無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

2024年01月

日本医師会が懸念














 医療業界から訪問介護基本報酬引き下げに対して懸念の声が上がっている。政府が安易な引き下げを行うことについて、各界から非難の声が上がっている。   
 地方の中小零細の訪問介護事業者の経営は厳しい。同じように地方の在宅医療は訪問介護との連携で成り立っているので、訪問介護の点数が引き下げられ、その結果、更に訪問介護事業所の倒産や廃業が増えると、当然、地域医療は成り立たなくなる。そのことを指摘しているのである。  

 日本医師会も今回の引き下げは、「訪問介護の収支差率がたまたま高かったことで基本報酬が適正化された」との見方を示した。その見方は正しい。これまでも述べてきたように収益の改善は補助金や経費削減による一過性のものであるという認識である。  

 それを政府は構造的な問題として報酬を引き下げるという安易な決定に皆が怒っている。どうしてももっと医療、介護業界全体の意見を聞かないのか。本当に政府は傲慢である。この付けは大きく後になって国民負担になって帰って来るであろう。  
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「訪問介護がなくなると破綻する」 日本医師会、基本報酬引き下げの影響を懸念
介護のニュースサイト Joint 介護報酬改定 2024.1.25  
 日本医師会は24日に記者会見を開き、22日に全容が決まった来年度の介護報酬改定について見解を表明した。【Joint編集部】  

 この中で江澤和彦常任理事は、訪問介護の基本報酬が4月から引き下げられることに懸念を示した。  直近の「経営実態調査」で訪問介護の収支差率が高水準だった(*)ことを念頭に、「経営実態調査の収支差率に基づいて判断されたという印象を強く持っている。

 訪問介護の収支差率がたまたま高かったことで基本報酬が適正化された」との見方を示した。 そのうえで、「訪問介護は介護分野の中でも、職員の人材不足が最も著しいサービス。在宅医療はホームヘルパーさんの生活の支えがあってこそ継続できる。訪問介護がなくなると容易に破綻する」と指摘。「基本報酬の引き下げの影響を今後もしっかり注視していくべき」と主張した。
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特養淘汰の時代














 特養入所の利用率は従来型が93.7%(同94.2%)、ユニット型が93.8%(同94.4%)とともに低下しています。特養は介護保険上の職員の配置基準が手厚くなっており、人件費などが膨らむため「定員の95%」程度の入所率が一つの黒字の目安とされています。わずかな空室の増加でも経営に影響が出る恐れがあります。利用率が95%を切れば当然赤字経営となる恐れがあるのです。  

 65歳以上の高齢者数は2042年にはピークを迎え、それ以降は減少に転じます。これまでは建築、設備費用や人件費等固定費が高くても、高い稼働率や待機待ちの増加で、顕在化しなかった経営問題がここにきて噴出し始めています。  

 全国老人福祉施設協議会の田中雅英副会長は「地方では事業の存続が難しい法人が増え、特養は淘汰の時代になる」と指摘しています。  

 要は、補助金を出して高い建築費用や充実した設備に加えて、手厚い介護のための高い人件費という固定費が高い事業は、利用者数の減少により、一気に経営問題化し始めてきたと言えるのではないでしょうか。それに介護報酬の改定では根本的な問題は解決しません。  

 重量級の施設運営から、民間の住宅型有料、サ高住といった軽量級の施設運営に大きく変化を遂げてきたのに、依然として体質を変えることのできない施設は淘汰をされていく。そのように時代になってきたとみるべきでしょう。札幌の特養のように、一部サ高住に転換して、稼働率アップをはかるような取り組みが今後は必要と考えられます。  
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「余る」特養、存続に黄信号 賃貸住宅転用で活路、北海道に先行モデル 
日経新聞2024年1月29日 
 長期間の入所待機が当たり前だった特別養護老人ホームの状況が変わりつつある。全国の入所待機者の減少が続き、地方で空室が目立ち始めた。人口減社会を迎え、高齢人口の増加ペースが過疎地中心に落ち着いてきたことなどが要因だ。サービス継続に危機感が生まれる中、柔軟運営で活路を見いだしたモデルケースが北海道にある。社会福祉法人の芦別慈恵園が運営し、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に一部を転用した全国初とされる施設だ。
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施設での経済的虐待














