刑務所に入るとき、受刑者は必ず知能検査を受ける。一般的に、知能指数が69以下の場合に知的障害があるとみなされる。2017年に新たに刑務所に入った受刑者は1万9336人。うち、3879人の知能指数が69以下だったという。つまり、受刑者10人に2人くらいは知的障害のある可能性が高いということになる。刑務所のなかは、一般社会と比べても、知的障害のある人が圧倒的に多いことがわかる。

ただし、私は『制度』というものには危うさも感じています。必ず、制度の中から漏れる人が出てくるからです。制度をつくったばかりに、その枠内に入らない人が、かえって排除されてしまうことになりかねない。戦後いろいろと福祉制度は整えられてきましたが、その制度から漏れた人が、まさに今、刑務所にいる障害者たちなのです。

そういう姿を見てきて、単に司法関係者、福祉関係者だけの取り組みでは、この問題は解決しないと思いました。要は、今の日本の社会の有り様の問題です。ハンディキャップのある人たちがすごく生きづらい。生きづらくても自立を求められる。けれども、実際には孤立してしまって、ちょっと変わったことをする異質な人として、社会から排除されてしまうんです。インクルージョン(包摂)といいながら、実はエクスクルージョン(排除)がすごく働いているんです。私はこれまで刑務所の福祉施設化を憂えてきたんだけど、最近は福祉施設の刑務所化が進んでいて、これも大きな問題だと思っています」(同)

法務省と厚労省は2009年、出所する高齢者や障害者で住居のない人を福祉施設に橋渡しする「特別調整」という制度をつくり、各都道府県に「地域生活定着支援センター」を設置した。本人が望めば出所後すぐに福祉施設に入所できるのだが、その対象者の10人中9人は、せっかく国がつくったこの制度を利用しないという。なぜか。

 重度の障害者を受け入れる福祉施設には、日額4万5000円くらいの報酬が支払われるが、軽度の障害者の場合は日額1万7000円ほど。重度の障害者は動き回れないため、職員も支援や介助をしやすい。一方、軽度の障害者は自分で身の回りのことはできるが、そのぶん自由に動き回れるので職員は目を離すことができない。このため、人手不足の施設では刑務所並みの厳しいルールで行動を管理し、軽度の障害者の自由を奪う傾向にあるのだ。「福祉に行ったら無期懲役」。それが、彼らの共通認識になっているのだ。