南京虫増殖に防火不備…死者まで出した低所得者住宅の劣悪事情
みわよしこ:フリーランス・ライター
2015年7月以来の生活保護運用における劣悪な住居の提供者に対する“経済制裁”は、現場にどのような影響を与えているだろうか。
2015年以降行われている劣悪な施設への“経済制裁”は、生活保護で暮らす人々の中で最も「住宅弱者」に属する人々の「住」を改善したのだろうか。この点については、ケースワーカー3名全員が否定的だ。
「生活保護の家賃補助が満額となる基準は、4畳半の風呂・トイレつきワンルームであればクリアできます。通常、これ以下の物件はあまりないので、劣悪物件に対する家賃補助の減額には住環境の改善効果がほとんどありませんでした。と言いますか、現実の最低レベルに合わせて基準がつくられたのでしょう」
それどころか、良心的なアパート運営を行っている業者ほど打撃を受けている。
「簡易宿泊所を転用した3畳程度・風呂トイレ共同のアパートには、影響が出ています。2015年の家賃補助の基準改定前は、月額4万2000円の家賃収入となっていたのですが、改定後は3万6000円となりました。面積の基準を満たしていないので致し方ないのですが、『福祉マンション』と位置づけて世話人を配置しているような良心的なところが打撃を受けています」(関西・Cさん)
いずれにしても、貸主に対する“経済制裁“は劣悪な生活保護の「住」を排除することには役立っていないようだ。
安住の地を求めて“最後の砦”に殺されるという悲惨
しかしながら、住居を確保することが困難な人々が多数いるという現実がある。高齢化の進行によって、自分の経済力だけで住居を確保できない人々は増加しつつある。行き場がなく、札幌市で火災が起こった「そしあるハイム」のような“最後の砦”に安住の地を求めると「住居に殺される」という結末を迎えかねないようでは、救いがなさすぎる。この問題を解決するために必要なものは、何だろうか?
ケースワーカー3名の答えは、「生活保護限定ではない住宅政策が必要」という点で共通している。
「生活保護の居宅保護では主に、民間賃貸住宅や公営住宅(都営や県営、市営等)などが想定されています。しかし民間賃貸住宅は、入居に際して厳しい審査があります。保証人や緊急連絡先を立てられない生活保護の方々が、手軽に入居できるものではありません。公営住宅は地域によっては不足しており、応募しても当選しにくかったりします。生活保護以外の政策展開が必要なのかもしれません。空き家の活用か、公営住宅の拡充か、あるいは所得要件に応じた家賃助成か」(東京・Aさん)
「“かりそめ”の住居に依存しない、新たな住宅保障が必要だと思います。たとえば、社会福祉法人など公益性の強い組織が、空き家を無料低額宿泊所として運営するなど。そのくらいのインパクトがなければ、行き場のない人が劣悪な『住』に追いやられて悲劇が起こるネガティブ・スパイラルは止められないと思っています」(関東・Bさん)
関西のCさんは、ホームレス政策全般の問題も指摘する。
「ホームレスの方々が必要に応じてすぐに入れる施設は、現在、生活困窮者自立支援法に基づく一時生活支援事業によって運営されています。しかし、札幌の火災があった物件と同じように、古い旅館・古い社宅が借り上げられて利用されています。こうした建物は、往々にして防火設備が整っておらず、出火すると大規模な火災になる危険性があります。まず、一時生活支援事業で利用する施設は、防火設備の整ったものにする必要があります。そのための予算保障も必要です」
日本の「住」の貧困を止め最低ラインを確保せよ
さらに2015年以後は、「生活保護の住」がダブルスタンダードになってしまった問題もある。
「国交省の『最低居住面積水準』では、単身者に対して25平米となっています。2人以上の世帯に対しては別途基準があり、3人世帯では40平米となります。しかし厚労省の生活保護基準では、単身者で最低15平米、2人以上の世帯に対しては基準がありません。
国政レベルのダブルスタンダードを解消し、国交省の『最低居住面積水準』を具体的に実現するよう道筋を立てる必要があるのではないかと思います」(関西・Cさん)
手段は公営住宅の整備なのか、それとも優良な民間賃貸住宅への家賃補助なのか。いずれにしても「生活保護限定」ではなく、日本の住、日本のすべての人々を対象とした「住」の最低ライン確保の制度が、求められているのではないだろうか。
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