
厚生労働省が示した、住宅型有料老人ホーム入居者に特化した新たなケアマネジメント類型創設の方針は、介護業界に大きな波紋を広げている。
一部では「居宅介護支援の正常化」と評価する声もある。確かに、住宅型ホームにおけるケアマネジメントは、移動効率や加算取得の容易性など、在宅と比較して収益構造上の優位性を持っていたことは否定できない。
しかし私は、この改正の本質は「在宅回帰」ではなく、「支援構造の再設計」にあると考えている。
住宅型モデルの是正がもたらす影響
住宅型有料老人ホームやサ高住は、身寄りのない高齢者や中重度層の重要な受け皿となってきた。
もし今回の新類型創設により収益構造が急激に変化すれば、
- 中小法人の経営悪化
- 介護人材の流出
- 入居者の住み替え困難
- 医療連携の断絶
といった連鎖的影響が生じかねない。
制度の歪みを是正することは必要である。しかし、その結果として供給基盤が不安定化すれば、地域包括ケアの理念自体が揺らぐ。
在宅の現実は理想ほど軽くない
「在宅へ戻るべきだ」という議論は理解できる。だが、在宅現場の実態は厳しい。
ケアマネジャーは、
- 家族調整
- 未払い問題
- 緊急搬送立会い
- 医療同意の相談
- 死後事務の問い合わせ
など、制度外業務に日々追われている。
いわゆる“シャドウワーク”は増加する一方で、報酬はそれを十分に評価していない。
この状態で在宅シフトを強めれば、燃え尽きと離職はさらに進むだろう。
問題の本質は「責任の集中」
私が15年以上、身元引受・金銭管理・死後事務支援に携わる中で痛感してきたのは、
ケアマネに責任が過度に集中しているという現実である。
今後増加するのは、
- 身寄りのない単身高齢者
- 軽度認知症+家族疎遠
- 医療同意や財産管理を伴う複合ケース
である。
これらはケアプラン作成のみで解決する問題ではない。
実践例:多層型支援モデルの構築
当協会(一般社団法人ロングライフサポート協会)では、約300名の身元引受実績の中で、以下の構造を構築してきた。
① 金銭管理のクラウド化
毎月の収支明細を可視化し、通帳残高と連動。
ケアマネが金銭トラブル対応に追われる事態を減らす。
② 医療同意・緊急対応の契約整理
事前合意書を整備し、搬送時の混乱を回避。
③ 死後事務の事前契約化
親族探索や葬儀手配の混乱を未然に防ぐ。
④ 地域包括との情報共有
ケアマネ単独ではなく、包括・医療機関と分担。
この分業構造により、ケアマネは本来業務に集中できる環境が整う。
必要なのは在宅回帰ではなく“責任の分散”
今回の新類型創設が目指すのは囲い込み是正である。しかし、
本当に是正すべきは「ケアマネに過度に集中した責任構造」である。
今後の制度設計には、
- ケアマネ報酬の再評価
- シャドウワークの制度化
- 身元保証機能の公的認証
- 民間支援機関との連携指針
を同時に進める視点が不可欠である。
結論
在宅か施設かという二項対立では、問題は解決しない。
問われているのは、
地域で高齢者を支える責任をどう分散し、持続可能な構造に再設計するかである。
制度是正は必要である。
しかし、それは供給崩壊や人材流出を伴ってはならない。
今こそ、ケアマネを中心とした単層構造から、多層型地域支援モデルへの転換を議論すべき時である。
理念ではなく、実装を。
是正ではなく、再設計を。
それが、現場に立つ者としての私の提言である。
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