介護施設の事故防止のために、「リスクマネジメント加算」を設けるという案には大賛成です。現状の事故報告が上がってくるのは氷山の一角であり、決して事故防止に役立っているというわけではありません。事故防止の為の研修の実施や報告の有無等、本来やるべきことをきちんとできていれば加算といった具合に行うのが良いと思います。事故防止の為のプロセス管理の指標を設けて制度を設計するのが有効だろうと思います。特養や老健の「褥瘡マネジメント加算」よりははるかに有効であろうと考えます。
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【視点】介護施設の事故防止 当事者意識を高める「方策」を

SankeiBiz2018.2.20 06:09

産経新聞編集委員・工藤均

 転倒、誤嚥(ごえん)、誤薬…。介護施設内の事故といえば虐待、暴力などが目立つが、実はこうした事案が圧倒的に多い。だが、報告は施設の判断次第で、自治体は実態を把握し切れていない。4月からは介護保険サービスを提供する事業所に支払う介護報酬が改定される。諸問題とリンクして考えるのが改定だ。超高齢社会は目の前。今回は無理でも、次回の改定に向け、抜本的な対策を検討してもいい時期にきている。

 今回の改定は、高齢者の自立支援に積極的に取り組む事業者を評価することなどが柱。「人生100年時代」へ向けた大方針に沿ったものだ。異論はないが、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上となる。厚生労働省によると、15年度中の介護サービスの受給者は約521万人。このうち、施設の受給者は約91万人(17.5%)だが、今後は確実に増える見込みだ。

 県内に285の施設(政令・中核市除く)がある神奈川県では、16年度に全国的にも多い3237件の報告があり、服薬介助を行う際に発生する「誤薬」が最多(1045件)。以下、骨折、打撲・ねんざ・脱臼、擦過傷・切り傷が続いた。14年に川崎市の有料老人ホームで起きた3人の転落事故死をきっかけに、「薬一つ落ちていても報告させている結果ではないか」(高齢福祉課)という。

厚労省によると、入浴など1つ以上のサービスを提供する有料老人ホームが約1万2000施設あり、この15年間では約30倍も増加した。通常、施設では事故の状況や受傷の程度、医療処置などをまとめた報告書を自治体へ提出するが、報告の範囲、書式や項目数もバラバラだ。ある市では、3年に1度の実地指導、年1回の集団指導講習会などを実施している。十分だろうか。

 ホームヘルパー2級の資格を持つ介護・福祉系法律事務所「おかげさま」代表の外岡潤弁護士は「報告のルールやリスク対応について、国が指導できていない」。社会福祉士、介護支援専門員の資格を持つ東洋大学ライフデザイン学部の高野龍昭准教授は、事故につながりかねない「ヒヤリ・ハット」事例の多さを取り上げ、「管理者がきちんとした意識を持ち、分析する仕組みをつくること。事故の規定がなく、責任の所在もあいまい。施設内に事故対策委員会のような存在が必要」と話す。

 介護施設の紹介事業などを行う「あいらいふ入居相談室」が発刊する情報誌「あいらいふ」の編集長で、ヘルパー2級の資格を持つ佐藤恒伯(ひさみち)氏は、緊急時の持ち出しファイルについて「整備されていない施設もあり、夜間は自己判断で対応するケースもある」と話す。

複雑な事情もある。「介護は線引きがない仕事。給料が少ないと、報われない」と外岡弁護士はいう。月額給与は全産業の平均より10万円も安いとされる。労働に見合わない低賃金などもあり、結局、「モチベーションの低い人が集まってしまう」(外岡弁護士)という状況を生んでいる。

 そこで、提案したいのが、介護報酬にある加算、減算という、サービスの内容や体制などを評価、減点する部分への適用だ。入居者の保護、事業者や職員向けの研修会などを実施している事業者団体「全国有料老人ホーム協会」の灰藤(はいとう)誠事務局長は「やらないといけないことをやれば加算、体制を組んでいなければ減算というものがあってもいい」と話す。外岡弁護士も「『リスクマネジメント加算』の枠組みをつくったらどうか」と提唱する。

 厚労省高齢者支援課の上野翔平課長補佐は「リスク管理のための全国調査は考えていない」とするが、全国的な実態を把握すべきではないか。それでも、上野課長補佐は改定案の「介護報酬上の対応の検討」に触れ、加算などの評価にからめた検討を示唆した。時間がかかっても、「アメとムチ」を効果的に使う方策が必要だろう。

 1月22日の施政方針演説で、安倍晋三首相は「リーダー級の職員には8万円相当の給与増を行えるようにし、他産業との賃金格差をなくす」と言明した。政治には業界の改善へ向けたさらなる方針が、行政にはきめ細かな指導と監督が、何よりも現場には高い意識が求められている。