無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

カテゴリ: 未来の日本

エッシャンシャルワーカーその3














<前回に続く>  
新自由主義的な政策は次のような形で社会に影響を及ぼしました。
一つ目は、コストダウンのための女性や若者を中心とした非正規雇用の活用です。1980年代まで、パート・アルバイトなどの非正規雇用は、家計補助型の働き方であり、社会問題化していませんでした。しかし、バブル崩壊後に男性正社員の雇用・給与が不安定化すると、これらは生計維持型に変化していきます。それでも企業はコストカットのため低賃金の非正規雇用を積極的に活用し続けています。
   
二つ目が、公共サービスの削減です。「官から民へ」の大合唱の下で、公務員の数や予算は劇的に減らされ、公共サービスは圧力にさらされました。その結果、公務の現場では大きく非正規化が進んでいます。特に、多くの専門職の人たちが非正規に追いやられました。その処遇は低く、フルタイムで働いても年収が200万円に届くか届かないかです。    

三つ目は、請負や業務委託の拡大です。日本にはバブル崩壊前にも下請け構造はありました。しかし1990年代以降は、下請け企業への配慮がなくなり、買い叩けるだけ叩く、応えられなければ安い業者、海外の業者に出すということが広く行われるようになりました。その結果、低価格競争が進み、ピラミッド構造の中での「中抜き」も進みました。それが、実際に現場を担って働いている人たちの低賃金を生みだしました。   

これら三つの出来事は、共通した考え方の下で進んできました。それがコストカットと市場競争に任せるという新自由主義的な考え方です。これらが政府や企業の方針となり、それが国民にも受け入れられていったことで、日本の低賃金構造が生まれたのだといえます。   
全ては今日の社会問題の根源的な問題として顕在化しています。
<次回に続く>
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なぜエッセンシャルワーカーの待遇が改善されないのか?














 厚生労働省は、介護職員の不足数について中期的な見通しを明らかにしています。 都道府県が推計した介護職員数を集計し、2023年度に約22万人、25年度に約32万人、40年度に約69万人が不足すると試算しています。このままでは超高齢社会を維持できません。   

 「8がけ社会」を克服するためには介護や医療等のエッセンシャルワーカーの処遇改善は不可欠です。それでは何故、エッセンシャルワーカーの処遇が改善されないのでしょうか。   

 ヒントはドイツにありそうです。ドイツの人口は8320万人(2021年)と日本が将来行きつくところの人口と想定されます。このドイツでのエッセンシャルワーカーの処遇は参考になります。   田中 洋子筑波大学教授の研究報告をご紹介して参ります。

 「ドイツのスーパーマーケットには日本のようなフルタイムとパートタイムの処遇格差がないことでした。驚いたことに、ドイツにはこうした処遇の分断がありませんでした。ドイツにもパートタイム労働者は多くいるのですが、フルタイム労働者との格差がありません。こうしたことがどうして可能なのかというと、その土台として、産業別労働組合が地域の経営者団体と交渉して、働く時間の長さと関係なく、同じ仕事で働くと同じ給与になる、という単一の賃金表をつくっていることが挙げられます。

 対策を考えるに当たっては、何故、日本においてエッセンシャルワーカーの処遇が改善されないのかという根源的な原因を探る必要があります。  

 それは、構造改革や行政改革、「官から民へ」、「小さな政府」という新自由主義的な政策の存在です。こうした新自由主義的なイデオロギーに基づく経済とは、人件費をできる限りカットして、企業の都合に合わせて人を安く使うほど、企業の業績が良くなり、競争力が高まるとする考え方です。         こうした考え方が1990年代から30年間で日本中に広がった結果、エッセンシャルワーカーの低賃金構造がもたらされた、というのが研究によって見えてきたことでした。
<次回に続く>
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8がけ社会その1














「8がけ社会」という言葉が出てきました。「8がけ社会」とは2040年に労働力が2割減る、ことを表しているようです。

朝日新聞デジタルのアンケートでは、一番困ることは何か、との問いには「介護、医療サービスの低下」が最も多かったと言われます。
そして、和歌山県の50代男性が次のように語りました。

「8がけ社会」を突破する鍵は「エッセンシャルワーカーへの正当な対価を所得として保障し、社会インフラを作り直す」

この言葉は正にこれからの日本の再生の方向性を示す重要なキーワードです。   
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8がけ社会、困るのは「介護、医療」 突破する鍵は……読者と考える 
朝日新聞デジタル2024.3.17    
 朝日新聞デジタルのアンケートでは、2040年に労働力が2割減る「8がけ社会」について、8割超が「不安を感じる」「どちらかと言えば不安を感じる」と答えた。一番困ることは何か、との問いには「介護、医療サービスの低下」が最も多かった。

