無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
豊かな高齢者社会の構築に向けて、日々尽きることの無い気付き、出会いを綴って参ります。

カテゴリ: 高齢者住宅事業失敗の教訓

どのように人材が採用できたとしても、その人材を育てることができなければ、厳しい戦いはできません。精鋭部隊を育ててこそ、戦いに勝てるというのは鉄則なのですが、この鉄則をおろそかにして戦線の拡大に走ってしまったのです。座学だけではなく、日々の仕事を通して人材育成ができる仕組みを作り上げねばなりませんでした。

 

初期における経営理念や基本的マナー、仕事のルールといった研修を行った後には、初級、中級、上級とレベルに応じた能力アップ研修に加えて、短期的なスパンでその仕事の成果と能力向上の状況を評価し、処遇、改善につなげていくという細かい人材育成のプラスのスパイラルを構築していくことが求められます。人材育成の仕組みを作ることこそが大事だったのです。

 

その仕組みを作るべく、元スターバックス関係者を招きスターバックスにおける多店舗展開の組織作り並びに教育システムを学び始めましたが、時すでに遅し、でした。もっと早くからこの問題に正面から着手すべきでした。全ては人材育成という企業にとって最も大事な問題を後回しにした“つけ”が後に人材不足となって巡ってくることになったのです。

管理者のレベルを一定の水準に揃えることは容易ではありません。少なくとも2/3は一定レベルを超えて欲しかったところです。しかし成長を急ぎ過ぎたことにより、人材育成に時間と金をかける余裕がなかったのも事実です。

 

採用、教育、評価、処遇の人材育成のマネジメントサイクルも不完全でした。それぞれの機能は不十分ではありましたが、教育システムを除き一応は作ったのです。しかし、それぞれの機能が有機的に連携し、人材育成の成果を上げるまでには至らなかったのです。特に教育システムの遅れは致命的でした。

 

管理者教育にとどまらず、管理者に続くサービス提供責任などの幹部職員の教育、更に、入社3ヶ月未満の初任者研修、1年以上の中堅社員研修や、認知所研修等の専門研修の体系も構築予定でしたが、遅れてしまいました。そのことは後に大きな離職率となって跳ね返って参りました。

 

「組織の成長力は人材の蓄積力」という言葉があります。人材の蓄積と組織の成長のアンバランスが業績的にも、コンプライアンス的にも大きく影響をする結果となったのです。

多店舗展開をしていく上で、重要なことは資金の供給体制と人材の供給体制が挙げられます。教訓その4は成長スピードに併せた、人材育成が出来なかったことです。

 

我々は小規模施設(1施設16室)を展開しました。我々の戦略は小規模施設の同一モデルを全国展開することでした。決して、様々な種類、規模の施設を作るのではなく、一貫して16人~18人までのモデルを一定の地域に多店舗展開することにより、存在感を高めていく戦略でした。その方が、地域に与えるインパクトが強いと判断した為です。案の定、その戦略は当たりました。

 

加えて、このモデルを展開するもう一つの意味がありました。それは、この規模を多店舗展開することによる人材育成の場と考えたことです。施設の経営と品質の差は管理者の差と言えます。多店舗展開するには施設管理者を大勢排出し続けねばなりません。

3050人定員規模の施設を運営するのは簡単なことではありません。当然、そこに働くスタッフの数は20人~40人に及び、その人材を確保し、マネジメントしていくことは容易ではありません。

 

それに対して1618人定員の施設であれば、必要とするスタッフは10人前後で良いのです。この人数は居酒屋で一番盛り上がる人数と言われます。10人前後であれば目が行き届き、コミュニケーションを取りやすい人数なのです。比較的マネジメントしやすい人数でもあります。

 

我々は、小規模施設を人材育成、とりわけ管理者育成の為のインキュベーター(孵卵器)と考えたのです。

この小規模施設でヒト、モノ、カネをマネジメントする技術を学び、経営者として育って頂くことを主眼としたのです。

 

この目論見は半ば成功しました。非常に優秀な管理者達が育って参りました。又彼らにマネジメントツールを与え、日々の数字をしっかり追いかける仕組み(レビューシステム)も構築したのです。

 

我々は数字で経営をとらえる訓練をして参りました。毎月、前月の成果を振り返り、入居者一人一人に対して、どのように対応すべきか、目標管理、計画管理の手法を管理者会議を通して、学ばせたのです。

 

