「日本の社会保障制度を『全世代型』へと大きく転換する、という言葉は現場にどのように響いているのでしょうか?福井新聞は現地における人材不足、介護事業者の経営困難の状況を報告します。全世代型という言葉は現状の問題からの先送りにしか聞こえてきません。目の前の介護崩壊をどのようにするのかの処方箋が必要なのです。福井新聞の論調は優しすぎます。
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介護、自助重視の流れで負担増す

事業者も不安、賃金増でも人手不足

福井新聞オンライン2017年10月6日

 「介護している時は、まともに夜ご飯を食べた記憶がない。お茶やコーヒーだけ飲んで、寝ずに気を張っていた」。福井市の安永松子さん(69)は、アルツハイマー型認知症の義母と約15年間、在宅で向き合った。

 同居していた自宅から少し離れた場所で、夫と電子機器工場を営んでいた。認知症が分かった当時、始まったばかりの介護保険サービスを利用。仕事が忙しい時はデイサービスやショートステイなどでやりくりしながら、ほぼ1人で介護した。

 義母の状態は要介護4まで進み、徘徊やトイレの失敗があり、夜も目を光らせた。安永さんの体が悲鳴を上げた。不眠症になり、ストレスによるかゆみ、高血圧にも悩まされた。特別養護老人ホームを探して、10施設近く回ったが、なかなか空きはなかった。空きが出ても条件が合わず、あきらめた時もあった。

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 介護保険サービスで原則1割だった自己負担は一部2割に引き上げられ、さらに一定の所得のある人は3割にする方針が示されている。自助を重視する流れが強まり、家族の負担も増している。

 安永さんは、市介護者家族の会(かたらい会)の会長を務め、悩みを抱える仲間の相談に乗っている。「介護のサービスをうまく使えるかどうかは、地域包括支援センターやケアマネジャーに左右される。でも、行政からどんどん仕事が回されて、みんな忙しそう。利用者やその家族とゆっくり向き合う時間が限られている」と語る。

 安永さんは、今も1人暮らしの実母(94)の世話をしている。要支援2で、身の回りのことは自分でできるし、近所の人たちも何かと見守ってくれている。それでも、困ったことがあると安永さんの携帯電話が鳴る。自分の老後はまだ描けない。「自分の生活は自分で守るしかない」と漏らした。

収入は減り、人手不足。ダブルパンチだ」。福井県老人福祉施設協議会の小川弥仁副会長(53)は、ため息を漏らす。

厚生労働省は2015年度、介護保険サービス事業者に支払う介護報酬を平均2・27%引き下げた。一方で職員の賃金アップに充てる「処遇改善加算」を手厚くし、1人当たりの賃金を月平均1万2千円増やした。「賃金増ばかり注目されるが、事業者の総収入は減った。給与が担保されても、事業者が倒れては本末転倒だ。地域に安定した介護サービスが提供できるのか」と頭を抱える。

 人手も不足したまま。今年4月には、さらに賃金を月平均1万円増やす臨時改定も行われたが、必ずしも職員は増えていないという。

「景気が上向きで、ほかに働ける場所がたくさんある。やりがいがあるとはいえ、夜勤のある職場で働こうという人は少なくなってきた」と嘆く。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」に向け、さらなる人手不足は避けられないと見据える。

 「日本の社会保障制度を『全世代型』へと大きく転換する」。安倍晋三首相は、19年10月に予定される消費税率10%への引き上げに伴って税収の使い道を変更し、教育無償化とともに、介護の受け皿づくりに重点を置く方針を示した。

小川副会長は一定の期待を寄せている。「教育への投資は、人づくりへの種まき」。福祉・介護を含め将来を担う人材が育ち、受け皿となってくれればと願う。