先日問題提起をした身元引受トラブルとして最大の課題は、契約した本人が認知症になり判断能力が不十分になった時の財産管理ではないかと思われる。 この対策として多くの専門家の方々が任意後見制度の活用をうたっているが、果たして、任意後見制度はどこまで有効なのであろうかを考えてみたい。  

最高裁判所事務総局家庭局ホームページ「成年後見関係事件の概況─令和2年1月〜12月─」。によれば、次のように記載されている。https://www.kajo.co.jp/tameshiyomi/40868000001/pageindices/index23.html#page=23   

(1)任意後見契約の契約数 
令和元年(平成31年を含みます。以下同じ)の1年間に任意後見契約を締結した件数は14,102件。平成27年から令和元年までの5年の任意後見契約の合計数は60,066件で、年間平均で12,013件。任意後見の契約件数は増加傾向にある。

(2)任意後見契約の発効数 
任意後見監督人選任の申立ては、令和2年が738件。ここ直近5年の申立ての合計数が3,845件で年間平均は、約769件。本人が、認知症などで判断能力が衰えたことにより監督人の選任申立てをし、契約の効力が生じた件数。契約数からみると5%程度しか発効していないということになる。    

一方で、法定後見(後見、保佐、補助の合計)は、開始申立件数の合計が、令和2年が36,497件。任意後見監督人の選任申立ての738件を合わせると、成年後見制度全体の合計数は、37,235件。任意後見監督人選任の申立ては、全体からみると2%程度と、極端に少ないことが分かる。

又、最近の記事にも「任意後見制度 使い勝手が悪く進まぬ実利用」夕刊フジ2023年9月3日にも次のような記載がある。https://www.zakzak.co.jp/article/20230903-YWBULJA5ZPWPGBPGG4PBH33FQ/

 「現在、登記されている任意後見契約の数(閉鎖登記を除く)は10万件を超えているとされています。また、法務省、最高裁の調査などによれば、年間の任意後見契約の登記件数は、2015年に1万件を突破し、その後もコンスタントに1万~1万4000件程度の水準をキープしています。これに対し、ここ数年の任意後見監督人選任申し立ての件数は、年間700~800件程度と不自然に低い水準です。

 本人の判断能力が衰え、本来は任意後見監督人を選任すべき状態になっているにもかかわらず、任意後見監督人選任の申し立てがなされていない事案が相当数に上ることがうかがえます。」

要は親族が財産管理契約、見守り契約の段階で本人の財産を管理しきっている(善意に解釈して)とすれば、あえて判断能力が亡くなった段階で多額の費用がかかる後見監督人を付ける必要はないということではないか?任意後見監督人が選任されないまま本人が亡くなり、登記が閉鎖された割合が66%に上るというのは上記の理由によるものではないのか?   

 いずれも、任意後見制度が認知症により判断能力が不十分になった時の財産管理としては有効に機能していないことが伺える。その理由としては 先の記事にも
「任意後見監督人選任申し立て手続きの煩雑さ、契約発効後に発生する任意後見監督人への報酬の支払いや報告負担などを嫌い、任意後見契約をあえて発効させず、本人のための財産管理などをできる範囲で行っている親族が多いのかもしれません」と記載されている。   

これが現制度の実態なのであろう。本人の為の財産管理をぎりぎりまで行い、最終手段の任意後見監督人の選任には及ばないで、その役目が終了した時点で登記抹消を行うケースが圧倒的に多いのである。

現制度では任意後見監督人をつける、つけないの申立は任意後見契約の受任者以外に本人、配偶者、4親等内の親族も行うことができるとされているので、当該対象者が申立をしないかぎりはそのまま任意後見契約が継続されることになるのである。 https://niben.jp/legaladvice/soudan/kojin/management/column/entry/post_8.html   

 任意後見契約はそれだけ単独で契約するのではなくて、その前提として財産管理契約、見守り契約というのもセットで結ぶことが多い。任意後見は本人の判断能力が不十分になってから任意後見受任者が家庭裁判所に後見監督人選任の申立を行うことで発動される。そうすると本人の判断能力が不十分になっているか任意後見受任者は日頃から接していなければならないので、事前に見守り契約を結ぶということになる。   

 また、急に判断能力が衰えるということはありえないので、判断能力は衰えていないけど任意で財産管理を行う任意財産管理契約を結ぶことがほとんど。そして、これらの契約を結んでいると、判断能力が衰えてきても任意後見に移行しないでそのまま財産管理契約に基づき財産管理を行うということができることになる。   

 実質上、当協会が行っている身元引受契約、金銭管理契約、死後事務委任契約と何ら変わりはないのではないか。問題は任意後見制度を活用するための、公正証書を作成し、登記をするという行為が付加されるに過ぎないのではないかと考えてしまう。

 公正証書を作成することで高い証明力、執行力が最大のメリットであるので、よりトラブルになる可能性があれば、有効かと思われる。但し、その手続きの煩雑さとかかる費用負担は覚悟しなければならない。   

 ここで最後に任意後見制度に係る費用をみてみたい。   
①専門職への契約時の報酬は 8万~15万円(税別)
②その他公証人手数料等を含めて10万円~17万円(税別)
③専門職を任意後見人に選ぶ場合は3万円から5万円/月程度(本人の資産状況により変動あり)
④任意後見監督人選任申し立てを依頼した場合、約10万円から15万円程度
⑤任意後見監督人の報酬相場は1万~3万円/月額 これだけの費用がかかるのである。   

ここまで説明すれば、通常の低所得者の方々は専門職への委任はまずは対象にはなりにくいと言わざるを得ない。親族が任意後見人になることも約7割近くあるというが、そうなると登記申請だけを行い、実際には任意後見人として財産管理を行い、認知症になってもそのまま財産管理を行っているケースがほとんどというのもうなずける。それでも任意後見契約の締結から公証人への手続きを依頼すれば30万円近くの費用が発生することになる。これでは急増する認知症高齢者にとって有効な制度とは言えない。成年後見制度と併せて制度の見直しが求められる。