当然、この日々のマネジメントが出来ない管理者は淘汰されるということになるのですが、経営者的発想をする管理者群を育てることができました。しかし、一方において、数字についていけない管理者も多数出て参りました。管理者の育成とそのバックアップ体制が不完全だったのです。

<前回に続く>

経営管理においてもう一つ重大な誤りを犯してしまいました。それは「不採算施設の切り離し」です。

我々は全国展開を行いました。西は九州、沖縄から東は群馬まで5年間で100施設を超える施設開発を行って参りました。小規模低価格型高齢者住宅として社会のニーズにフィットした為に、一気に全国展開までいったのです。しかし、5年も経つうちに大きく環境が変わって参りました。

介護も医療も西高東低だと言われてきました。最初のモデル開発は西から始まるのです。我々もご多分に漏れず九州、中四国から事業をスタートさせました。まだ本格的に小規模低価格型モデルが無かった時代でしたので、作れば入るといった状況が続きました。しかし、直ぐに後続施設が出てきたのです。

その間は2、3年であったかと思います。特に九州では医療法人が医療と介護のダブルインカムを狙って、低価格モデルに参入し始め、一気に低価格モデルが広がって参りました。

当然我々先発施設も競争の渦に巻き込まれ、入居者の獲得も困難になるなど、苦戦を強いられることになりました。実はここからが経営だったのです。

民間の企業であれば不採算店舗の切り捨ては当然であり、逡巡してはならない重要な経営戦略です。この決断を行うことが出来なかったことが
後に経営を悪化させる大きな要因となってしまったのです。

いよいよ経営が悪化してから、未開設施設の譲渡、そして更に、稼働施設の譲渡に取り組んで参りましたが、早い段階に不採算施設の譲渡に踏み切らねばならなかったのです。皮肉なことに経営が悪化してから最後に施設譲渡のノウハウを取得したという結果になってしまいました。その決断が出来なかったのが、我々の経営理念にありました。 
          

小規模低価格型高齢者住宅を世に広めたいというミッションを持ち、同志を募って施設開発を手掛けてきただけに、その施設、同志を切るということに逡巡してしまったのです。

まだ改善できる、戦略再構築ということを執拗に繰り返した為に、そのタイミングを逸してしまったのは、まさに経営者の判断ミスと言えます。結果として3割程度の施設の切り離しができなかったことがその後の経営全体の足を引っ張ることになったのです。

不採算店舗のスクラップ&ビルドは多店舗展開の宿命的課題と言えます。

<前回に続く>

介護サービスが外付けモデルだけに、複数の事業を抱えることになります。有料老人ホーム事業、訪問介護事業、通所介護事業と同一建物内にあれば当然減算対象となるのですが、問題は、複数の事業を抱えるために、それぞれの人員基準の縛りを受けて、どうしても人員過多になる傾向があります。

複数の事業を行うことで効率性を求めれば、兼務体制をつくることが求められるのですが、各事業の縛りにより、重複する部分が出て参ります。それが一つには人件費過多となる傾向があるのです。介護比率(スタッフ1人で何人の介護をしているか)でみれば、特養は平均3人と言われますが、介護型の有料老人ホームでは2人が一般的ではないかと思います。複数の事業を併用し、一定の介護度の方のケアを行おうとすればこの2人に到達するのも困難となります。併設タイプの宿命と言えます。

我々は多くの施設において、この数字をクリアーできなかったのです。それを克服する方法として、併設タイプの小規模デイの廃止にまで踏み込みましたが、最盛期でも1.5人程度でした。後にその方法を見出すことになるのですが、その対策が遅れたことにより、革新的な収益改善が図れなかったことも一つの敗因でした。

その改善の為の経営管理指標は最後の指標である⑤「総労働時間に占める介護保険サービス時間比率」でした。要は施設内の従業員全員のタイムマネジメント(効率的なシフト管理)がカギを握ることに気付いたのです。この比率が施設の生産性を決定づけます。

総労働時間に占める介護保険サービス提供時間が50%を超えることができれば人件費比率を40%程度まで抑えることが可能となるのです。

そして、一人当たりの時間当たり売上高が3000円を超えて参ります。この人時生産性ことが、これらかの施設の存続を決定づける重要な要素なのです。それ以下では、売り上げと人件費のバランスがとれず、結果として人件費は50%を超えることになるのです。その方法については最後の今後の対策で述べて参りたいと思います。

<次回に続く>

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