一つの司法判断がこれほど大きな社会不安を与えたことがあったであろうか。たかがドーナツ一つと言うかもしれないが、ドーナツを食べた後に死亡したことで、当該看護師が故意でない過失で刑事告訴された。一審で有罪判決が出たことで、全国の介護事業所はおやつを控えたり、正月の餅などの行事食の提供を取りやめたりと、何万人にも及ぶ高齢者の数少ない喜びを奪ってしまった。介護の実情を踏まえない判断が与えた影響は計り知れない。
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社説:「おやつ死」無罪 介護の萎縮は避けねば
京都新聞2020.7.30
 介護現場の不安は、ひとまず取り除かれたのではないか。 長野県内の特別養護老人ホームで入居中の女性=当時(85)=がおやつのドーナツを食べた後に死亡した事故の控訴審判決である。

施設内での死亡事故で職員個人の刑事責任が問われた異例の裁判だった。故意でない過失で刑事訴追されたことに、介護現場からは懸念の声があがっていた。 控訴審判決は被告や被害者の状況を詳細に検討し、准看護師が窒息死を予見できた可能性を否定した。介護の実情をふまえた判断だと理解できる。

身体機能が低下した高齢者の介護には、思わぬ危険性がつきまとう。今回のケースは、刑事責任まで問わねばならない事案だったのだろうか。 

控訴審で無罪判決は出たが、一審で有罪となったことは各地の介護現場に動揺を与えた。 おやつを控えたり、正月の餅など行事食の提供をやめたりする動きが広がるなど、リスクを避ける傾向が強まったという。 

准看護師の無罪を求める署名が延べ73万筆も集まったのは、介護関係者の不安の大きさを物語る。 
個別の対応が必要な高齢者の受け入れに消極的になる施設が増える懸念もあった。 

事故の回避を優先するあまり、必要なサービスが後退するなら本末転倒である。介護の取り組みを萎縮させてはなるまい。 

ただ、人が亡くなっているという事実は重い。原因を突き止め、再発防止策を講じるのは施設を預かる側の責任だ。