
早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二氏が低賃金の非正規雇用労働者など「アンダークラス」と呼ばれる新たな階級が、1980年代以降の日本で生まれた背景と社会経済への影響、考えられる処方箋について下記の記事が掲載されました。
橋本教授の調査・推計によると、アンダークラスの構成は年々変化しており、特に高齢化が顕著に進んでいます。アンダークラスの高齢者問題について検証してみたいと思います。このままではアンダークラスの高齢者問題が日本の未来を奪うことになるのではないかと危惧します。
1. 高齢者の人数と割合2022年時点のアンダークラス(約900万人弱)の内訳において、高齢者の割合は以下のように推計されています。
高齢アンダークラス(60歳以上)の人数:約200万人〜250万人全体に占める割合:約25% 〜 30%
かつてアンダークラスは「就職氷河期世代(ロスジェネ世代)」を中心とした若年・壮年層のイメージが強かったのですが、現在は定年退職後に低賃金の非正規職(清掃、警備、軽作業など)に再就職する層が急増し、4人に1人以上が高齢者という状況になっています。
2. 世代別の構成(イメージ)アンダークラスの約900万人は、大きく3つのグループに分かれます。
カテゴリ特徴割合(目安)
高齢者(60歳以上)退職後の再就職、年金不足を補うために働く層約25~30%
中年層(40〜59歳)ロスジェネ世代を含む、固定化した非正規層約40~45%
若年層(15〜39歳)キャリア形成が困難な非正規層約30% と位置付けられます。
高齢アンダークラスが抱える深刻な実態が浮き彫りになっています。
高齢のアンダークラスは、現役世代のアンダークラスとは異なる特有のリスクを抱えています。
「年金」というセーフティネットの脆弱さ アンダークラスに属する高齢者の多くは、現役時代も非正規であったり、自営業であったりしたため、厚生年金の受給額が低い、あるいは国民年金のみというケースが目立ちます。 健康状態の悪化 統計によれば、アンダークラスは他階級に比べて「健康状態が良くない」と回答する割合が有意に高く、高齢になるほど医療費の負担が家計を圧迫します。 孤立化 未婚率の高さや、仕事以外での人間関係が希薄な傾向があり、いわゆる「孤立死」のリスクが最も高い層とされています。
アンダークラスの提唱者である橋本健二教授の分析や、人口動態統計(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計)を照らし合わせると、高齢アンダークラスは今後「拡大」から「質の変化(深刻化)」*の局面へ向かうと予想されます。
2030年〜2050年:高齢アンダークラスの推移予測
2030年:量的拡大のピーク(ロスジェネ高齢化の始まり) 状況: 就職氷河期世代(ロスジェネ世代)の最年長層が60代に突入します。 特徴: アンダークラスの中で最も人口ボリュームが大きい「中年層」が、そのまま「高齢層」へとスライドし始めます。
予測: 高齢アンダークラスの人数は、現在の約200〜250万人から300万人規模へ拡大。非正規雇用のまま定年を迎える人が増え、年金未加入や低額受給が社会問題として表面化します。
2040年:質的深刻化のピーク(「2040年問題」との連動)
状況: ロスジェネ世代の多くが65歳以上の高齢者となり、団塊ジュニア世代も完全に高齢化します。 特徴: 親の世代(団塊世代)が亡くなり、これまでの「親の年金や資産に頼って生活していたアンダークラス」が、その支えを失います。 予測: 単身(独居)の高齢アンダークラスが激増します。
生活保護受給者が急増し、自治体の財政を圧迫するリスクが高まります。この時期、高齢アンダークラスは全体の約4割〜5割に達する可能性があります。
2050年:固定化された「超階級社会」 状況: 日本の総人口が1億人を大きく割り込む中、高齢者の割合が最大級になります。 特徴: 若い頃から一度も正社員になれず、資産形成もできなかった「一生アンダークラス」だった人々が、80代以上の後期高齢者層となります。
予測: 「アンダークラスの再生産(格差の固定化)」が完了し、社会的な階層移動がほぼ不可能な状態に。人数自体は人口減少に伴い減少に転じる可能性がありますが、困窮の度合いは最も深刻になり、公的扶助なしでは生存できない層がマジョリティの一つとなります。
世代交代による「構成の変化」イメージ 年代主な階層の変化
主なリスク
2030年中年アンダークラスが高齢化を開始低年金・無年金問題の顕在化
2040年ロスジェネ世代が完全に高齢者へ親の資産消失、独居・孤立死の急増
2050年アンダークラスの高齢化が完成社会保障制度の限界、階級の完全固定化
考察:何が鍵となるか 今後の推移を左右するのは、「健康寿命」と「居住の確保」です。アンダークラスの人々は体力仕事に従事している割合が高いため、加齢による健康悪化が即、収入ゼロに直結します。また、低賃金ゆえに家賃を払い続けることが難しくなる「高齢賃貸難民」の増加も、2030年以降の大きな懸念点です。
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年収216万円「アンダークラス」 日本全体を持続不能に『新しい階級社会』著者 橋本健二 早大教授に聞く日経BizGate|課題解決の扉を開く2026.01.14
新しい階級社会 最新データが明かす<格差拡大の果て> (講談社現代新書 2779) 著者 : 橋本 健二 出版 : 講談社
日経BizGateのコラム「ひらめきブックレビュー」は毎月6回、旬な書籍の書評を提供している。2025年に公開した同コラムの記事で最も閲覧数(PV)が多かったのが、『新しい階級社会』(講談社)を取り上げた「新しい階級『アンダークラス』 広がる格差を是正できるか」(8月19日公開)だ。
著者は長年にわたり日本の格差と階級の問題を研究してきた、早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二氏。橋本氏に低賃金の非正規雇用労働者など「アンダークラス」と呼ばれる新たな階級が、1980年代以降の日本で生まれた背景と社会経済への影響、考えられる処方箋などを聞いた。
――アンダークラスは2022年の時点で約890万人と、全就業者数の約14%を占めるとされます。アンダークラスがここまで拡大した要因は何でしょうか。 格差は社会全体の活力を奪い 経済成長を妨げる
――アンダークラスの存在は、日本社会全体にどのような影響を与えますか。
橋本 大きく3つの問題が指摘されています。
1つ目は社会的コストの増大です。貧困層は健康を害しやすく、医療費や社会保障費の増大につながります。
2つ目は富裕層や中間層を含む、すべての人々の生活の質が低下することです。
3つ目は経済成長が妨げられることです。格差が拡大すると、貧困層が能力を開発する機会が失われ、またその子どもたちが十分な教育を受けられなくなります。その結果、社会全体の生産性が下がり、経済成長が抑制されるのです。

