アンガーマネジメントという言葉を知りませんでした。人手不足を理由に介護現場で高齢者虐待が増えているのではと危機感を抱いてきましたが、もっと根本的なところに目を向けねばならないことを教えられます。『介護する人が疲弊する、余裕がなくなるから最善でないとわかっていても何とかその場をしのぐしかない。適正な人材配置やスタッフの安全が守られるシステム、介護の援助技術などの教育は不可欠であるが、そのうえで、スタッフが自分の感情をマネジメントするためのトレーニングが役立つのだと思う』という田辺有里子氏の意見に賛成です。このような時代であるがゆえに、現場では地道な訓練が必要なのだと思います。
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社会・スポーツ 高齢者虐待防止×アンガーマネジメント

アンガーマネジメントが虐待防止に役立つ理由
不要な怒りに振り回されず、必要なときには怒りを表現できるようになろう。

田辺有理子 横浜市立大学医学部看護学科講師、日本アンガーマネジメント協会トレーニングプロフェッショナル
朝日新聞社2019.8.27

 介護難民、老老介護、認知介護、ダブルケア、ヤングケアラー、介護離職……。介護にまつわる課題を示すキーワードだ。高齢社会の日本であり、支え手不足の中、これらの課題は、時に悲しい出来事を生じさせてしまう。各地を飛び回り、介護や看護の現場職員にアンガーマネジメントを指導する横浜市立大学医学部講師の田辺有理子さんに、アンガーマネジメントの視点から虐待防止を考察・提言してもらいます。(「論座」編集部)

介護は人材不足といわれているが、その従事者数は200万人に迫る大規模な業種になっている。そのなかでアンガーマネジメントをはじめとする感情教育やストレス対処などの教育プログラムを導入している組織は、全体からみたらほんのひと握りで、家族などの養護者にはそのような情報に触れることすら難しいのが現状である。現時点で介護現場にアンガーマネジメントの教育を導入している組織は、一歩先を行く、いわばアーリーアダプターだ。


 ただし、アンガーマネジメントさえあれば、虐待が防げるかといえば、答えは否である。社会的な課題として現状の体制では、介護サービスが十分に行き届いておらず、介護を担う家族も介護職も、個人への負担が集中してしまう。複数でやれば容易いことでもひとりでやるから効率が悪い。介護する人が疲弊する、余裕がなくなるから最善でないとわかっていても何とかその場をしのぐしかない。適正な人材配置やスタッフの安全が守られるシステム、介護の援助技術などの教育は不可欠だろう。そのうえで、スタッフが自分の感情をマネジメントするためのトレーニングが役立つのだと思う。