実質変形することで、「最低保障年金」の仕組みを作ることは可能だという。

具体的には、高所得の高齢者への基礎年金の部分の支給額を減らし、その分を低所得の高齢者に回すのである。基礎年金の財源は約20兆円だが、そのうち半分の約10兆円を国庫負担(税金)、半分を保険料で賄っている。

しかし、高額年金をもらっている人にまで税財源で賄った基礎年金を全額保障する必要があるだろうか。そこで、例えば現役時代に平均年収500万円以上の高齢世帯、つまりモデル年金相当の年額の年金額約250万円の年金受給者に対しては、基礎年金の税金の部分の支給を一部あるいは全部停止し、その分を低年金者に回す。これに対しては当然、高所得者からの反発が予想される。「基礎年金の国庫負担分を受け取るのは私の権利である。高所得者になったからといって、後からそれを奪うのはひどいじゃないですか」と訴える人も出てくるかもしれない。

実は、今の年金制度は「基礎年金の給付総額の2分の1については国庫負担分でまかなう」と言っているだけで、「個々人に基礎年金の2分の1を国庫負担分で保障している(する)」とは言っていないのだという。

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