
住宅型有料老人ホーム入居者向け新ケアマネ類型創設に関する提言書
― 制度是正と介護崩壊回避を両立するための構造改革提案 ―
1.はじめに
厚生労働省は、住宅型有料老人ホーム入居者に特化した新たなケアマネジメント類型の創設方針を示した。
制度の歪みを是正し、囲い込み構造を是正するという問題意識は理解できる。
しかしながら、本改正が十分な移行設計と補完制度を伴わない場合、介護産業全体の持続性を揺るがしかねない重大なリスクを内包している。
本提言は、「制度適正化」と「現場崩壊回避」の両立を目的とするものである。
2.現行制度の問題点(是正の必要性)
現行の住宅型・サ高住モデルにおいては、以下の構造的偏在が生じていた。
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高介護度利用者の効率的集約
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移動コストの極小化
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加算取得の容易性
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施設側へのトラブル転嫁
これにより、居宅介護支援の収益性が在宅と比較して著しく高まる構造が形成されてきた。
この点の是正は一定の合理性を有する。
3.しかし看過できない三つの危機
(1)住宅型・サ高住の大量淘汰リスク
住宅型有料老人ホームおよびサ高住は、高齢者居住インフラの重要な受け皿である。
急激な収益構造の変更は、
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中小法人の経営悪化
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介護人材の離職加速
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入居者の住み替え困難
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医療連携の断絶
を招きかねない。
制度是正が供給崩壊を招いては本末転倒である。
(2)独立系居宅支援事業所は既に衰退局面
現在、独立系の居宅介護支援事業所は減少傾向にあり、多くが医療法人・介護法人グループ傘下に組み込まれている。
すでに在宅単独モデルは採算が厳しい構造にある。
単純な「在宅回帰」論では持続可能性は担保できない。
(3)在宅ケアマネの限界
在宅領域では制度外業務が膨張している。
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家族調整
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金銭未払い対応
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身元保証問題
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緊急搬送立会い
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死後事務相談
これらはいわゆる“シャドウワーク”であり、報酬体系に反映されていない。
この負担を放置したまま在宅シフトを促せば、さらなる人材流出を招く。
4.本質的課題:責任構造の空白
今後急増するのは、
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身寄りのない単身高齢者
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軽度認知症+家族疎遠層
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医療同意・金銭管理・死後事務が複合するケース
である。
ケアマネ一職種に生活・法的・金銭的責任まで集中させる構造自体が限界に達している。
5.必要なのは「多層型地域支援プラットフォーム」
以下の分業構造を制度設計に組み込むべきである。
① ケアマネはケアマネ業務に専念
② 金銭管理・身元保証は専門機関
③ 死後事務は事前契約化
④ 医療同意問題の制度整理
⑤ 地域包括との接続ルール明確化
地域包括支援センター、社会福祉協議会、医療機関、介護事業所、そして民間の身元引受・保証機関を含めたプラットフォーム整備が急務である。
6.段階的移行と補完制度の整備を
本改正を進めるのであれば、同時に以下を実行すべきである。
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居宅介護支援報酬の抜本見直し
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シャドウワークの制度化
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身元保証機能の公的認証制度創設
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住宅型ホームへの移行緩和措置
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民間支援機関との連携指針策定
7.結論
新類型の創設は、制度の適正化という観点では理解できる。
しかし、構造設計なき是正は介護供給体制を不安定化させる可能性が高い。
今求められるのは、
「在宅回帰」ではなく、「支える構造そのものの再設計」である。
介護崩壊を防ぎつつ持続可能な地域包括ケアを実現するため、制度改正と並行して多層型支援基盤の整備を強く提言する。
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