今回の生活援助の回数制限問題で財務省が月100回を超えているとやり玉に挙げた事例は北海道標茶(しべちゃ)町をでした。財務省の調査資料(6月公表)で生活援助の利用は全国平均で月9回程度なのに「中には月100回を超えて利用」する例があるとして最多で月101回の利用例がある同町名を公表したのです。

ところが下記の現地報道では同調査は現場の実態を見ないものでした。このことを共産党は財務省に事実確認をしたところ、間違いであったと認めたにも拘わらず、今回の改悪に踏み込んでいるのです。

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2017年12月4日(月)

2017とくほう・特報

介護保険「生活援助」利用制限に怒り、財務省がやり玉にあげた 北海道標茶町を行く

実態無視した回数制限、「無駄遣い受け止めは心外」(副町長)

政府・厚生労働省は、介護保険制度の訪問介護のうち、ホームヘルパーが調理や掃除をする「生活援助」の利用を厳しく制限する仕組みを来年10月から導入しようとしています。北海道東部の標茶(しべちゃ)町は、政府が利用制限の根拠に持ち出した調査資料で多数回利用がやり玉に上げられました。関係者を訪ねると介護の実態を無視した政府方針への批判があふれていました。(内藤真己子)
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 東京都の約半分の町域に原野を切り開いた集落が点在する酪農の町、標茶町(人口8000人弱)。高齢化率は全国平均より約4ポイント高い31・5%で、人口減少が進みます。

 標茶町をやり玉に挙げたのは財務省の調査資料(6月公表)です。同資料では、生活援助の利用は全国平均で月9回程度なのに「中には月100回を超えて利用」する例があるとして最多で月101回の利用例がある同町名を公表したのです。

 ところが同調査は現場の実態を見ないものでした。

101回 妥当なプラン

 当該利用者は、同町直営の居宅介護支援事業所の主任ケアマネジャーで、精神保健福祉士の資格も持つ西内美都江さんがケアプランを担当しています。要介護3、70代後半で独り暮らしの女性です。

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(写真)北海道標茶町役場の伊藤順司保健福祉課長(左)とケアマネジャーの西内美都江さん

女性は精神疾患を患い幻視・幻聴、物忘れがあります。障害者の自立支援医療の適用を受け、訪問看護を週2回利用しています。しかし障害があっても65歳以上の訪問介護は介護保険制度が優先で、女性は10年来、利用してきました。

 病気のため意欲や思考・判断力が低下しており、食事や着替えが1人でできません。朝昼夕と1日3回、ホームヘルパーが訪問して更衣を促し、調理して配膳、食事を見守り、向精神薬の服薬確認をしていました。

 昨春、体調を崩して入院した後、精神状態が不安定になりました。「どうしたら落ち着いて生活できるか担当者が会議を開きケアプランを作り直しました。昼と夕方の間にもう1回ヘルパーが入り、より細かな見守りをしていくことになり回数が増えています」と西内さん。

 以来1日4回、ヘルパーが訪問するようになりました。着替えなど直接体に触れる介助は「身体介護」を算定。それ以外は生活援助で、調査月は101回でした。「妥当なプランだと思います」と西内さんはきっぱり。

 「年をとっても病気になっても、どこでどんな生活をしていくか選んで実現していく権利がみんなにあると思います。それをサポートするのが介護保険だと思います。この方は制度の枠内でケアプランを立て希望する地域での生活が実現できています。それを『回数が多いからダメだ』と言われるのには憤りがあります」。西内さんは頬を紅潮させて話しました。

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(写真)森山豊副町長

 同町の森山豊副町長は「今回の政府のやり方は『生活援助の利用制限先にありき』です。適切なサービス提供なのに、101回の数字を無駄遣いと受け止められたのは心外です」と言います。

1日1回程度でも

 厚労省は結局、11月末、現場の実態や関係者の批判を無視し、わずか1日1回程度の利用にまで厳しいハードル(別項)を設ける方針を提案しました。制限基準回数を超える利用はケアマネに市町村への届け出を義務付けます。市町村はケアプランを「点検」、専門職を集めて開く「地域ケア会議」で「検証」し、「是正」も促します。

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 同町の伊藤順司保健福祉課長は「なぜ1日1回ぐらいの利用が問題にされるのか。妥当な根拠が示されていない。要介護認定で決められた支給限度額の枠内なのに、別の物差しで利用に制限をかけるのはふに落ちない」と疑問を呈します。

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(写真)中野まゆみさん

 「ええッ、1日1回がダメなんですか? どうしよう…」。町内の民間介護事業所の管理者でケアマネジャーの中野まゆみさんも困惑を隠しません。

 担当する82歳で独居、要介護1の男性は、重い糖尿病で心臓病の合併症もあり入退院を繰り返しています。ヘルパーが買い物、調理、掃除のほか血糖値の測定やインスリン自己注射の見守りをしています。生活援助を月40回程度利用します。厚労省方針の要介護1の基準を超えており、今後はケアプランの「点検・検証」が必要になります。

事実上の利用上限

 「『国の基準』と言われたら、それを超える援助の必要性をうまく説明できるか不安があります。ケアマネが『自主規制』し、基準が事実上の利用上限になるのを狙っているのではないでしょうか」。同町の地域ケア会議は2カ月に1回。その間は制限を超えて利用できるのか。いずれ「自粛」の方向に向かうことになります。

 独居の高齢者が多い同町。訪問時、孤独死の現場に直面することが毎年のようにあります。「本当はヘルパーを毎日利用したい人も、年金が少なく1割の利用料負担が払えないから週2~3日の利用で我慢している人が多いのです。十分、利用できない現状を放置しながら、『平均より多い』と言って利用を制限するなんておかしい」と中野さん。

 森山副町長も厚労省の方針に憤ります。「介護保険は利用者にサービス選択の権利がある制度として発足しました。生活援助だけ回数を制限し、選択の権利を奪うなど制度上あり得ない話です」


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「介護離職ゼロ」に逆行

立命館大学特任教授 小川栄二さん

 厚労省の方針は、生活援助が利用できるのは原則的に1日1回程度にするという極めて過酷な利用制限です。

 そもそも介護保険は要介護認定の行政処分で給付上限額が決められ、利用者にはその枠内の給付が保障されています。ところが厚労省は、新たに「地域ケア会議」を使ってケアプランに介入し、市町村に給付を制限する役割を担わせようとしています。制度創設時の説明と異なります。国家的詐欺と言われる、「保険あって介護なし」の状態が一層進む危険があります。

 生活援助はこれまでも1回当たりの利用時間が短縮され、利用者の生活が脅かされてきました。このうえ回数まで制限したら、高齢者の生活状態が悪化、身体機能も低下し、重度化が進むことは目に見えています。1日1回では認知症の人が地域で暮らすことは困難になります。

 家族にとっては在宅介護の負担が増し、虐待、介護殺人といった悲劇が広がりかねません。安倍政権が「介護離職ゼロ」をいうなら、こんな方針はただちに撤回するべきです。