6月18日に政府が発表した認知症施策推進大綱に疑問を持つのは私だけではありません。相馬中央病院内科医森田 知宏先生が次のように述べています。ご意見に共感します。
当初「認知症患者の6%の減少」と数値目標までついていました。この数値は、5月16日似開催された「認知症施策推進のための有識者会議」で示された数値が根拠となっており、10年間で認知症の発症年齢を1歳遅らせることを目標としている。10年間で有病率が1割低下する計算となるため、6年間で6%の減少、という目算となる。しかし、認知症の予防方法が分かってもいない現在、認知症の発症年齢をどのように遅らせることができるのか不明であり、このように予防方法が確立していない中であえて認知症の予防を政府が掲げることで生まれる懸念が2つある。1つ目は、政府の後押しによってできる利権と競争の歪みである。2つ目は、 予防を煽ることで生まれるコミュニティの断絶だ。
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政府の認知症予防は危険だらけ
むしろ認知症を進行させ、コミュニティを分断させる恐れも

JBpress2019.8.15(木) 森田 知宏

6月18日、政府は認知症施策推進大綱を発表した。「予防」と「共生」を2本柱の目的として掲げ、高齢社会のなかで認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指すことを目標としているものだ。

ニュースで報道されていたこともあり、私が普段訪問している長屋の高齢者も、「やっぱり認知症に気をつけないと」と語っていた。 しかし、このような感想を聞くたびに、私は高齢者が安心に暮らせる社会から離れていくと感じる。今回の大綱も、本当に認知症患者の希望につながるかは疑問だ。

そもそも認知症の予防方法が確立していない。確かに認知症の予防は世界中で注目されており、2017年には世界保健機関(WHO)が、認知症グローバル・アクションプランを策定し、認知症のリスクを軽減するために生活習慣への介入を推奨している。

 しかし、どのような介入がよいかはエビデンスが確立していない。この大綱でも、認知症の予防に関しては「運動不足の改善」「社会的孤立の解消」「生活習慣病」が挙げられているが、いずれもこの大綱がターゲットと定めている団塊の世代に対して介入することで認知症が予防できるかどうかはまだ結論が出ていない。

まとめると、現在の政府が行っている認知症対策は、将来の成長分野の健全な競争を阻害し、さらに高齢社会の分断を招く危険がある。

 需要のある認知症の予防分野は民間部門の競争に任せ、民間部門では支援できないような高齢者が幸福な生活を送ってもらえるように環境を整備する――。 これが高齢社会での国のあり方ではないだろうか。