無尽灯

医療&介護のコンサルティング会社・一般社団法人ロングライフサポート協会代表理事 清原 晃のブログ
高齢社会、貧困、子育て支援などの様々な社会課題が顕在化しつつあります。このような地域社会の課題解決に向けて家族に代わる「新しい身寄り社会」を創造する取り組みとして、2011年から①身元引受サービス②高齢者住宅低価格モデルの開発③中小零細高齢者住宅事業支援サービスを掲げた「ソーシャルビジネス」にチャレンジしています。

カテゴリ: 24年度介護報酬改定

訪問系介護は儲かっていない














「何故訪問系の介護報酬は引き下げられるのか?訪問系介護事業は儲かってはいない。厚労省の数字のマジックである」

訪問系介護事業が儲かっているので、今回の報酬改定では引き下げるという。その根拠となるのが訪問系サービスの収支差率です。政府の報告によれば、2023年度は訪問介護で7.8%、訪問看護で5.9%、訪

問リハビリは2021年度決算時のマイナスからの急速なV字回復で9.1%となっていること、定期巡回・随時対応型に至っては11.0%と、全サービス中唯一の二桁収支差率となったからというのがその理由です。

筆者は何故、訪問系の介護事業の収益差が改善したのか、その原因はどこにあるのかをネットで調べてみたが、誰もその原因については触れていない。改善したのであれば当然その理由があるはずである。その理由に基づいて報酬の引き下げがなされたはずです。

しかし、どこをみてもその原因に触れた部分が無いのである。只単に、収益が改善したから、報酬を引き下げるという。即ち儲かりすぎているから引き下げるという論拠である。但し、儲かりすぎている原因については触れてない。本当に何が原因で儲かりすぎているのかも全く触れていないのです。

そこで厚労省の訪問介護の調査データを分析してみると意外なことがわかります。
介護料収入は令和2年度の月平均2,904千円に対して令和3年度2,966千円、令和4年度2,922千円で令和3年度よりもマイナス44千円と減少しているのです。

その他収入を入れた合計収入では令和2年度の月平均2,942千円に対して令和3年度2,968千円、令和4年度3,001千円で令和3年度より33千円増加しています。但し、令和4年度は補助金が令和3年度に比べて31千円増加しています。それを前年並みとした場合は2,975千円と前年に対して7千円しか増加していないのです。

反対に費用は令和2年度の月平均2,680千円に対して令和3年度2,750千円、令和4年度2,695千円で令和3年度よりもマイナス55千円と減少しています。

即ち収益のマイナスよりも費用のマイナスが大きかった為に、前年より利益がプラスとなっているのです。それを補助金を加えたことで大幅に利益が増えたように見せかけているとしか言いようがありません。
事業収益が伸び悩み、その反面人員不足等で給与等費用が減少したために利益が出たということです。

費用の減少は更に分析をしてみなければなりませんが、気になるのは給与額が令和3年度に月額平均2,202円に対して令和4年度は2,175千円と減少していることです。

結論を言えば収益は減少したが、人件費の削減と事業外の補助金等で利益が出たことになります。これは介護報酬を減額する理由にはなりません。厚労省の数字のマジックで強引に介護報酬の削減しようとしているのではないでしょうか。

訪問介護収支差年次比較
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上野千鶴子氏 上野千鶴子氏が「国が言わない引き下げの狙い」として、国は身体介護だけを残して、生活援助は介護保険から外そうとしているのではないかと指摘されています。確かにそれも一つの狙いでしょうが、それだけではないと考えます。生活介護の切り捨ては以前から何度も出てきた内容ですが、今回の訪問介護の引き下げの最大の狙いは更に踏み込んで、徐々に大手事業者への依存度を高めるための序章ではなかったのかと思わざるを得ません。   

全国に多く存在する小規模事業者を大手に統合させる、介護事業の再編が狙いではないのでしょうか。   ・・・・・・・・・・・・・・・・・   
訪問介護の基本報酬減額は「問題だらけ」 上野千鶴子さん「国が言わない引き下げの狙い」指摘  AERA 2024.4.22   
 訪問介護の基本報酬が、今年4月から引き下げられた。「驚天動地でした」と語るのは東京大学名誉教授の上野千鶴子さんだ。マイナス改定は「問題だらけ」だと指摘する。AERA 2024年4月22日号より。   
 引き下げの狙いについて、国ははっきりと言いません。しかし恐らく、二本立てにしている訪問介護のうち、排泄や入浴介助などの「身体介護」を残して、掃除や洗濯などの「生活援助」を切り離したいと考えているのでしょう。そして生活援助は、介護保険外のボランティアや家事サービス代行業などに頼みなさい、と。介護保険は自治体の監督下にあり、監査が入って質のチェックがされます。ところが、保険外となると野放しで事故や高齢者の虐待が起きるでしょう。問題だらけです。
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逢坂誠二氏訪問介護報酬改定について














衆議院議員の逢坂誠二氏の意見に全く賛成です。色々な方面から今回の訪問介護報酬が引き下げられることに疑義が出されています。その動きは更に大きなうねりになっていく予感がします。 兎に角逢坂代議士が言っているように、根拠が不明確なのです。   