高齢者施設での通帳とカードを盗んだ疑いで介護士が逮捕されているが、この手の事件が後を絶たない。恐らく、今後更にその件数は増えるものと考えられる。2020年度には全国で59人が被害にあったと認定されたが、「氷山の一角」と言われている。   

今回の神戸の老人ホームでの通帳とキャッシュカードの窃盗は男性が亡くなった後、通帳などがないことに家族が気づき、被害届を出して発覚したという。   

いつも家族が施設に来て身の回りをチェックしている場合には、すぐさまわかることも、昨今の身寄りが少ないご家族の場合には、時たま来てもなかなか気づかない。   

高齢者施設は個室がほとんどであるが、その個室もセキュリティもあってなきが如しで、不正を行おうとすれば誰でもできてしまう危うさがある。   

それ故に、施設での金銭管理や通帳預り等は極力避けるべきである。   

個人の財産権は憲法上保証された権利であり、他者から不当に侵害されるものではありません。介護という現場では、本人の意思がないがしろにされやすい環境にあり、施設と個人は利益相反の関係にあるため、金銭管理規程が入居契約の中に内包されてしまうというような事態は慎むべきだと思います。最低でも入居契約とは別に金銭管理の委任契約を締結すべきですし、金銭管理規程を詳細につめておく必要があります。   

勤務先老人ホームで通帳とカードを盗んだ疑い 入所男性から、介護士の60歳女を逮捕 神戸
神戸新聞NEXT 2024/1/24   
 介護付き有料老人ホームで入所男性から通帳などを盗んだとして、神戸西署は24日、窃盗の疑いで、神戸市垂水区名谷町の介護士の女(60)を逮捕した。容疑を認めているという。   

逮捕容疑は2017年8月~22年12月ごろ、神戸市西区にある勤務先の老人ホームで、80代の男性から預金通帳1通とキャッシュカード1枚を窃取した疑い。神戸西署によると、女と男性は面識があったという。男性が亡くなった後、通帳などがないことに家族が気付き、23年3月に被害届を出していた。
介護職の窃盗 後絶たず、「経済的虐待」…認知症「事前に後見人を」、発覚は「氷山の一角」
読売新聞2022/02/28   
 介護職員が高齢者の金銭や財産を盗んだり、不正使用したりする「経済的虐待」が後を絶たない。厚生労働省によると、2020年度は全国で59人が被害に遭ったと認定されたが、「氷山の一角」とみられる。老人施設に入居している認知症の高齢者が被害に遭うケースが目立っており、専門家は 任意後見制度 の利用も選択肢の一つとしている。
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福祉施設の構造的な問題














 24年度の介護報酬改定では訪問系が引き下げられ、施設系が引き上げとなった。その理由としては特養ホームと老健がマイナスに転じ、介護医療院はわずかながらプラスとはなったものの、対2021年度決算からマイナス4.8%の下落と、施設系サービスの経営状況は極めて厳しくなっているので、こちらは引き上げざるをえないという論法です。   

介護老人福祉施設(特養)と介護老人保健施設(老健)、特定施設入居者生活介護(特定施設)の3つの施設の収益構造をみればその体質は歴然としています。   

収益差は介護老人福祉施設-1.0 介護老人保健施設で-1.1% 特定施設入居者生活介護では2.9%、これをもって訪問系よりも収益差が減少しているのでプラス改定をするということです。

介護老人福祉施設で売上高に占める給与比率が令和4年度で65.2%、介護老人保健施設で64.2%と高く 特定施設入居者生活介護では43.3%となっています。圧倒的に特養、老健の人件費率が高いのです。一般企業で人件費比率が60%を超えて利益がでるはずがないのです。   

常勤換算職員1人当たり給与費を見てみれば特養でで391,261円/月  老健401,013円/月、特定施設入居者生活介護で362,437円/月となっています。人件費が高いのは介護事業にとっては望ましいのですが、経営はあくまでも収支バランスです。継続した事業を展開するのに利益は存続経費として一定額が必要なのですが、現在の特養、老健は現状ではその存続価値が問われているのではないでしょうか。それ故に、収益を介護報酬を挙げることで存続をさせるというのは、あまりに場当たり的ではないでしょうか。   

