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「木賃アパート」はむしろチャンス


空き家問題の中で、見落とされがちなのは、空き部屋が増加する賃貸アパートや分譲マンションだ。

特に所有者が老朽化に対応できない賃貸アパートは、多くの部屋が空いたまま家賃が暴落し、地域の防災、防犯、景観のネックになっていると言われている。

こうした賃貸アパート、特に木賃と呼ばれる木造賃貸アパートを再生し、空き家化、老朽化、災害時の脆弱性を解決しようとしているのが、建築系のソーシャルスタートアップ「モクチン企画」だ。

木賃アパートは、戦後の経済成長や人口増加を背景に社会のインフラとして大量に建設され、「昭和」の象徴ともいえる存在だった。しかし、家主や住人の高齢化、家賃の低さによる経営困難によって、木賃アパートはいまや地域の負の遺産となっている。

「モクチン企画」は、木賃アパートが大量にあることをむしろチャンスとして捉え、これを好転させれば社会課題を解決するチャンスにつながると建築家やデザイナーが集結した。

「モクチン企画」の代表理事、連(むらじ)勇太朗さんはこう言う。

「大学で、木賃アパートの改修プロジェクトに参加しました。2009年ごろ、まだ空き家問題が注目される少し前です。プロジェクトは大成功に終わったのですが、ふと冷静になって周りを見ると同じようなアパートがいっぱいあるのに気付きました。そこで無力感を感じて、一戸一戸を改修してもそれが社会にどれだけ貢献するのかと考えました」

当時「パターンランゲージ(建築や都市計画に関わる理論)」を研究していた連さんは、そこで改修アイデアをパターン化、レシピ化して、自分たちのアイデアを社会で共有化してもらおうと思い立った。

2012年に「モクチン企画」を立ち上げ、改修アイデアはすべてウェッブサイトに公開した。ちょうど空き家問題が注目され始めたころだ。

「最初は空き家問題を解決しようというよりも、良いストックとしてのアパートをどう作るかという考えでした。ウェブをオープンしてみたら、早速不動産屋から使いたいと問い合わせがきました。レシピの一覧は誰でも見られるようにしてあって、仕様書をダウンロードする場合は会員になってもらいます」

それ以降直接かかわった物件は60件近くだが、アイデアの活用はもはや把握できないほど広がっていると言う。

しかし、連さんは「これだけでは空き家問題は解決できない」と考えている。

「空き家問題は一筋縄ではいきません。人口に対して住宅が余っているので、木賃アパートを一戸リニューアルして空き部屋を埋めても、周りで余るだけなんです」

その対策として「モクチン企画」では、改修する際に2部屋を1部屋にして戸数を下げたり、賃貸住居をオフィスや店舗、ギャラリーなどに変えるなどしている。

では、空き家問題を根本的に解決していくためのカギは何か?

「モクチン企画」のオフィスは、都内蒲田の住宅地の一角にあるが、開放感に溢れている。それは近隣の敷地や道路との境界にあるブロック塀を取っ払い、オープンな空間を作りだしているからだ。

<次回に続く>