高齢者施設での金銭管理は利益相反おひとり様高齢者が増えることで、最近、高齢者施設で身元引受や金銭管理を行うところが散見されます。以前から施設で入所者の金銭管理を行う場合は利益相反に当たるのでやるべきではないという指摘がありますが、もう一度、その内容を「新日本法規WEBサイト【5】施設で入居者の金銭管理を行う場合」より確認しておきたいと思います。 

次のような相談事例を引用して詳しく説明していますので参考にされて下さい。

【相談内容】
当該施設への入所前の面接において、本人の金銭管理に不安な様子が見られました。本人は「入所後も自分で管理する」と言いますが、施設管理の方が安心であるため、入所契約の際に預り金管理契約を勧めていこうと思います。施設が管理する場合の留意点はありますか。

ポイント
① 利用者本人の依頼に基づかず、他人が金銭を管理することは、原則としてできません。
② 利用者と介護サービス事業所の間には、利益相反の関係があります。管理契約を締結するなど、施設側の管理責任を明確にした管理体制が必要です。
③ 利用者本人の判断能力の程度に応じて、適切に成年後見制度(法定後見制度、任意後見制度)を活用した管理方法を検討する必要があります。

【回答】   
1 、施設での金銭管理の在り方
財産権は、憲法29条により保障された人権です。自分の持っている財産を自由に使うことができます。したがって、本事例のように本人の意思に基づかず、「施設で管理した方が安心だし、本人のためになる」「金銭管理に不安がありそう」という支援者の主観的判断だけで、利用者の財産を預かることはできません。本人の意思を尊重することが原則です。本人だけの管理に不安が見られる場合は、支援者が不安に思う状況を本人と共有し、本人がより安心して安全に管理することができるような方法について、本人と一緒に検討していきます。その際、本人の意思決定能力を見極め、分かりやすい説明と必要な情報を提供するなど、意思決定支援のプロセスに沿って本人による意思決定を支援する姿勢が求められます。   

2 、利用者本人や家族等からの依頼に基づく金銭等の預かり
一方で、利用者本人から現金や預貯金通帳、印鑑等の預かりを依頼されることがあり、実際に施設等で金銭等を預かることが行われている現状があります。 これは、入所後の財産の保管や管理する場所がない、自分の預貯金を家族から守りたいなど、利用者本人側の事情による場合が考えられます。

他方、施設利用料を確実に受領したいなどの施設側の事情による場合もあると考えられます。一見すると、双方の利害が一致しているように見えますが、そもそも利用者と施設はサービスを受領する側と提供する側という、利益相反の関係にあることを忘れてはいけません。

本人の依頼に基づく場合であっても、利用者本人に、いわゆる管理等を委任する能力が備わっているのか、客観的に見極める必要があります。その上で、まずは施設の立替払い等、預り金を管理しない方法について検討を行い、預り金としてその管理を代行する場合においては、真に必要最小限にとどめるべきであることを考える必要があります。また、預り金を管理する場合においては、「管理規程」等を設けるなどして、規程に沿った適切な管理及び出納事務を責任を持って行うこ とが求められます。  

3 成年後見制度の活用による金銭管理
利用者が他者による金銭管理を希望し、その管理を委任する能力がある場合、方法として任意代理契約の活用を検討することができます。利用者自らの「誰に」「何を」「どのように」してほしいのかなどの意思が明確であり判断能力の衰えがなく、自らの力で契約をすることができる場合は、自らが選んだ人と任意代理契約を結び、金銭管理を委任することができます。   

施設において、預り金としてその管理を代行する場合、上記2のとおり必要最小限にとどめるべきであり、ある意味、本人の意思を十分に尊重して、本人が望む金銭の管理に応じることが難しくなります。本来、本人の財産は自らが管理し、その権利を行使することが保障されるべきですから、法的代理人により本人の意思を尊重した管理がなされるように支援することが大切です。   

また、判断能力が十分ではなく、任意代理契約を締結することができない場合は、法定後見制度を活用し、本人の意思を尊重し、本人にふさわしい生活を配慮して、本人の財産を適切に管理していくことができるよう支援していきます。

成年後見制度の活用は、財産管理だけではなく、身上配慮義務に従って、本人が望む生活を法律的に支援する仕組みであることを思い出しましょう。 ソーシャルワーカーとして、利用者に必要な支援を点ではなく面で支えられるように、本人にとって有効な制度やサービス、知識等の情報提供を行うなど、本人が主体的に考えていくことができるような働きかけを心掛けましょう。   

【弁 護 士 のアドバイス】
高齢者施設等における「預り金管理規程」等の考え方   

財産管理が煩わしい、あるいは自分にはできなくなった、盗難の可能性や家族による使い込みなどのリスクを回避するために、高齢者が財産管理、特に預貯金の入出金を施設に依頼する要望は強いと思いますし、実際にも管理契約が結ばれるケースが多数あるのが現状です。   

しかし、高齢者にとって預貯金を中心にした財産は快適な老後を支える資産である上に、一旦財産を失うとその回復が著しく困難であることから、経済的に破綻してそれまでの生活が維持できなくなるおそれがあります。さらに、もともと高齢者と施設の間には利益相反の関係にあることは疑いがありません。   

したがって、高齢者が施設に対し財産を預かってもらうとしても、①高齢者が施設との間で預り金の管理に関する委任契約(民643)あるいは準委任契約(民656)の契約当事者になれる場合であること(高齢者に意思能力があること)をきちんと確認しその経過を記録に保管しておくことが大前提になりますし、②高齢者との(準)委任契約の根拠となる預り金管理規程を作成することは不可欠であると思います。

この預り金管理規程には、①受任者の権限と責任の範囲を明確に定め、かつ、管理責任者を明記すること、②入出金の経過を裏付ける証拠書類(領収証、請求書)の保管を義務付けること、③高齢者が要求した場合はもちろんのこと、定期的に入出金の経過・内容については開示することを義務付け ること、
④預り金額は高齢者の日常生活に必要な限度の少額にとどめることを原則にすることなどは定めるべきでしょう。   

なお、このような預り金管理規程の有無にかかわらず、受任者たる施設には善管注意義務(民644)がありますし、高齢者(委任者)から施設が委任事務処理の状況報告を求められた場合は遅滞なく管理の経過や結果を報告しなければなりません(民645)。   

このように考えると、高齢者が施設に現預金を預けることには慎重であるべきこと、預り金処理の現実的な必要性がある場合でも契約を結ぶ高齢者の判断能力の確認、その保護のために預り金管理規程を作成し契約内容に十分に配慮すること、預り金処理の必要性が生じた以後は任意ないし法定後見制度の利用を積極的に検討することが必要といえるでしょう。