
在宅包括型身元引受サービス市場は2035年に1兆円市場になるのか ― 市場規模予測とビジネスモデル
高齢者支援の現場で仕事をしていると、ここ一年ほどで相談内容が大きく変わってきたことを実感します。
これまでは「施設へ入居するための身元引受」が中心でした。しかし現在増えているのは、「自宅で最後まで暮らしたい」という在宅高齢者からの相談です。
しかも、その内容は単なる緊急連絡先ではありません。
「金銭管理もお願いしたい。」
「病院とのやり取りも頼みたい。」
「死後のことまで準備しておきたい。」
つまり、在宅生活全体を支える包括型身元引受サービスへのニーズが急速に高まっているのです。
私は、この市場は2035年には1兆円規模に成長する可能性を十分秘めていると考えています。
もちろん、これは公的統計として示されている数字ではなく、高齢化の進展、在宅志向の高まり、支援単価、利用率などを踏まえた一つの市場シナリオです。しかし、その前提条件を整理すると、決して非現実的な数字ではありません。
なぜ市場は急拡大するのか
日本はこれから20年間で世界でも例を見ない高齢化を迎えます。
さらに増加するのが、
・身寄りのない高齢者
・子どもがいない世帯
・子どもが遠方に住む高齢者
・高齢夫婦のみ世帯
・認知機能が低下した在宅高齢者
です。
これまでは家族が担っていた役割が、社会全体で担わなければならない時代に入っています。
一方で政府は、「施設から地域へ」「病院から在宅へ」という地域包括ケアシステムを推進しています。
つまり、高齢者は在宅で生活することが基本となり、その生活を支える新しいサービス市場が生まれているのです。
「介護市場」と「生活支援市場」は別の市場である
ここで重要なのは、包括型身元引受サービスは介護保険市場とは異なるということです。
介護保険が提供するのは身体介護や生活援助です。
しかし実際の在宅生活では、それだけでは生活は成り立ちません。
例えば、
・金融機関との手続き
・公共料金の管理
・医療費の支払い
・施設との契約
・行政手続き
・病院への同行
・見守り
・緊急対応
・死後事務
こうした支援は介護保険の対象外であり、今後さらに需要が高まる保険外サービスです。
つまり、包括型身元引受サービスは「介護」ではなく、「生活を経営するサービス」と言えるでしょう。
市場規模を試算してみる
仮に2035年時点で、
・利用対象となる高齢者が300万人
・そのうち10%が包括型サービスを利用
・利用者数30万人
・年間利用額30万円~40万円
と仮定すると、
30万人 × 年間35万円=約1兆500億円
という市場規模になります。
もちろん地域差や所得差はありますが、この程度の利用率であれば十分現実的な水準と考えられます。
しかも、この数字には相続支援、財産管理、成年後見支援、葬送支援などの関連サービスは含まれていません。
周辺市場まで含めれば、さらに大きな市場へ発展する可能性があります。
成功するビジネスモデルとは
これから成功する事業者は、「身元保証会社」ではありません。
地域の高齢者支援プラットフォームを構築できる事業者です。
その中心となるサービスは次のようなものです。
第一層 安心の提供
・緊急連絡先
・24時間対応
・見守り
・病院対応
これは「安心」を提供する基盤サービスです。
第二層 生活支援
・金銭管理
・契約支援
・買い物支援
・行政手続き
・生活相談
ここが継続収益を生む中核サービスになります。
第三層 終活支援
・任意後見契約
・死後事務委任
・葬儀
・納骨
・相続相談
人生の最終段階を支えるサービスです。
第四層 地域ネットワーク
さらに重要なのが、
・病院
・地域包括支援センター
・ケアマネジャー
・訪問介護
・金融機関
・士業
・葬儀社
・不動産会社
などをつなぐ地域ネットワークです。
一社ですべてを行う時代ではありません。
地域全体で支えるプラットフォームを構築した企業が競争優位を持つようになります。
DXが市場を大きく変える
もう一つ重要なのがDXです。
これまで身元引受業務は担当者個人の経験に依存していました。
しかし今後は、
・クラウド型金銭管理
・電子契約
・見守りシステム
・AI相談
・代理店ネットワーク
・電子カルテとの連携
・活動履歴の自動記録
などが進み、サービス品質は大きく向上するでしょう。
「人が行う支援」と「テクノロジー」が融合したモデルが、業界の新たな標準になると考えられます。
これから必要なのは全国ネットワーク
私は、この市場は一企業だけで支えることはできないと考えています。
全国各地に地域パートナーが存在し、共通のルール、共通の品質、共通の教育のもとでサービスを提供するネットワークが必要です。
それはフランチャイズでも単なる代理店でもありません。
「高齢者支援の社会インフラ」を地域ごとに担うパートナーシップです。
2035年には、こうしたネットワークを持つ組織が、日本の在宅高齢者支援を支える重要な存在になっているかもしれません。
2035年を見据えて
高齢化は、日本にとって避けることのできない社会課題です。
しかし見方を変えれば、それは新しい社会インフラを創る機会でもあります。
在宅包括型身元引受サービスは、単なる民間サービスではありません。
介護、医療、行政、地域、そして家族をつなぎ、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けるための「社会の基盤」となる可能性を秘めています。
2035年に市場が本当に1兆円へ到達するかどうかは誰にも断言できません。
しかし確かなことがあります。
これからの10年間で、「高齢者を支える仕組み」を持つ組織と、「個別のサービス提供」にとどまる組織との差は、ますます大きくなるでしょう。
私たちが目指すべきものは、身元保証会社ではありません。
「誰一人、身寄りがないことを理由に取り残されない社会」を支える全国規模の社会インフラです。
在宅包括型身元引受サービスは、その未来を支える重要な柱になると私は確信しています。
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