8がけ社会を突破する鍵は
8がけ社会を突破する鍵はどこにあるのか。「格差対策に力を入れる」「行政の無駄を減らす」「生産性を向上させる」との回答が上位に並んだ。和歌山県の50代男性は「エッセンシャルワーカーへの正当な対価を所得として保障し、社会インフラを作り直す」とアンケートにつづった。
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非正規公務員問題














非正規公務員の女性が、低い賃金にあえいでいます。非正規で公務に就く人たちの待遇改善を求めるために、2021年から活動している方々がおられます。非正規公務員の女性が、不安定な職場で低い賃金にあえいでいる実態が報告されています。   

公務員の非正規化はどんどん進み、2020年の総務省調査によると、地方公務員全体の29%にあたる112万5746人。住民に身近な市区町村では40%が非正規で、民間企業の非正規率36%(20年、総務省労働力調査)を上回る。大半を女性が占め、地方自治総合研究所で非正規公務員の問題を研究してきた上林陽治・立教大特任教授は「非正規公務員問題とは女性の労働問題だ」と指摘しています。  

更に、総務省調査では地方公共団体で働く非正規の会計年度任用職員のうち、76・6%が女性です。この会計年度任用職員制度が問題となっています。そして、今、問題なのは低賃金に加え、20年度に始まった「任期は1年以内」という会計年度任用職員の制度なのです。1年間限定の非正規公務員ということで、その生活は極めて不安定なもので、生活設計ができるものではありません。   

職種別にみると、非正規割合が高いのは、図書館職員(73・3%)、給食調理員(69・8%)、保育士(56・9%)で、多くが女性職場です。非正規公務員問題とは女性の労働の問題なのです。   

このような不安定化する公務の現場で、果たして国民の安寧は保たれるのでしょうか?超高齢社会で独居が急増する社会構造の変化に対応できるとは思いません。「公から真っ当な雇用を」という主張に国は耳を傾けねばなりません。
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人を安く使う公務の現場で起きていること 奪われる安心感と人生計画
 朝日新聞デジタル2024.3.1  
 将来や老後をどのように生きるか、そのための資金をどうするかなど、人生には計画がつきものです。しかし、不安定な雇用のもとで、今を生きることに精いっぱいな人たちがたくさんいます。非正規で公務に就く人の待遇改善を求めて活動する渡辺百合子さんに話を聞きました。   

非正規の収入だけで生きる人たち    
非正規で公務に就く人たちの待遇改善を求めるために、2021年から活動しています。今、問題なのは低賃金に加え、20年度に始まった「任期は1年以内」という会計年度任用職員の制度です。これまでは、真面目に働いていれば「来年度もお願い」と言われていたのに、そうではなくなりました。裕福ではなくても「この暮らしが続く」という最後の安心感をも奪うものです。
  


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無縁遺骨年間3万件














 大変な時代になってきたものです、厚労省の人口動態統計によれば、22年度1年間に国内で死亡した日本人の数は概数で156万8961人といわれます。引き取り手のない死者の数は直近3年半で約10万5000人ですので、年間に直せば約3万人が引き取り手がないということになります。

毎年約2%程度の方が引き取り手がなく、無縁仏となっていることが伺えます。 死亡する人の数は平成元年に比べるとおよそ2倍になり、今後も増え続けるでしょう。それに併せて無縁仏も増加すると思われます。  

一番ショッキングなのは、無縁遺骨の9割は身元が分かっているということです。要は親族や関係者がいても引き取りに来ないのです。 今も南の島で戦死した親族の遺骨を探しておられる方々もおられます。一方で、親族がいても遺骨すら引き取りに来ない方々もおられます。死者を大事にしない国に未来はないと思うのです。
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「ルポ 無縁遺骨」森下香枝著 
日刊ゲンダイ 2024.2.22
 2018年4月から21年10月までの3年半の間、引き取り手のない死者の数は約10万5000人にも上った。身寄りがないために死亡届も出せず、すぐに火葬もできず、最終的には役所のキャビネットや無縁の納骨堂をさまよう。本書は、これら多くの無縁遺骨を前に我々はどうするべきなのかを問う衝撃の書だ。

加えて、残された遺留金は約21億5千万円にものぼると総務省が発表しています。そして火葬後も引き取り手がなく、市区町村が保管している無縁遺骨は全国で少なくとも6万柱。その内訳を見ると「行旅死亡人」と呼ばれる身元不明者はわずかで9割は身元がわかっている。「全自治体の状況を把握できたわけではないので実際はもっとある」(総務省担当)という。
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