それはこれまで私が厚労省のデータを解析しながら説明をしましたように、引き下げの根拠となるものはどこにもないのです。

2024年01月25日無尽灯ブログ「 何故訪問系の介護報酬は引き下げられるのか?訪問系介護事業は儲かってはいない。厚労省の数字のマジックである。」


そして、厚労省が不誠実なのは、収益が改善したという分析内容を公表もしないのですから、生活保護引き下げ同様にデータを良いように解釈して、引き下げたとしか言いようがありません。恐らくこれまで同様に政府への忖度としか言いようがありません。なぜならきちんとした厚労省の説明がないのですから。    

この状況に全国から疑義が寄せられ不満が増長しています。このままで中小の訪問介護事業者が撤退し、国の思惑通りの大手集約という方向に進まざるを得ないでしょう。それで、全国の高齢者介護が成り立つという誤った認識を国は持っているとしか考えようがありません。

誤りはどんなことがあっても正さねばなりません。国は介護保険制度そのものをきちんとした説明無くして大きく変えようとしています。岸田政権は不誠実です。
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徒然日記 訪問介護はどうなる/逢坂誠二  
 訪問介護はどうなる 今年の介護報酬の改定について、厚労省からは、職員の賃上げなどのためプラス1.59%で、国費ベースで432億円の増と説明を受けています。 一方、訪問介護の基本報酬は軒並みマイナスです。 その根拠として、2022年決算の「経営実態調査」で、訪問介護の利益率が全体で7.8%となり、全サービス平均の2.4%%を上回ったと説明を受けました。 説明を受けた瞬間に、これは違うと直感的に感じたのですが、厚労省はそれ以上深い説明は行いませんでした。  

訪問介護事業所ごとに収益に差があり、7.8%は単なる平均、事業所ごとのバラツキを示していない、これが私の直感でした。調査データを正しく理解せず、平均値7.8%だけで、訪問介護報酬の引き下げを判断した厚労省の罪は深いと思います。

厚労省は生データを知っているはずですから、赤字事業所が多いことは知っていたはずです。それにも関わらず、今回の引き下げを判断したとすれば、在宅介護の崩壊を望んでいるとしか思われません。
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介護事業経営実態調査懐疑的














22年の介護収益が対前年2.4%アップしているので、引き下げるという理由だけで、皆さんどうしてその数字を鵜呑みにしてしまうのか、全く不思議です。   

前にもこのブログで書きましたように、収入的にはただ単に、前年と比較して補助金がアップしたのであり、本体の介護報酬は減、そして人件費が人手不足で下がったことが原因で利益があがったということだけで本格的に介護事業収益が上がっているわけではないのです。   

居宅系介護施設で併設する訪問介護の効率が良いからというだけではありません。その裏付けとなるようなデータに基づく説明は一切ありません。もっとしっかりと精査する必要があるのですが、それ以上の追及はありません。   

参考ブログ

http://ll-support.blog.jp/archives/5853520.html   

生活保護費引き下げでは政府に忖度する官僚が誤った数字を使ってやったという判決が過半数を占めているように、数字に対して我々はもっとシビア―にならなければなりません。このまま手をこまねいていては介護は衰退するばかりです。政府の狙いはもっと違うところにあることを見抜かねばなりません。   
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岸田首相進める介護報酬改定で「訪問ヘルパー、もう呼べない…」在宅介護で破産急増の悪夢!  YAHOOニュース 2024.2.29  
 経営的に厳しい状況で仕事をしている小規模訪問介護事業者にとって死活問題です」   
“訪問介護崩壊”への警鐘を鳴らすのは、介護事業者『NPOわかば』(世田谷区)理事長の辻本きく夫さんだ。

6月からの改訂で、特別養護老人ホームや老健の介護報酬が増額されるにもかかわらず、在宅介護に欠かせない訪問介護の介護報酬が減額となった。   

「その背景には、7.8%という高い収益率があったからです。しかし、そこには同じ建物に多くの利用者がいて、移動時間などなく効率的に生活援助できるサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)が訪問介護に含まれていることも要因の一つと見られています」(全国紙記者)   

辻本さんは“収益率7.8%”という数字をはじきだした介護事業経営実態調査に懐疑的だ。 収益率がこれほど高ければ、人員不足や経営難に陥ることはないはずですが、周囲を見渡してもそんな余裕のある経営をしている事業者はありません」
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特養は淘汰される














 従来型特別養護老人ホームは従来型(相部屋型)は48.1%が赤字、ユニット型では34.5%が赤字。赤字が拡大しているので介護報酬を上げる。当然のように聞こえるが、特養の経営の問題点について誰も触れない。 只、赤字施設は利用率が低く、収益が確保できていない一方、従事者 1 人当たり人件費が高いと結論付けている。しかし、これは全ての施設について当てはまるものではない。黒字施設と比較してみるとそれは特養全体に言えるのではない。ユニット型の黒字施設は平均8.3%もの利益を出しているのである。   
従来型とユニット型の収益差推移


















