訪問診療が増えないと言われます。その理由は24時間、緊急時の対応が難しいからと医師の側の拒否感が強いとのことです。国がどのように在宅医療を進めても、患者が求めても医師の側から拒否されれば増えようがありません。介護も同様ですが、ニーズはあるのに供給が追い付かない、市場原理からすればおかしな話です。医師の負担を軽減する取り組みと同時に、医師の在宅医療についての意識も変えてもらわねばなりません。在宅医療は手間がかかり、医療費が下がるとは思えないという考えの医師もいるようですが、訪問診療をやらねば生き残れないぐらいの対策を講じる必要があるのではないでしょうか。
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訪問診療、増やせる? 課題は患者への24時間対応

重政紀元

朝日新聞 2018年3月13日19時00分

医療体制の「入院から在宅」を目指す国の施策の中核で、患者側の期待も大きい訪問診療。だが、「患者への24時間対応」に対する医師側の拒否感は根強い。取り組む医療機関を増やすため、医師の負担を軽減する試みも始まっているが、見込み通り進むかは不透明だ。

医療体制の「入院から在宅」を目指す国の施策の中核で、患者側の期待も大きい訪問診療。だが、「患者への24時間対応」に対する医師側の拒否感は根強い。取り組む医療機関を増やすため、医師の負担を軽減する試みも始まっているが、見込み通り進むかは不透明だ。

 「きょうは寒いね、調子はどう?」。茨城県常総市の伊藤金一医師は月1回、坂東市の中村ふくいさん(88)宅を看護師、薬剤師らと訪れる。

 中村さんは20年前から高血圧のため伊藤さんの診療所に通っていた。それが昨春に自宅で転倒、歩行がおぼつかなくなった。伊藤さんは「家に住み続けたい」という中村さんの要望に沿って訪問診療を始めた。

 診るのは高血圧だけではない。脚力を回復させるため、訪問リハビリの利用を指示。手すりの設置など自宅の改修の相談にも乗った。中村さんは現在、自宅内であれば歩いて移動できる。娘の里子さん(56)は「日常の暮らしまで見てくれるので、安心して家族で介護していける」と話す。

 伊藤さんは24年前から診療所での診察とともに、毎週1回、午後を訪問診療に充てている。対象はもともと通院していた高齢者や重い障害がある患者だ。

 基本的に患者宅にいるのは10分ほど。伊藤さんが患者の診察をしている間に、看護師や薬剤師が家族に生活の変化や服薬の状況などの聞き取りをする。年に数回はケアマネジャーも立ち会い、今後の介護方針も決める。

 伊藤さんは「すべての患者さんを在宅で診られるわけではないが、訪問診療は患者さんの生活と体調を大きく改善させる可能性が高い医療だ」と話す。

ログイン前の続き緊急時の対応、医師の拒否感強く

 医師が患者宅を訪れて診察することは「1世代前の医師は普通にしていた」(県医師会幹部)。だが、医師が常駐しない「駅前クリニック」の急増などで、在宅医療をする医師は激減しているとされる。

 医師の拒否感が強いのは、緊急時の対応だ。訪問診療の中でも報酬が高い在宅療養支援診療所だと、患者の急変時、医師側は24時間体制で対応しなければいけない。「いつ呼び出されるか分からない生活なんてできない」(同)というわけだ。

 一方、高齢化により訪問診療の需要は増えるのは確実だ。県の推計だと、2013年には1日あたり9857件だったが、25年には1万3785件と4割程度増える見込みだ。

 だが、県内の提供体制は乏しい。在宅療養支援診療所は10万人あたり6・8施設と全国平均の11・2を大きく下回り、それを支える訪問看護ステーションも全国平均の5・7施設に対し3・7となっている

報酬増やし、負担軽減

 県は訪問診療をする医師を支えようと、今年度から25ある郡市医師会ごとに、医療機関が在宅医療のためのグループをつくると、最大100万円を補助する事業を始めた。1人の患者を複数の医師で診療できるようにすることで、負担軽減につなげることが目的だ。これまでに12グループ(63医療機関)ができた。

 4月の診療報酬改定でも優遇が目立つ。入院基本料の高い急性期病床を削減する一方、訪問診療では複数の医療機関と連携して24時間対応を取ると、主治医以外の医師の診察でも報酬を上げるようにした。

 国が訪問診療を推進するのは、「病院や施設に入るのは嫌だ」という患者側の要望とともに、増え続ける医療費を減らす意図があるとされる。

 ただ、国の思惑には懐疑的な意見が出ている。県南のベテラン医師は「体力的な負担を増やしてまでやりたい医師は限られる。在宅医療は手間がかかり、医療費が下がるとは思えない」と言い切る。

 集合住宅に患者を集め効率的に診療費を稼ぐ「囲い込みビジネス」の問題も残る。県内は東京など高齢者施設が不足する地域の受け皿になっており、「訪問診療のかなりの割合は自宅外での診療」(在宅医療に詳しい訪問看護師)という。

 国は同一住宅で複数患者を診療した場合の報酬を引き下げているが、県医師会の諸岡信裕会長は「自宅に住み続ける支援をするのが訪問診療の本来のあり方だ。制度面での支援も(施設化しているケースと)もっと差を付けるべきだ」と話す。

訪問診療とは

 医師が患者宅で行う診察は一般には在宅医療と呼ばれ、医療制度上では「往診」と「訪問診療」に分かれる。往診は通院できない患者の要請でその都度に臨時に行う診療。これに対し、訪問診療は長期療養が目的で、定期的(月1~2回)に診療、治療、療養上の相談を行う。