一緒なら生演奏も 2人で練習
このイベントでは、お客さんの耳を楽しませるのにも、認知症の人が活躍しました。
ピアノ教師だった三川泰子さん(62)は4年前、若年性認知症の診断を受けました。次第に楽譜が読めなくなり、鍵盤の位置も分からなくなっていったそうです。「本人にはプロとしての誇りがありましたから、ピアノを思うように弾けなくなったことが、とてもつらそうでした」と、夫の一夫さん(69)は振り返ります。
2人一緒なら人前でも演奏できるのではと、一夫さんも趣味のチェロの練習を重ねました。そして、6月のプレオープンに続き、合奏を披露することになったのです。
夫婦の絆に拍手
「演奏を間違えても、ここは『注文をまちがえる料理店』ですからね」と、一夫さんがいたずらっぽい笑みを浮かべ、ピアノとチェロの「アヴェ・マリア」(バッハ=グノー)が始まりました。
ピアノの旋律は、所々で音やリズムがずれ、止まってしまいます。その度に一夫さんから「大丈夫」と励まされ、泰子さんがまた鍵盤に向かいます。時には一夫さんが泰子さんの手を取って正しい位置に置き直し、つっかえたり戻ったりしつつも演奏が続きました。
その音に耳を傾けながら、病気になり、自分の人生を形作っていたものが奪われていくのはどんな思いだろうかと考えました。いろいろなことができなくなった自分を受け入れ、支えてくれる人がいたら、どんなに心強いだろうかとも。失ったものは大きいかもしれませんが、夫婦の絆はより強く結ばれているように感じました。
こうして原稿を書きながら、演奏が終わったときの割れるような拍手を思い出し、お客さんたちも私と同じ思いを持ったのではないかと想像しています。
この3日間で計12回の演奏をやり遂げたことが、「自信になりました」と泰子さんはいいます。レパートリーは今のところこの1曲のみですが、これから増やしていこうと、2人で練習に励んでいるそうです。(ヨミドクター副編集長 飯田祐子)
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