大変ショッキングな報道である。8月の自殺者数が1800人を超え、前年同月比で240人増加したが、その内訳は男性60人に対して女性が186人増加したということに問題の大きさを感じる。これまで不況で自殺は男性が主流であったが、今回のコロナ禍による大量の失業により女性の解雇、貧困、ホームレス化が進んでいるところに日本社会の深刻な実態が現れている。リーマンショックの時とは全く異なるのである。女性のホームレス化が大規模な形で起きなかったのは、家族というセーフティネットが機能していたことが大きいと言われるが、今や昔。
家族はセーフティーネットとしての機能を急速に失ってきている と指摘されている。「今の日本は、残念ながら困っている人がいたら誰かが手を差し伸べてくれる社会ではない」と雨宮処凛氏は警鐘を鳴らす。
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自殺者、1849人の衝撃。女性自殺者の急増とホームレス化の背景
HUFFPOST2020.9.25
コロナによって真っ先に打撃を受けた観光業や飲食業を支えていた多くの非正規女性たち。なんの補償も受けられず、彼女たちの一部は実際にホームレス化にまで晒されているーーー

恐れていたことが現実となってしまった
その報道を見た瞬間、思った。それは8月の自殺者数が1800人を超えたこと。前年同月と比較して240人増。男性は60人増えて1199人、女性は186人増えて650人ということだ。

これほど自殺者が増えたこと、特に女性の増え方が凄まじいことにコロナ不況の影響を如実に感じる。それを裏付ける数字が今年の7月、出ている。非正規で働く人は前年同月と比較して131万人減少。男性が50万人、女性は81万人。それだけの人が突然職を失ったのだ。
 
ちなみにこの国における貯蓄ゼロ世帯は、2017年の段階で単身世帯では46.4%。非正規の平均年収が179万円、女性に限ると154万円であることを考えても、職を失った多くが貯金ゼロ円だった可能性は否めない。  

ホットラインの相談員をしていても、女性からの「仕事を切られた」「解雇された」「休業補償がなく生活が苦しい」という相談は多い。それもそのはずで、コロナによって真っ先に打撃を受けたのは観光や宿泊、飲食業など。これらのサービス業の支え手の多くは非正規女性たちだった。その多くがなんの補償もなく、突然放り出されてしまったのだ。そしてそんな女性の一部は実際に、ホームレス化にまで晒されている。 

女性のホームレス化。 
これが、12年前のリーマンショックとの大きな違いだ。 失業が即、ホームレス化につながる女性がこれほど存在するというのは、貧困問題に16年かかわっていて初めての経験だ。その背景にあるのは、この20年以上かけて「雇用の調整弁」として非正規化が進められてきたこと、特にそれが女性に集中し、働く女性の半数以上が非正規であること、そして同時にこの「失われた30年」で、家族の余力が失われてきたことではないだろうか。 

例えばリーマンショックの際、女性のホームレス化が大規模な形で起きなかったのは、家族というセーフティネットが機能していたことが大きいと思う。家族だけでなく友人や知人を頼った人もいるだろうが、たとえ住まいと仕事を同時に失ったとしても、多くが「実家に帰る」ことでホームレス化を免れることができた。      

しかし今、「ホームレスになった」と「新型コロナ災害緊急アクション」にSOSメールをくれる中でかなりの割合を占めるのが若い世代だ。親も貧困で頼れないというケースもあれば、シングルマザー家庭も少なくない。こうした事実を見ても、やはり「家族」は急速に、セーフティネットとしての機能を失っている。 

時々、若い世代の困窮について「怠けているだけじゃないか」と口にする人がいる。が、「家族福祉」も「企業福祉」も機能しなくなった中、公的福祉に頼っても「若いから働け」と追い返されるという現実があるということを知ってほしい。今の日本は、残念ながら「困っている人がいたら誰かが手を差し伸べてくれる社会」ではない。誰も助けてくれないか、そこにつけいる貧困ビジネスのカモにされかねない社会だ。ほんのわずかにある、よほど良心的な支援団体に繋がらないと自死に追い詰められてしまう社会である。