特養入所の利用率は従来型が93.7%(同94.2%)、ユニット型が93.8%(同94.4%)とともに低下しています。全老健施設の入所者の状況調査の結果(1122施設)をみると、稼働率は全体平均で86.2%となった。平川副会長は「これまでの経営実態調査をみても稼働率は94%を超えていないと維持できない。95%を超えないと新しい施設整備や投資ができないという。特養、老健共に利用率が低下しているのも経営悪化の要因の一つである」とのべておられます。   

何故、特養・老健の稼働率が低下しているのかを考える必要があります。   

又、第3期から第8期の介護保険事業計画の施設・居住系サービスの計画値と実績値、達成率を見ると、第8期計画値は、過去最低の10.1万人に減少しており、第8期計画2年目の達成率は37.3%に留まっているということも見逃せません。   

介護保険制度が始まって24年、従来の福祉施設にプラスして様々な高齢者施設が増加し、今や、その数を凌駕するところまできています。即ち競争の激化に、従来の福祉施設の競争力が低下していることが考えられます。しかし、高い設備費用と人件費の構造は変わらず、収益が低下したという構造的問題があるのではないでしょうか。   

この問題にメスを入れずに赤字だから報酬改定で上乗せするという安易な考えで、この問題は解決するはずがありません。 
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生活保護担当288件 














札幌市で2年間で20代男性のケースカーカーが生活保護費計170万円余を“過少&過大支給” 書類廃棄や虚偽報告も判明 20代男性職員を停職処分になったとの記事が掲載されている。  

 市によれば、「この職員は複雑で難しい事務処理を後回しにする傾向があり、上司に報告や相談をできず虚偽の報告をしていたほか、未処理の書類を定められた場所で保管する組織的なルールも守っていませんでした。」と説明をしているが、2年間で288世帯を担当していたという。その数字の異常さに驚きを隠せない。  

 通常、担当する生活保護者は1担当当たり100件前後と言われるが、3倍近い担当をしていたということか。それでは、様々な処理ができなくなるのもわかる気がする。ケースワーカーの配置は社会福祉法において市部80世帯に1人、郡部65世帯に1人を基準として定められているという。  

 厚生労働省の調査では基準を満たしていない自治体は7割に及ぶと言われている。このままでは国民生活最後の砦である生活保護行政がなりゆかない。札幌市は処分の前に、根本的な原因がどこにあるのかをしっかりと検証してもらいたい。超高齢社会の時代変化に合わせた生活保護行政の在り方にメスを入れねばならない。構造的な問題になりつつあることを懸念する。  
 桜井啓太・立命館大准教授(社会福祉学)は「公務員の人員削減の流れを背景に、ケースワーカー不足も常態化している。訪問で生活実態を把握できなければ、適切な支援に影響する。給与が低く身分が不安定な非正規職員が生活保護業務を支える構造とともに、是正が必要だ」と指摘している。
 https://www.asahi.com/articles/ASNDJ560NNCZUUPI002.html

生活保護費計170万円余を“過少&過大支給” 書類廃棄や虚偽報告も判明 20代男性職員を停職処分に…札幌市「一斉点検」へ YAHOOニュース2024.1.22 
 札幌市西区役所の20代男性職員が、担当していた9世帯分、計170万円あまりの生活保護費を過大、過少支給をしたり、書類の廃棄や偽造などの不適切な処理をしたりしたなどとして、札幌市はこの職員を停職2か月の懲戒処分としました。  

札幌市によりますと、この男性職員は西区役所のケースワーカーで、生活保護業務を担当していた2021年3月から2023年4月の約2年間で、6世帯の保護費計51万4165円を過少支給、2世帯には77万7636円を過大支給、1世帯には43万7301円を過大返還させる決定をし、計172万9102円の不適切な事務処理を行いました。

2023年7月、後任の職員あてに保護世帯から問い合わせがあり、一部支給されていないものがあることが判明。その後、この職員が担当していた288の全世帯を調査するなどした結果、不適切な処理が判明しました。 同市によりますと、この職員は複雑で難しい事務処理を後回しにする傾向があり、上司に報告や相談をできず虚偽の報告をしていたほか、未処理の書類を定められた場所で保管する組織的なルールも守っていませんでした。
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