<前回に続く>

数ある選択肢の中で特養を選ぶのは妥当か


ここで一度、介護施設の種類の整理をしておこう。

大きく分けて介護施設には住居系と入所系がある。まず、住居系はシニア系分譲マンションやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、住宅型有料老人ホームなどに代表される。これらの特徴は、何よりも住居としての快適さや生活の自由度を重視している点だ。

住居+見守り機能や食事サービス、介護サービスなどをオプションで追加していく形式が一般的だ。比較的介護度が低く、ある程度自立して生活が可能、かつ生活のプライバシーを重視したり、自分なりの生活スタイルを維持したい人に向いている。

比較的介護度が高い人の選択肢の一つには、介護付き有料老人ホームがある。様々なタイプの施設や充実度、価格帯があるが、比較的自由度は保ちつつも、介護保険に適応するサービスを一体的に受けることができる。食事、排泄、入浴などのケアも充実しており24時間見守りケアもある。医師の常駐は規定されてはいないが、医療機関との連携があるなど、認知症や介護度が高い場合も対応してもらえる。

ただし施設の充実度や立地、グレードなどによって金額は千差万別で、入居一時金や月々の費用が高額なところも少なくない。介護保険内のケアはほかの施設同様1~2割負担だが、食事や部屋代、保険適応外のサービスはすべて実費負担であるため、ひと月の利用料は15万から20万、30万以上かかるところもあるので家計との相談も必要だ。

そして、特養は、できるだけ介護費の負担を軽くしたいというニーズにこたえる。公的施設のため比較的価格は安く、従来の大部屋で8万~9万円程度、ユニット型個室でも12万~16万円程度だ。ただし、入居条件は65歳以上、要介護3以上、家庭で介護が困難といった介護度が高い人が優先条件となる。

高額な費用がかからず、オールマイティに介護してくれるとあって一定の需要を満たしてきた特養だが、デメリットがあるとすればプライバシーの問題だ。特養は居心地のよい住居というより、介護ケアを重視するため、効率性重視が基本だった。だがその認識も変わりつつあるとA氏はいう。

「最近は特養でもユニット型個室が標準になりつつあります。従来の完全個室とは異なり、食事は大部屋で皆と一緒に食べることで人とのかかわりを保ちつつ、部屋は個室でプライバシーを守る。やはり、おむつを換えたりするのに大部屋のカーテンしきりだけでは心もとないですよね。介護はこれまでどうしても医療や介護する側の事情で語られがちでしたが、昨今では個人の尊厳が見直されつつあるんです」

今回の取材で見えてきたのは、介護における「クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)」というキーワードかもしれない。私たちはつい介護しやすい環境に目が行きがちだが、よい介護環境というのは、快適な居住空間や適切な医療、介護サービスだけでなく、その人の来し方、歴史に紐づく環境だ。

「地方の過疎地域では、公共事業としての特養という見方が存在しています。職がなく、高齢者が少なくなるなかで都市部のお金で特養を建て、雇用を生み出す。

土地が高騰する都心部から高齢者を集めれば、ウィンウィンだという発想です。しかし、介護認定を受けている人の約7割が認知症を患っている現実を前に、どこまで本人の意思、要望を確認できるのか、また遠方への移送に高齢者が耐えられるのかという問題もあります。

70年、80年と生きてきて最後の最後で縁もゆかりもない土地で、見知らぬ人に囲まれて過ごす孤独は、仮に本人が現状を理解していなくても幸せな選択なのか、よく考えてみる必要があると思います」(A氏)