現在の特養ホームの問題点について指摘されています。特養そのものが時代に合わなくなっているのではないかと考えます。在宅介護が今後主流になってきます。そうなると特養の効率性が問われてくることになると思います。高い建設コスト、まだ相部屋タイプが残るプライバシーの欠如といった内容が「クオリティ・オブ・ライフ」を追及する団塊の世代が主流になる今後の高齢者にとって不適合な存在になっていくのではないかと思います。その兆しが表れ出したとみることができるのではないでしょうか?
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空き室だらけの「特別養護老人ホーム」

23区&政令指定都市の利用率44.5%

政治・社会 2017.7.4      

フリーランスライター 三浦 愛美                

PRESIDENT 2017年7月3日号

2017年、介護現場に再び異変が起きている。リーズナブルな価格が人気の特別養護老人ホーム、略して「特養」。そして、注目を集めつつある在宅介護。2つの介護現場の最新事情から、高齢者福祉の未来を探る。

イメージと裏腹に「空いている」特養

2016年、厚生労働省の事業の一環で、みずほ情報総研がある調査に乗り出した。特養の入所申込者は全国で約52万人(調査実施時の数値。最新調査では入所要件が厳しくなり約37万人に減少)といわれる一方で、空床の存在が見え隠れする。

その実態を探るためだ。空床が目立つ施設は、比較的開設後間もない施設に見られるという声も聞かれているため、開設10年以内の1151施設(うち有効回答550件)に対してアンケートを実施し、2017年3月に「特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究」として発表された。

それによれば、2016年11月時点で、全国の特養で「満室」と答えたのは73.5%。26%の施設では「空きがある」。また、新規オープンした特養の開設時点での利用率も、決して高くはなく、ユニット個室(居室は個室。10人程度が1ユニットとしてケアを受ける)で62.4%、従来型個室や多床室では67.8%と、7割を切っている。全国の特養で満床になるまで要した期間が平均5.8カ月。これらの数字をどう受け止めるべきなのか

検討委員会の座長、淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博氏は語る。


「特養が『空く』のは、新設特養のならし期間、入所者の入院、そして入退所のタイムラグ、3つの要因があるとされていました。これらの要因で『空き』が生じるのは避けられませんから、さほど問題ではない。むしろ注目すべきは、これまで認識されていなかった新たな要因が見つかったことです」

それは、地域によって特養の需給ギャップがあること、そして職員不足によりベッドを空けざるをえない施設が存在するということだ。結城教授は「需要を鑑みず、全国一律で特養をつくってきたツケ」「箱ものだけつくり、必要な人材育成と人件費に投資してこなかった政策の失策」と指摘する。

結城康博氏

「現在、全国の特養の数は9700ほど。もちろんまだ特養の数が足りていない地域もあります。しかし、すでに秋田など高齢者の数自体がピークアウトしており、施設に空きが出始めているエリアもあります。

必要な地域に、必要な設備と必要な人材を投入しきれておらず、反対に需要のないところには依然として整備計画が検討されている。

すでに黙っていても人が特養に集まってくれる時代は終わり、不要なところは新たにつくらないなどの作業を早急に進めなければ、10年後には『倒産』する特養も出てきかねません」

つい最近、東京都23区内に住むある人物にこんな話を聞いた。それまで徳島で元気に一人暮らしをしていた母親が、転倒して背骨を圧迫骨折。
地元で入院させたところ、一気に認知症も発症してしまい、2カ月後には要介護3になって退院してきたという。しかし夫婦は共働き世帯。重度の認知症になった母は「嫁が指輪を盗んだ」と言いふらし、夜中に奇声を発するなど問題行動が頻発。疲れ果てて特養を申し込んだら、「500人待ち」と告げられ絶望したというのだ。

彼らは結局、在宅で介護しつつ、デイサービスやショートステイなどを目いっぱい利用しているということだが、実はこのようなケースでも、キャンセルが相次ぎ、想定より短期間で入所できたり居住地以外の特養に入居できる可能性があることはあまり知られていない。


<次回に続く>