政府の有識者会議で70歳超の年金受給について議論がなされていますが、年金支給年齢の引き上げは、医療費にも影響がでるという下記の論調です。医療を含めての社会保障制度設計が必要です。それがなされなければ、高齢者のライフバランスが崩れてしまいます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
      
 

2017.08.28 16:00

 政府は年金の支給年齢を75歳に引き上げる検討を始めている。仮に「75歳以降が年金を受け取れる高齢者」と定義が変わっても、歳を重ねるほど体は不調をきたすことが多くなり、医療費の負担がかさんでくるという事実は変わらない。

 現行制度下においては、高齢者の医療費は公的制度による軽減策が充実している。生活経済研究所長野の塚原哲・事務局長の解説。

「70代、80代でも入れる民間の医療保険が宣伝されていますが、年齢とともに掛け金も高額になる割に給付額が少ないので、あまりお勧めできません。高齢者の場合は、公的な『高額療養費制度』による自己負担の軽減策が充実しています。病院の窓口や薬局で支払う自己負担分が一定額を超えると、超過した分が返ってくる仕組みになっています」

 この高額療養費制度を使うと、70歳以上であれば、住民税非課税世帯で年金額が80万円以上という一般的なケースで、月ごとの医療費の自己負担額は2万4600円が上限になる設計になっている。

 ただ、年金75歳受給時代は前提が大きく変わる。74歳までは「年金はもらえず、とにかく働く」ということになると、公的年金控除がなくなり、所得に住民税が発生してくる。それが高額医療費の負担においても、大きな影を落とすことになる。

自己負担が一気に跳ね上がるのだ。住民税課税世帯では70歳以上であっても高額療養費の自己負担上限は、5万7600円となる(年収156万~約370万円の「一般」区分の場合)。

 つまり、「必死で働けば働くほど、高い医療費を払わされる」という悪循環に陥ることになるのだ。それだけではない。社会保険労務士・蒲島竜也氏はこう指摘する。

「かつて高齢者の医療費は本人負担なしの時代があったが、徐々に徐々に高齢者にも負担を求めるよう変化してきた。年金受給開始を75歳として、高額療養費制度の年齢設定だけがそのままとは考えにくい。

少なくとも70代前半は、『現役』という扱いになると考えたほうがいいでしょう。現役世代として扱われるようになると、『1か月2万4600円まで』といった金額で上限が設定されるのではなく、かかった医療費の額に応じて自己負担上限が決まってきます」

 年金を渡さないばかりか、大きなケガや病気をしても“働いて稼いでいるのだから自分で払え”と見捨てられるのである。

※週刊ポスト2017年9月8日号