その一言が、本人の決断を支えた













「もう自分たちでは支援できません」――その一言が、本人の決断を支えた

昨日、身元引受契約を2件行いました。

いずれも急性期病院に入院中の方です。

お一人は、今後、療養型の病院へ。もうお一人は、病院系列の介護施設へ移られる予定です。お二人とも、残念ながら、これまで暮らしてきた自宅へ戻ることは難しい状況でした。

しかし、お二人とも心の中には「できれば、もう一度自宅で暮らしたい」という思いが残っています。

これは、決して特別なことではありません。

長年暮らしてきた家、近所の人との付き合い、見慣れた家具、毎日の生活。たとえ身体的には自宅生活が難しくなっていても、「家に帰りたい」という気持ちを簡単に手放すことなど、誰にでもできることではありません。

そして、もう一つ大きな問題があります。

それは、「自分の人生を第三者に預ける」という決断の難しさです。

「契約する」と言っていた本人が、最後に迷い始めた

今回、そのことを強く感じた一件がありました。

本人は、事前には身元引受契約をする意思を示していました。

私たちはその意思を確認したうえで病院へ伺いました。

ところが、いざ契約書を前にすると、本人が考え始めました。

「もう一度、ご近所の親しい人に相談しようかな」

「遠くにいる弟に相談してみようかな」

当然の反応だと思います。

身元引受契約とは、単に書類に名前を書くことではありません。

入院や施設入所の手続き、緊急時の対応、日常生活の支援、場合によっては金銭管理や死後事務まで、自分一人では対応できなくなったときに、第三者に支援を託す契約です。

特に、通帳などの財産を預けることは、本人にとって非常に大きな決断です。

「本当にこの人たちに任せて大丈夫なのだろうか」

そう考えるのは当然です。

私たちも、その時点で「これは今日は契約できないかもしれない」と思いました。

そのとき、地域包括のケアマネジャーが言った言葉

すると、同席していた地域包括のケアマネジャーが本人にこう話しました。

「〇〇さん、今日で私たちの仕事は終了です。この後は、信頼できるサポート協会に身元保証をお願いしましたので、契約をお願いしますね」

本人は、それでも迷っています。

するとケアマネジャーは続けました。

「ご近所の××さんにも、弟さんにも相談しました。でも、自分たちではできないので、専門の方にお願いしてください、とお話をされています」

そして最後に、

「私たちも、これ以上は自分たちでは支援できません。ですから、お願いします」

とはっきり伝えました。

その瞬間でした。

それまで少し認知症が入っていると言われていた本人の顔つきが、明らかに変わりました。

そして、契約書にサインをされました。

契約が終わると、まるで肩の荷が下りたかのような表情になり、

「よろしくお願いします」

と、私たちに頭を下げられました。

私はこの場面を見て、身元引受という仕事の本質を改めて考えさせられました。

本人は「頼りたくない」のではない。「決断できない」のです

高齢者の身元引受を考えるとき、私たちはつい、

「身寄りがないから、誰かに頼らなければならない」

と考えてしまいます。

しかし、本人の側から見れば、そう簡単な話ではありません。

これまで自分で生活してきた人が、

「これからは他人に頼ります」

と決めることには、大きな心理的抵抗があります。

まして、自宅に帰れないと言われても、本人の気持ちはすぐには切り替わりません。

「まだ自分で何とかできるのではないか」

「誰かが助けてくれるのではないか」

「もう少しだけ自宅で暮らせないか」

そう思うのが自然なのです。

だからこそ、身元引受サービスは単なる「保証サービス」ではないのだと思います。

本人が、自分の人生の次の段階へ進むための意思決定を支える仕事でもあるのです。

地域包括やケアマネジャーの「最後の一言」の重さ

今回、もう一つ強く感じたことがあります。

それは、地域包括支援センターやケアマネジャー、病院のソーシャルワーカーの方々が、これまでどれほど本人を支えてこられたのかということです。

「もう自宅生活は難しい」

「これ以上は私たちでは支援できない」

こう言い切ることは、決して簡単ではありません。

まして、本人との関係を考えれば、できれば最後まで支援してあげたいという思いがあるはずです。

それでも、本人の安全や生活を考えれば、どこかで「自分たちだけでは支えられない」と判断しなければならない時があります。

今回のケアマネジャーの言葉は、突き放した言葉ではありませんでした。

むしろ、これまで十分に支援してきたからこそ言える、責任ある言葉だったのだと思います。

そして、その「最後の一言」があったからこそ、本人もようやく次の支援者に身を委ねることができたのではないでしょうか。

私は、その姿勢に本当に頭が下がりました。

これからは「施設入所時」ではなく「在宅段階」から

これまで、身元引受サービスは、施設への入居や病院への入院が決まった段階で必要になるケースが多くありました。

しかし、これからは大きく変わっていくと考えています。

高齢者の一人暮らしが増え、家族が遠方に住み、甥や姪にも簡単には頼れない時代になっています。

その結果、病院に入院してから初めて「身元保証が必要です」と言われるのではなく、在宅で生活している段階から、将来に備えて支援者を確保しておく必要性が高まっていきます。

つまり、これからの身元引受は、

「施設に入る人のためのサービス」

から、

「在宅で暮らし続ける高齢者を支える生活支援インフラ」

へと変わっていくのではないでしょうか。

支援者と身元引受事業者は「競争相手」ではなく「補完関係」

そのためにも、私たちは地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、ケアマネジャー、病院のMSW、訪問介護事業者、社会福祉協議会など、在宅段階から高齢者を支えている方々との連携を、これまで以上に大切にしなければならないと思っています。

彼らの仕事を奪うのではありません。

むしろ、彼らにしかできない仕事に集中していただくために、彼らが抱えている「身元の問題」「家族の代替が必要な問題」「緊急時の対応」「入院・入所時の支援」などを、専門事業者として引き受けるのです。

そうすることで、支援者の負担を少しでも軽くする。

そして、その余力によって、さらに困難なケースを支援していただく。

これは、これからの高齢者支援において非常に重要な連携モデルになると考えています。

その一言が、本人の決断を支えた

今回の経験から、私は「支援の終了」という言葉の意味を改めて考えました。

地域包括やケアマネジャーが支援を終える。

身元引受事業者が支援を引き継ぐ。

これは、決して支援が途切れることではありません。

支援のバトンを渡すことなのです。

そして、そのバトンを確実に受け取ることが、私たち身元引受事業者の責任です。

本人が最後まで迷うこともあるでしょう。

「本当にこの人たちに任せていいのか」と不安になることもあるでしょう。

そのとき私たちに求められるのは、契約を取ることではありません。

本人が安心して「お願いします」と言えるところまで、丁寧に向き合うことです。

昨日の二つの契約は、私たちにそのことを改めて教えてくれました。

誰一人、身寄りがないことを理由に取り残されない社会をつくる。

そのためには、身元引受事業者だけでは何もできません。

在宅で本人を支えている人たちとつながり、互いの役割を尊重しながら、支援のバトンをつないでいく。

それが、これからの「身元引受」の姿なのだと思います。

そして私たちは、支援者の負担を軽くすることで、支援者が次の「困難な高齢者」を救うことができる社会をつくっていきたいと思います。

身元引受とは、誰かの人生を「引き受ける」仕事です。

しかし本当の意味では、一人の高齢者を支える地域の人たちの力をつなぎ、最後まで支援が途切れないようにする仕事なのかもしれません。