 特養の置かれている本質的問題点には誰も踏み込まない。赤字施設の割合はユニット型より従来型の方が多い。意外であった。逆かと思ったが、従来型の相部屋タイプの方が料金の高いユニット型よりも赤字割合が高いのである。   

 その理由は稼働率についてはほぼ同様、当然赤字施設はどちらも稼働率が91%程度と低い。大きく異なるのは一人当たりの利用者単価である。ユニット型の方が多い。
人件費比率は赤字施設ではどちらもほぼ70%程度となっており、黒字施設の60%程度からは大きな差がある。
利用者10人当たりの従業員数はユニット型の方が従来型よりも多い反面、従事者一人当たり人件費は従来型の方が高い。
2021,2022年度の特養の経営状況
















  

 以上を総括してみれば、ユニット型でも一人当たりの利用者単価が高く、人件費を抑えているところは8.3%もの利益を出しているのである。従来型でも一人当たりの利用者単価はユニット型よりも低くとも、古い建物で減価償却費が低く、利用者10人当たりの従業員数を押さえているところは人件費率も62%と抑えられ、結果としては5.7%の利益を出しているのである。
特養の経営分析   














 要は赤字が拡大している最大の要因は、報酬の問題よりも経営の問題に依存する部分が大きいのではないかと考える。入居率を高くして、一人当たりの利用者単価を確保し、相当の人員で運営をすれば一定の利益のでる構造はつくれるのではないかと思われる。   

 今回の介護報酬改定で従来型の赤字施設が約半数にまでになったというのは、前年に対して利用率が低下しているにも関わらず、従業員一人当たりの人件費が上昇し、併せて1施設当たりの水道光熱費が上がったことである。1施設当たりの水道光熱費の上昇はユニット型とほぼ同じであるので、最大の問題は稼働率と人件費のコントロールが出来ていないことによると判断される。   
 やはり経営問題なのである。にもかかわらず、介護報酬改定で何とかしようというのは団体の圧力に他ならない。このままでは居住系高齢者施設に淘汰される時代が来る。
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従来型特別養護老人ホーム48.1%が赤字 福祉医療機構調べ 
ケアマネドットコムニュース 厚生政策情報センター2024.2.16   
 2022年度 特別養護老人ホームの経営状況について(2/7)《福祉医療機構》が報告された。そのポイントは次の通り。
サービス活動増減差額比率が低下、従来型は半数近くの施設で赤字
➢ 2022 年度の経営状況  
✓ 利用率の低下および水道光熱費の増加によりサービス活動増減差額比率が低下。赤字施設割合も   従来型は 48.1%、ユニット型は 34.5%に拡大  
✓ 水道光熱費率が 8%以上の施設は、赤字施設割合が過半数を占める
➢ 定員規模別、黒字・赤字施設別の経営状況  
✓ 定員規模が大きいほどサービス活動増減差額比率は高い傾向  
✓ 赤字施設は利用率が低く、収益が確保できていない一方、従事者 1 人当たり人件費が高い
2022 年度 特別養護老人ホームの経営状況について《福祉医療機構》
 福祉医療機構は、従来型の特別養護老人ホーム1,856施設の半数近くの48.1%が2022年度決算で赤字だったとするリサーチレポートをまとめた。

 1施設当たりの利用率が「特養入所」「短期入所」の双方で下がる一方、収入に占める水道光熱費の割合は上昇し、本業の利益率に当たる「サービス活動増減差額比率」が低下した。 特養の経営では近年、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどとの競合も激化しているといい、報告では「他施設との差別化を進めて利用率や利用者単価の上昇につなげられるかがこれからのカギになる」としている。

 リサーチレポートでは、融資先の従来型特養1,856施設から報告があった22年度決算のデータを使い、経営状況を分析した。 その結果、1施設当たりの入所待機登録者数は21年度(1,756施設)から16.5人減少し、16年度以降で最低の111.1人だった。「特養入所」の定員に対する利用率は92.7%で、0.9ポイントのダウン。「短期入所」の利用率(77.8%)も1.9ポイント低下した。一方、1年間の延べ利用者1人当たりの収入に当たる「利用者単価」は1万2,787円(381円増)、スタッフ1人当たりの収入は685.2万円(7.3万円増)と共に増えていた。

これに対し、費用では収入に占める人件費率(65.7%)が0.2ポイントダウンしたが、経費率は1.2ポイント上昇し、29.5%だった。中でも、水道光熱費率は1.1ポイント上昇し、収入の6.0%を占めている。 本業の利益率に当たるサービス活動増減差額比率は、21年度から逆に1.1ポイント下がり、22年度はプラス0.3%だった。 従来型特養のサービス活動増減差額比率は、17-20年度にはプラス2%台後半で推移していたが、21年度にはプラス1.4%と1ポイント超下がった。22年度には、黒字幅がさらに縮小したことになる。

赤字施設の割合は、20年度の35.2%から21年度には42.0%に上昇し、22年度は48.1%と半数に迫った。 赤字施設の割合は水道光熱費率が高い区分ほど拡大し、「水道光熱費率8%以上」では189施設の57.7%が赤字だった。報告では、物価高騰に伴う電気・ガス料金の値上げが特養の経営に影響を与えたと言及している。
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